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最強への道はまだ終わっていない。少なくともこの街においてはあのレオを超えるまでは。
カランカランと鳴らして店に入る。
「遅かったな。てっきり仕事なぞほったらかして来るかと思っていたが」
仁王立ちのレオとその足元にいつかの狐っ子。いま見るとこの2人ペアルックだ。
「卒業試験はゴリラの魔獣だよっ。まさかお兄ちゃん、師匠と本気で殴りあった果てにレオに辛勝して『よくやったな、これからはお前が最強だ』なんて言われるような、汗くさい青春ストーリーみたいなエンディングを期待していたわけじゃないよねっ? 残念、相手は冒険者が尻尾巻いて逃げ出す魔獣との肉弾戦一騎討ちですっ!」
狐っ子のいきなりの長台詞はついこの間ダリルに絵本をねだっていたとは思えない、そんな俺への煽りだった。
目撃があったのは俺がここしばらく通っていた森で、その外周に近いところだ。
ここまでまた走ってきたわけだが、新しい発見があった。これまでとは格段に速く、だからと言って脚を高速で回しているわけじゃない。歩幅が違う、前へと進む推進力が違う。それはあのエルフのようで、これが魔力を扱える感覚なのだとあの時の驚きに納得がいった。
レオとともに森を掻き分け、いつかのオブジェだらけの芸術広場に出てきた。いまはそれらは回収されていて、その穴もほとんど綺麗に埋められている。
「ガオオオォォォッ」
隣で叫ぶレオがとうとう野生に目覚めたのかと思ったら「あとはお主の仕事だ」とそう言い残しすっと去っていった。
程なくして広場に魔獣が登場した。報告にあったよりデカく、4mにも届こうかと言う体躯、ボサボサに逆立った毛並みは白と黒のストライプ。魔力を帯びてたまに白が紫に揺らめく。俺の腰回りほどもあろうかと言う腕。こいつが猿アタマ、狐っ子のいうゴリラの魔獣。対峙してみるとまるで親子ほどの体格差。
怖い。恐ろしくて今にも逃げ出したい。こんな生物がこれまで見つからず森でどうやって生きてきたのか。魔獣に見つかれば命はないと言われる通り、逃げられるビジョンなど浮かばない。俺は手ぶらで、この身ひとつで立ち向かうしかない。なんて理不尽。なんて不条理。
レオとの組み合いの中で闘いの仕方を身につけた。お上品な流派や型などと言ったものではないが、相手は魔獣だ。つまりレオのあのスタイルは魔獣を相手どってきた歴戦の証。それはまだ少しとはいえ俺の身体に受け継がれている。
力強く構える。目が覚めたとき鏡に見た自分の姿、ここまで走ってきて感じたその異変。正直……試してみたい。
「こい、俺の踏み台となるために」