「ミーナ、ずいぶんとらしくなってきたな」
桃色の毛をした狐っ子はえへへと照れながら
「おかげさまでねっ。まだ小さいけどそれでもほとんど元通りだよっ。ビリーくんともまた居られるし……ありがとねっ」
膝の上のミーナの頭を撫でながらダリルの穏やかな時が流れる。
ふとミーナが顔を上げる。
「ダリル。時間はこれから、ゴリラと同じ場所のようだねっ」
ミーナは膝から下りてそう声を掛ける。
ダリルはため息をつきながら、飲みかけのコーヒーの入ったカップを飲み干す。
「走って行くの? 筋肉フェスティバルに参加表明っ?」
ダリルはコートを羽織り
「走って行くとか馬鹿らしい。いつものようにバイコーンで行く」
「いってらっしゃいっ! お店は任せてねっ!」
筋肉フェスティバルの会場では汗が飛び散る男臭い熱気が周辺の獣たちを近づけさせない。木々は倒され、茂みは根こそぎ吹き飛び、整地でもしているかのようになっている。
魔獣とジョイスのやり取りは、さんざん繰り返されたレオとの闘いをなぞるかのよう。殴られれば殴り返し、蹴られれば蹴り返す。時には掴んだり投げ飛ばしたり。お互いに一歩も引かぬ攻防。
2体の雄は気づいていないが、少し離れた木の上には闘いを見守る金髪の姿がある。その手にはいつものように弓を持って。
手の内はお互い晒してしまっている。と言うより殴り合うより能のない両者には身体的特徴と魔獣にはその牙での噛みつきがあるくらいか。つまり魔獣の方が有利だと見える。
その魔獣が猛々しく吠えて、体毛を紫に染めあげる。
これが本気。そう言わんばかりのプレッシャー。
「ダメそう……これではあまりにも……」
自身もそうであるが元から魔力を使いこなす魔獣についこの間に目覚めたばかりの半端者が真っ向から敵うとは思えない。
エルフはおもむろに弓に矢をつがえる。
気を逸らすだけでも出来ればあるいは──。
そう思う彼女の肩に手を乗せる男。
いつの間にとは言わない。こういう者たちなのだ、彼らは。
「まだだ、ヤツはもう一皮むけるぞ」
レオがそう言うならそうなのだろう。エルフは矢をしまって観戦に努める。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
俺の踏み台! ずいぶんと気配がデカくなってくれたが、少し超えるのが手間取るだけだ。すでに俺が勝つのは──。
「決定事項なんだよっ!」
グルグル唸っているだけのゴリラのボディーに渾身のハンマーパンチがめり込む。
確かな手応えを掴んだはずの俺の左頬をゴリラの平手が見舞う。
脳が揺れるような衝撃に意識が飛びそうになる。
両手を握って上から振り下ろされたゴリラの拳は俺を地面に這いつくばらせ、腰から持ち上げられて再び地面に叩きつけられる。