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第9話: 【家電】家電で魔法を発動してみた【EDM】
村の朝は、もう静かではなかった。
桶が褒める。
リクが叩く。
マヒロが歌う。
レンの玩具がぴっと鳴る。
川辺ではダイチが水で乾杯している。
ひなたの人形は転がるたびに増える。
カイの木槌は、ときどき眠そうな音を立てる。
ナギは広場の端に座り、スマホを見ていた。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
古い家電
EDM作曲
音源収集
ナギは画面を見つめた。
「家電……」
リクが反応した。
「音系っすね」
マヒロも顔を上げる。
「作曲?」
レンが玩具太鼓を抱える。
「玩具音も使えるかな」
ロッカはすでに嫌そうな顔をしていた。
「大きい音はやめろ」
リクが目をそらす。
「それは約束できないっす」
「約束しろ」
ナギは苦笑した。
「次の人、まだ来てないのに怒られてる」
その時。
村の外から、妙な音が聞こえた。
ぶうん。
かち。
じじじ。
きゅるる。
ぽん。
音が重なっていた。
楽器ではない。
歌でもない。
川でもない。
玩具でもない。
古い機械が、眠りながら夢を見ているような音。
リクの目が輝く。
「いい音っす」
ロッカが耳を押さえる。
「嫌な予感しかしない」
ナギは立ち上がった。
「行こう」
村の門を抜けると、道の真ん中に人がいた。
長めの茶色の髪を後ろで結んでいる。
灰色の上着。
茶色の腰袋。
背中には部品だらけのリュック。
足元には、見たことのない古い家電のような物が転がっていた。
小さな扇風機。
古いラジカセ。
丸い炊飯器のような箱。
ボタンが多すぎる謎の機械。
画面が割れた小型テレビのような物。
その人は、地面に座り込んで、それらに耳を近づけていた。
「……いい」
ナギは足を止める。
「第一声がまた独特」
その人は、割れたテレビの横を指で叩いた。
かん。
次にラジカセのボタンを押す。
がちゃ。
扇風機の羽が少し回る。
ぶうん。
それらの音を、小さな録音機に入れていく。
「いい。ここ、電源なくても鳴る。異世界、優秀」
ロッカが短剣に手をかけた。
「お前は何者だ」
その人は顔を上げた。
目の下に疲れた影がある。
でも、目だけはやけに明るい。
「家鳴ソウマ。古い家電の音だけでEDM作ってるUP主です」
ナギはうなずいた。
「また濃い人が来た」
ソウマはナギのスマホを見た。
「転生タイムライン?」
「知ってるのか」
「さっき見た。見たら落ちた。落ちたら家電が鳴った。なら録るしかない」
「適応が早い」
「音があるなら、録る」
リクが前に出る。
「分かるっす」
ソウマとリクの目が合った。
数秒。
二人は、同時にうなずいた。
ナギは小さく言った。
「音の人同士、通じ合った」
マヒロが笑う。
「私も混ざれる?」
ソウマはマヒロのマイクを見た。
「声も素材」
マヒロは目を輝かせた。
「素材って言われた」
ロッカが一歩下がる。
「嫌な集まり方をしている」
スマホが震えた。
能力名
レトロ家電EDM
効果
古い家電の動作音を重ね、巨大魔法を発動する。
補正
音源の古さ。
故障音の味。
曲の盛り上がり。
周囲の音との同期。
注意
盛り上がりすぎると、魔法の規模が拡大する。
ナギは顔をしかめた。
「また注意欄が怖いやつ」
ソウマは画面を見て、少しだけ笑った。
「故障音の味、分かってる」
「そこじゃない」
リクは感動した顔をしている。
「故障音の味、いいっすね」
「そこでもない」
ミレナが帳面を開いた。
「古い家電の音を魔法化。音源の性質によって効果が変化する可能性。本人は危機感より録音意欲が高い」
ソウマはうなずく。
「合ってる」
ロッカがため息をついた。
「合ってるのか」
ソウマは村へ入ると、すぐにあちこちの音を探し始めた。
桶の声。
教官車の警告音。
リクの洗面器。
マヒロのマイク。
カイの木槌。
ダイチの小鍋。
ひなたの人形が転がる音。
レンの玩具太鼓。
それらを聞くたびに、ソウマは小さくうなずいた。
「素材が多い」
ナギは言う。
「家電以外も入れるのか?」
「主役は家電。周りは飾り」
リクが胸を張った。
「飾りでも鳴ります」
マヒロも笑った。
「飾りでも歌います」
