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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第11話:シロのためのキャットタワー作り(木材切断編)
北海道十勝地方。見渡す限りの大平原に、春の穏やかな風が吹き抜ける午後。
俺は古民家の裏手にある薄暗い納屋から、ホコリを被った立派な廃材を何本も縁側へと運び出していた。
「ふぅ……こんなもんかな」
額の汗を拭い、積まれた木材を見下ろす。
以前の住人が残していったものだろう。かなり年季が入っているが、腐っている様子はなく、むしろ乾燥してカチカチに締まった見事な無垢材だった。
「お兄さーん! 準備できましたよー!」
縁側の端では、すでにジンバル(手ブレ補正機材)にスマホをセットした小春ちゃんが、カメラに向かって元気よく手を振っていた。
今日は高校が振替休日らしく、昼過ぎから遊びに来てくれているのだ。昨日から【日常チャンネル】の専属カメラマン兼コメント読み上げ係に就任した彼女は、すっかり板についた様子で配信のオープニングを回している。
『はーい皆さん、こんにちは! 今日も北の大地から、世界最高峰の癒やしをお届けします!』
小春ちゃんの春風のような声が響くと同時に、同接(同時接続者数)のカウンターが凄まじい勢いで跳ね上がり始めた。
配信開始から数分で、あっという間に4万人を突破。平日の昼下がりだというのに、時差のある海外勢や、日本で仕事をサボっている人間がどれだけいるんだと小首を傾げたくなる。
『待機してたぞおおお!』
『小春ちゃんの声で今日の仕事の疲れが半分消えた』
『で、残りの半分はシロ様で消すんですねわかります』
『今日も石油王はいるのか?』
「あはは、皆勤賞ありがとうございます! えーっと、今日はですね、お兄さんが納屋から木材を引っ張り出してきました! お兄さん、何を作るんですか?」
カメラがぐるりと回り、作業用の軍手をはめた俺の姿を映し出す。
俺はコホンと一つ咳払いをし、コールセンターで鍛え上げた深夜ラジオDJのような落ち着いた低音ボイスで答えた。
「今日は、シロのために『キャットタワー』を自作しようと思います。せっかく立派な廃材があるので、DIYというやつですね」
『おおお! DIY配信!』
『主のイケボで解説されるDIY、なんか教育番組みたいで良き』
『シロ様のための神殿(キャットタワー)建設か!』
『負けないぞおおお!』
『(ドバイの石油王からの¥10,000ギフト)=”If you need, I can send top-class carpenters from Dubai.“(必要ならドバイから一流の宮大工を派遣しよう)』
「あ、石油王さん、宮大工はいりませんよ! 手作りすることに意味があるんですから!」
小春ちゃんが笑いながらギフトにツッコミを入れている。
俺は苦笑しつつ、年季の入ったノコギリを手に取った。
「さて、まずはこの一番太い柱を、ちょうどいい長さに切断します。……よし、いくぞ」
木材にノコギリの刃を当て、前後に引き始める。
――ギコッ、ギコッ、ギゴゴゴッ!
「……っ、ぐ……固っ……」
ノコギリの刃が、数ミリ食い込んだところでピタリと止まった。
冗談抜きで、石でも切っているのかというレベルの硬さだ。十勝の厳しい冬を何十回も越え、極限まで乾燥しきった無垢材の密度を完全に舐めていた。
ギギッ……ガガッ……!
「ふんっ……! はぁっ……!」
腕の筋肉が悲鳴を上げ、全身から滝のように汗が吹き出す。
ブラック企業でマウスとキーボードしか握ってこなかった俺の貧弱な腕力では、ノコギリを引くことすらままならない。5分ほど格闘したが、切れたのはほんの1センチ程度だった。
『wwwwwwww』
『主、息上がってんぞwww』
『ノコギリの使い方が完全に素人www』
『これはキャットタワー完成まで3年かかるペース』
『てかノコギリの刃が錆びてるし、木が硬すぎるんだよ』
『電動丸ノコ買ってこいww』
画面の向こうの5万人が、俺の無様なDIY奮闘記を見て爆笑しているのが手に取るようにわかる。
くそっ、これでも元営業マンだ。ここで諦めたら……!
