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スタートヽ(*^ω^*)ノ
久しぶりの外出だった。
人混みが苦手なレトルトにとって、それはちょっとした冒険。
けれど今日は、胸の奥に澱のように沈んでいた不安を晴らしたくて、ふらりと街へ出た。
陽射しは柔らかく、少し風が冷たい。
目まぐるしく動く日常のなかに、レトルトだけが取り残されたようで、
歩くたびに自分が透明になっていく気がした。
そんなときだった。
――視線が、ふと吸い寄せられた。
「あっ……」
人混みの向こう、まるでスポットライトでも当たっているかのように、
そこだけが特別に見えた。
キヨだった。
髪が風に揺れて、立ち姿は自信に満ちていて、
けれどどこか、寂しそうな姿だった。
遠くにいるのに、すぐそばにいるみたいだった。
目が合ったわけじゃない。
声をかけたわけでもない。
それでもレトルトの胸は、ドクン、ドクンと痛いほどに跳ねた。
こんなにたくさん人がいるのに。
一度も会ったことないのに。
一瞬で、わかった
「キヨくんだ!」
足がすくんだ。
逃げたいのか、追いかけたいのか、わからなかった。
でも、心はもう――止められなかった。
震える足は自然とキヨの方へと向かっていた。
つづく