レンが玩具太鼓を抱えた。
「飾りでも走れます」
ロッカは眉を寄せる。
「走る飾りは危ない」
教官車が、ぴ、と鳴った。
ナギは肩をすくめた。
村の広場に、家電が並べられた。
扇風機。
ラジカセ。
古い炊飯器。
割れた小型テレビ。
謎のタイマー。
小さな掃除機。
音の出る古い電話。
どこから出てきたのか分からない。
ソウマのリュックから出てきた物もあれば、能力で現れた物もある。
どれも古く、へこんでいて、傷があった。
けれど、ソウマは一つずつ丁寧に置いた。
まるで、楽団を並べているみたいだった。
ひなたが子ども達に言う。
「近づきすぎないでね。大きい音がしたら耳をふさごうね」
ダイチが水の入った桶を用意する。
「熱くなるなら冷やす」
カイは音が響きすぎないように、広場の壁を少し変えた。
「反響、弱める」
ソウマがカイを見る。
「いや、少し響かせたい」
カイは少し考える。
「安全な範囲で響かせる」
「助かる」
ロッカが言った。
「安全な範囲を越えたら止める」
ソウマはうなずく。
「止め役、大事」
ナギは少し驚いた。
「意外と分かってる」
ソウマは録音機を握った。
「音は暴れる。だから、閉じ込める場所がいる」
その言葉に、リクが真剣な顔になった。
「分かるっす」
ソウマはラジカセのボタンを押した。
がちゃ。
古い音。
次に扇風機。
ぶううん。
羽は少し歪んでいて、回るたびに音が揺れる。
炊飯器のふた。
ぽん。
タイマー。
ちちちちち。
掃除機。
ぶお。
小型テレビ。
じじじじ。
ソウマは目を閉じ、それぞれの音を聞いた。
「いける」
リクが木箱を叩く。
とん。
ソウマが手を上げる。
「まだ」
リクは止まった。
「すみません」
ソウマは小さく笑う。
「後で入って」
リクの顔が輝く。
「はいっす」
ソウマは足でリズムを取る。
ちちちち。
ぶうん。
がちゃ。
ぽん。
じじじ。
音が少しずつ重なる。
最初はばらばらだった。
壊れかけの音。
古い音。
不安定な音。
でも、ソウマが手を動かすたび、それらが少しずつ並んでいく。
ちちちち。
ぶうん。
がちゃ。
ぽん。
ちちちち。
ぶうん。
がちゃ。
ぽん。
リズムが生まれる。
リクがそっと木箱を足す。
とん。
マヒロが短い声を入れる。
はっ。
レンの玩具太鼓が鳴る。
ぽこ。
桶が言う。
「今日もえらい!」
ソウマが目を開けた。
「それ、使う」
桶が自慢げに言った。
「使われてえらい!」
音が重なった。
村人達が広場に集まる。
子ども達はひなたの後ろから見ている。
ロッカは警戒しながらも、足で拍を取っている。
ミレナは書く手を止めずに聞いている。
カイは反響する壁を調整する。
ダイチは木製カップを揺らしてリズムに乗る。
ソウマの周りに、紫と水色の光が細く走った。
音が魔法になり始めていた。
ナギはスマホを見る。
レトロ家電EDM
発動準備中。
曲の盛り上がり
上昇。
ナギはつぶやく。
「これ、どこまで上がるんだ」
その時、見張り台からロッカが鋭く叫んだ。
「森!」
音が止まりかける。
森の奥から、何かが来ていた。
影が大きい。
地面が揺れる。
木が倒れる音。
ロッカが短剣を抜く。
「魔物だ。大きい」
村人達がざわつく。
カイがすぐに壁を組み替える。
ダイチが子ども達を川辺の安全地帯へ誘導する。
ひなたが布人形で落ち着かせる。
マヒロがマイクを握る。
リクが洗面器を構える。
レンが教官車を地面に置く。
ソウマは家電の前に立ったまま、森を見た。
ナギが言う。
「逃げるか?」
ソウマは首を振った。
「音源がそろった」
「今それ言う?」
「ここで鳴らす」
森から現れた魔物は、岩のような体をしていた。
四本足。
背中に硬い突起。
頭は低く、目は小さい。
歩くだけで地面が沈む。
ロッカが言う。
「正面からは止められない」
カイが壁を見た。
「防壁が削られる」
リクが洗面器を握る。
「音で押せるか分からないっす」
マヒロが息を吸う。
「歌で動きを鈍らせる」
レンが操作機を構える。
「玩具で誘導します」
ダイチが水の流れを見る。
「川へ落とすのは危ない。流れが荒れる」
ナギはスマホを握る。
「じゃあ、止めるしかない」
ソウマは静かに言った。
「止めるんじゃない」
ラジカセのボタンに指を置く。
「踊らせる」
ナギは目を丸くした。
「岩みたいな魔物を?」