俺が歯を食いしばり、再びノコギリに体重をかけようとした、その時だった。
『……ニャァ』
縁側の座布団で丸くなっていたシロが、俺の苦戦を見かねたように立ち上がり、トコトコと近づいてきた。
サファイアとアンバーのオッドアイが、俺の汗だくの顔と、ノコギリが挟まったままの木材を交互に見つめる。
「お、おいシロ、危ないぞ。ノコギリ使ってるから下がって――」
俺の制止の言葉は、最後まで続かなかった。
シロは「貸しなさい」とでも言いたげに、真っ白な右の前足をスッと高く上げた。
「……え?」
小春ちゃんがカメラ越しに間の抜けた声を漏らす。
シロはそのまま、光り輝く爪を振り下ろした。
いや、振り下ろしたという表現すら生ぬるい。それはまるで、熟練の剣豪が振るう名刀の軌跡。あるいは、SF映画に出てくる高出力のレーザーカッター。
――スゥッ。
一切の抵抗を感じさせない、絹を引き裂くような静かで滑らかな音。
直後。
コトリ。
俺が5分間格闘しても1センチしか切れなかった、直径15センチはある極太の無垢材が。
シロの爪が触れた瞬間、抵抗もなく『真っ二つ』に切断され、地面に転がり落ちたのだ。
「……………………は?」
俺はノコギリを握りしめたまま、完全に石化した。
転がり落ちた木材の断面を見る。
ノコギリで切ったようなザラザラとした粗さは一切ない。まるで鏡面仕上げのようにツルッツルで、顔が反射して見えそうなほど完璧で美しい断面だった。
『ミャン♪』
シロは「どう? 私すごいでしょ?」とばかりに胸を張り、俺の足元にスリスリと擦り寄ってくる。
途端に、俺の腕の筋肉痛と極度の疲労感が、マイナスイオンの奔流によってスッと消え去った。
いや、疲労が消えたことに感動している場合ではない。
「お兄さん!! すごいっ、すごいです!! シロちゃん、爪からビームカッター出ましたよ!!」
小春ちゃんがカメラを片手に大興奮でぴょんぴょん飛び跳ねている。彼女の中のシロのスペックは、すでにガンダムの領域に足を踏み入れているらしい。
一方、チャット欄は。
完全に、時が止まっていた。
数秒の静寂の後、予想通り、世界を巻き込んだ大爆発が起きた。
『!?!?!?!?!?!?』
『はああああああああああああ!?!?!?』
『斬鉄剣!? 今の斬鉄剣!?!?』
『猫の爪で大木が両断されたんだが????』
『断面がツルツルすぎるwwwww レーザーかよwwww』
『ちょっと待って、俺が見てるのってスローライフ配信だよね? バトルアニメじゃないよね?』
『Holy sword… Excalibur…(聖剣……エクスカリバー……)』
『Japanese CAT is a Ninja!?(日本の猫は忍者なのか!?)』
滝のように流れるコメントと、またしても鳴り止まなくなるギフトの嵐。
俺はゆっくりと立ち上がり、手に持っていたノコギリをそっと床に置いた。
「皆さん、落ち着いてください。映像の乱れではありません」
『乱れてねぇよ!! 物理法則が乱れてんだよ!!』
『また主の現実逃避が始まったぞwww』
「……北海道の冬を越えた古材というのはですね、極限まで乾燥しています。そのため、木材の『目』に沿って特定の衝撃を与えると、ガラスのようにパキンと綺麗に割れることがあるんです。ええ、シロはたまたま、その急所を叩いただけです」
『あるかああああああああああああ!!!』
『んな綺麗に割れるか!!! 鏡面仕上げになってんじゃねーか!!』
『適応力バグおじさん、息を吐くように嘘をつく』
『主のこの真顔でのトンデモ解説、マジで癖になってきたww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”Beautiful Samurai Slash! I want to hire this cat for my construction company!“(美しいサムライ・スラッシュ! この猫を我が建設会社で雇いたい!)』
『石油王がゼネコンにスカウトし始めたぞwww』
「あははっ! お兄さん、石油王さんがシロちゃんを大工さんとして雇いたいって言ってますよ!」
小春ちゃんが腹を抱えて笑っている。
「断れ。シロは俺の家族だ。日給100万積まれてもやらん」
俺はきっぱりと言い放つと、ツルツルになった木材の断面を撫でた。
「……まぁ、でも、これでノコギリを使う手間は省けたな。よしシロ、次はこの板を半分にお願いできるか?」
『ニャン!』
俺が指差した木材を、シロが次々と『スゥッ』『スゥッ』と、楽しそうに両断していく。
その度にチャット欄が悲鳴と爆笑の渦に包まれ、小春ちゃんの楽しそうな笑い声が十勝の澄み切った春の空に響き渡った。
木屑一つ出ない、世界一静かで、世界一常識外れなDIY。
どうやらシロ専用の神殿(キャットタワー)は、俺が思っていたよりも遥かに早く、そして完璧なクオリティで完成してしまいそうだった。
コメント
1件
わあああ今回も爆笑した!!シロちゃんの爪、まさかのレーザーカッターすぎて草www断面が鏡面仕上げってマジでガンダムのビームサーベルじゃん!!石油王が建設会社にスカウトし始めたのウケる😂💕そして「シロは俺の家族だ。日給100万積まれてもやらん」のとこでグッときた…もうこのコンビ尊すぎて泣ける😭✨ノコギリ置く主の諦め顔も含めて全部好き!!次回も楽しみにしてるよ〜〜!!