ソウマはうなずく。
「低音で足をずらす。高音で向きを変える。ノイズで意識を散らす。最後に落とす」
「何を」
「巨大魔法」
魔物が走り出した。
地面が鳴る。
ソウマがラジカセを押した。
がちゃ。
扇風機が回る。
ぶううん。
タイマーが刻む。
ちちちちち。
掃除機が唸る。
ぶおお。
テレビが鳴る。
じじじじ。
音が一気に広がった。
リクが合わせる。
どん。
とん。
かん。
マヒロが声を重ねる。
レンの玩具太鼓が鳴る。
教官車がぴっと警告音を出す。
桶が叫ぶ。
「安全第一!」
名札も遠くで叫ぶ。
「守ります!」
ソウマは両手を広げた。
古い家電達が震える。
音が線になり、広場の上で輪になる。
魔物の足が、少しずれた。
ロッカが叫ぶ。
「効いてる!」
ソウマは表情を変えない。
「まだ」
魔物がまた踏み込む。
どん。
ソウマはテレビを叩く。
じじじじじ。
音が魔物の頭上で弾ける。
魔物が首を振る。
リクが低音を足す。
どん。
魔物の足元がずれる。
レンのミニカーが走る。
魔物の前を横切る。
教官車がぴっと鳴る。
この先、低音注意。
ナギは思わず言った。
「教官車、家電にも対応するのか」
レンは真剣に操作する。
「教育熱心なので」
「そういうこと?」
魔物は苛立ち、突進した。
ソウマの目が細くなる。
「ナギ」
「何?」
「変な補助、できる?」
「俺への注文、みんな雑になってきたな」
ナギは息を吸った。
お題。
古い家電EDMが巨大魔法になる時、一番大事なものとは。
古さ。
音。
壊れかけ。
踊らせる。
ナギは叫んだ。
「お題! 古い家電が最後の力で鳴る理由とは!」
魔物が迫る。
ナギは答えた。
「まだ捨てられてないって、音で証明したかった!」
古い家電達が、一斉に光った。
扇風機の羽が強く回る。
ラジカセのボタンが震える。
テレビのノイズが広がる。
炊飯器のふたが、ぽんぽん鳴る。
掃除機が低く唸る。
ソウマの顔が変わった。
「いい答え」
音が太くなる。
ただの雑音ではない。
壊れた音でもない。
残っていた音。
使われてきた時間の音。
忘れられかけても、まだ鳴れる音。
それが重なって、巨大な波になる。
ソウマは両手を振り下ろした。
「レトロ家電EDM」
音が爆発した。
紫と水色の光が、地面から立ち上がる。
巨大な魔法陣のような輪が、広場を囲む。
でも、それは文字ではなく、音の輪だった。
ちちちち。
ぶうん。
がちゃ。
ぽん。
じじじ。
どん。
とん。
しゃん。
ぴ。
全部の音が、一つの曲になる。
魔物の足が止まった。
止まったのではない。
リズムに合わせてしまった。
一歩。
二歩。
向きを変える。
岩のような体が、ぎこちなく揺れる。
村人達がぽかんとする。
マヒロが笑いをこらえきれない。
「踊ってる」
リクは感動して叫ぶ。
「踊ってるっす!」
ロッカは真剣な顔で言う。
「笑うな。危険だ」
桶が言った。
「踊っててえらい!」
ロッカは顔を伏せた。
ナギは笑いながらも、スマホを見た。
巨大魔法
発動中。
効果
対象の動きを音に同期。
攻撃方向を変換。
ソウマは汗を流しながら、さらに音を重ねる。
「カイ、出口」
カイが即座に木槌を振る。
こん。
魔物の進む先に、森へ戻るための広い道が作られる。
「ダイチ、水場に行かせないで」
ダイチが川辺の足場を塞ぐ。
「任せろ」
「リク、低音」
「了解っす!」
「マヒロ、声で上げて」
「いくよ!」
「レン、誘導」
「相棒、出番!」
「ひなた、子ども達」
「大丈夫、見せすぎないようにするね」
それぞれが動く。
音が村を包む。
魔物は音に合わせて、森のほうへ進む。
攻撃ではない。
追い払うでもない。
踊らせながら、帰らせる。
ナギはその光景を見て、思わずつぶやいた。
「何だこれ」
ミレナが横で書きながら言う。
「巨大魔法」
「説明としては合ってるけど、絵面が強すぎる」
最後の音が近づく。
ソウマは古い電話を持ち上げた。
ベルが鳴る。
りりりりり。
その音が、曲の最後に刺さる。
魔物がぴたりと止まった。
森の入口。
ソウマが静かに言う。
「終電です。お帰りください」
ナギはすぐに乗った。
「お題! 帰り際の魔物が妙に素直だった理由とは!」
答える。
「いい曲を聞いた後だったから!」
魔物は、ゆっくり森の奥へ戻っていった。
最後に一度だけ振り返る。
そして、少しだけ頭を下げたように見えた。
桶が言った。
「帰れてえらい!」
森が静かになった。
広場に残ったのは、古い家電の余韻だけだった。
ソウマはその場に座り込んだ。
リクが駆け寄る。
「すごかったっす!」
ソウマは息を整えながら言った。
「録音できた?」
「たぶん転生タイムラインが」
ナギがスマホを見る。
すでに投稿が始まっていた。
映像には、ソウマが古い家電を並べる姿。
村の音を重ねる姿。
魔物を音に同期させ、巨大魔法で森へ帰す姿が映っていた。
コメント欄が流れる。
「家鳴ソウマだ!」
「古い家電で異世界魔法作ってる」
「テレビノイズの入り方えぐい」
「炊飯器のぽんが効いてる」
「魔物踊らせるな」
「ナギの捨てられてない大喜利、ちょっと泣ける」
「桶まで音源になってて草」
ソウマは画面を見つめた。
コメントが続く。
「そのラジカセ、前の動画に出てたやつ?」
「まだ鳴っててよかった」
「帰ってきたら新曲待ってる」
「音、届いてるぞ」
ソウマは古いラジカセに触れた。
「届いてるなら、いい」
ナギはその横顔を見た。
ソウマは派手に喜ばなかった。
叫びもしなかった。
ただ、古い家電を一つずつ確かめていた。
動いたか。
熱くなりすぎていないか。
壊れていないか。
まだ鳴るか。
レンが小さく言う。
「玩具の片付けと似てる」
ソウマは顔を上げる。
「音源は大事にする」
レンはうなずいた。
「分かります」
夕方。
村の広場には、新しい小屋ができた。
カイが作った、音源小屋。
中には、古い家電が並べられている。
リクの打楽器。
レンの玩具楽器。
マヒロの練習用の場所。
ソウマの録音台。
桶専用の置き場まであった。
桶はそこに置かれて言った。
「配置されてえらい!」
ロッカが腕を組む。
「桶専用の置き場が必要なのか」
ソウマは真顔で答える。
「必要。声がいい」
桶が得意げに言った。
「声がよくてえらい!」
ナギは笑った。
リクが洗面器を叩く。
とん。
ソウマがラジカセのボタンを押す。
がちゃ。
マヒロが短く声を入れる。
はっ。
レンの玩具太鼓が鳴る。
ぽこ。
ダイチの小鍋が小さく鳴る。
こん。
ひなたの人形が転がる。
ぽふ。
カイの木槌が最後に鳴る。
こん。
村の音が、また一つ増えた。
夜になると、音源小屋から小さな曲が流れた。
大きすぎない。
眠る子ども達を起こさない。
見張り台のロッカが嫌がらない程度。
桶が時々合いの手を入れる程度。
ナギは広場でスマホを開く。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
猟
釣り
料理
情報量、多
ナギは画面を見つめた。
「次、情報量多いって書かれてる」
ミレナが反応する。
「気になる」
リクが笑う。
「音は出ますかね」
ダイチが川を見た。
「釣りなら川だな」
ひなたが少し真面目な顔になる。
「命を扱う人だね」
ロッカは短剣を確認した。
「役には立ちそうだ」
マヒロが首をかしげる。
「でも情報量多いって何?」
ナギは深く息を吐いた。
「たぶん、めちゃくちゃしゃべる」
桶が言った。
「しゃべれてえらい!」
ソウマは古いラジカセを撫でながら、小さく言った。
「声も音源」
ナギは笑った。
「また録る気だ」
転生タイムラインは、次の投稿を準備している。
好きなことで、生きていく。
古い家電の音も。
壊れかけのノイズも。
誰かに忘れられかけた道具も。
この世界では、巨大魔法になる。
ナギは音源小屋から流れる曲を聞きながら、次のお題を考え始めた。
コメント
1件
よかったなあ……第9話、めちゃくちゃ爽快でした。 ソウマの「壊れかけの音を大事にする感じ」と、リクたちが「飾りでも鳴る」って名乗るシーン、じんと来ましたね。家電を楽団みたいに並べる描写、世界観にすごく合ってる。ナギの「捨てられてないって音で証明したかった」っていうお題返し、あれで全部の音が報われた気がしました。 それにしても、この村、また一つ変な音源が増えたな……(笑) 次は「情報量多い」転生者かあ。また楽しみです。
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しめさば
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