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「うぉあっ!? 足が!!」
「ドラゴンには尻尾もあるのだぞ?
人間と同じような戦い方は通用せん」
「は、速い! 速過ぎる!!」
「人一人乗せてこれだけ動けるのか、
魔狼ライダーというものは!!」
帝都・グランドール冒険者ギルド本部―――
そこで対人外の模擬戦として、アルテリーゼと
魔狼夫妻のケイドさん・リリィさんが、こちらの
冒険者を相手に手合わせしていた。
「み、水が集中して落ちて来るのが、
これだけ厄介なんて」
「豪雨の中で戦っているみたいだよ!
こんな水魔法、見た事も聞いた事も無い!」
あっちはメルが相手しているのか。
彼女もドラゴンと交わった事で魔力も上がって
いるだろうし、そうそう簡単に倒される事は
無いだろう。
そしてそれを見ていた私の隣りにいる、
ここのギルドマスター・ベッセルさんが、
「……スゴイな。
全員、鉄鋼クラスか金剛石クラス―――
ドラゴンに至っては魔力銀クラスも望める
だろう。
しかも君たちをして最強格ではないと」
シルバーの短髪をした中肉中背の彼は、
呆れるように感想を漏らす。
そこへハチマキのように布を頭に巻きつけた、
ブラウンのボサボサ髪をした少年が、
「俺、この人たちにケンカ売ったのかぁ……」
エードラムがしみじみとその光景を見て語る。
「では一通り訓練を終えたら、ギルドマスターの
部屋まで来てくれ。
エードラム、君もだ。
『当事者』たちの間で、改めて正式に処分を
決める必要があるからな」
私はうなずいて同意すると、彼らが訓練を
終えるのを待った。
「では今回の件―――
『被害者』の方々の要望として、
『何事も無く冒険者ギルドの見学は終わった』
という事で処理します。
それでよろしいですね?」
受付嬢・カティアさんの問いに……
そこで人間の童顔の妻と、ドラゴンの方の
西洋モデルのような妻―――
メルとアルテリーゼがラッチと共にうなずく。
「ケイドさんとリリィさんは……」
私の質問に、赤髪のアラサーの夫とその妻は、
その切れ長の目をダークブラウンの長髪の
隙間からのぞかせて、
「実際、被害は無かったわけですから」
「シンさんにお任せを」
と、夫婦で同意し、最後にギルドマスターが
『加害者』の少年の方を向いて、
「この方々に感謝するのだな。
それと、これをシン殿が書いてくれた。
モンド伯爵家への書状だ。
それで今回の事は終わりとなるだろう」
「……ああ、肝に銘じておくよ」
彼は神妙に手紙を受け取り、それを懐にしまう。
「ではこちらは今後の処理がありますので」
「はい、ありがとうございました」
私たち一行とエードラムは一礼すると、一緒に
ギルドマスターの部屋を後にした。
「今回の件、本当にすまなかった。
親父への執り成しまで―――」
「ちゃんと、今までに君が迷惑をかけた人たちへの
謝罪もするんですよ」
「わ、わかっているよ」
長い廊下を歩きながら、彼と雑談がてら話す。
「そういえばパーティーはどうするの?」
「またあの荒くれ者を雇うのか?」
「ピュイ?」
家族が魔力銀クラスパーティーの扱いについて
何気なく聞いてみると、
「実はそこが一番頭が痛いところなんだ。
魔力銀クラスともなると、階級は最低でも
白金クラス……
ただこの階級はそれなりに人も多い。
今の連中に大人しくしてもらうか、
それとも他の白金クラスに入れ替えるか。
でも、そのクラスの冒険者で礼儀正しいヤツは
なかなかいねーんだよなぁ……」
グチるように話す彼に魔狼夫妻も両目を閉じて、
「ま~……なあ?
確かに俺が冒険者になったばかりの頃も、
昼間から酔っ払っているような連中ばかり
だったもんなぁ」
「そうなんですか?
あなたと一緒になった頃は、それほど
乱暴な方もいなかったと記憶してますけど」
「シンさんが来る前と来た後じゃ全然違う。
今みたいに冒険者なんて、安定した仕事じゃ
無かったし」
ケイドさんとリリィさんの話を聞いて、
身内はウンウンとうなずくが、エードラムは
意味がわからない、という顔になる。
話を聞く限りここのギルドも単発契約、
依頼次第だし―――
それに比べ長期契約と人海戦術が前提のウチは、
概念が全く異なるだろうな。
と、そこへ聞き覚えのある声がして、そちらの
方向へ振り返ると、
「シン様!!」
「ドラゴンが現れたと聞いていたのですが、
やはりシン様でしたか!」
そこに現れたのはあの獣人族の兄妹で、
「ビルドさん、クエリーさん!」
そこで彼らも話に加わった。
「そうですか。
まずは冒険者として……」
「はい。ここなら身分証明も手に入りますし、
取り敢えず何かしら仕事もありますから」
彼らの話によると、あの闇闘技場から
解放された後―――
妹であるクエリーさんも奴隷身分から
自由の身になったらしい。
多分その辺はティエラ王女様が手を回して
くれたのだろう。
そこで一緒に冒険者ギルドへ登録したとの事だ。
「こう言っては何ですけど、亜人もギルドに
登録出来るんですね、エードラム君」
と、小声で現場の彼に話題を振ると、
「ああ、珍しいけどな。
俺も何人か亜人の冒険者を見かけた事はある」
ふむ、種族差別がある国とはいえ登録は
出来るのか。
「しかし、食堂や訓練場では亜人を見かけません
でしたけど」
私の疑問に獣人族の兄妹が口を開き、
「そりゃ俺たちみたいな獣人族や他の亜人に
取っちゃここは―――
ただひと稼ぎするためだけのところ
ですからね」
「わたくしたちのように……
奴隷から解放されたりして自由になった
者は、故郷に帰るためのお金を稼ぐため、
冒険者で稼ぐのが一般的なんですよ」
なるほど。
まあ人外差別の本場ともいうべき国だし、
奴隷や拘束が無くなれば、すぐにでも本国へ
帰りたいと思うのも無理は無い。
「じゃあお2人は今、木クラスなんですか?」
そこで横からエードラム君が、
「獣人族は人間より基本的な身体能力が
高いから、よほどの事でも無い限り白金クラス
スタートだ。
そのヘン、ギルドは一応実力主義だからな」
そこで私は二人に振り返ると、
「ええ、まあ」
「簡単な試験を受けましたけど、
わたくしも兄も白金クラスとなっています」
と、ビルドさんとクエリーさんは身分証の
ようにそれを掲げる。
「でも、能力が高いのに冒険者として有名になる
獣人族の人とかいないの?」
「話を聞くに、すぐ辞めてしまう印象だが」
「ピュ」
家族の言葉に、一番若い冒険者はばつが悪そうに
頭をかきながら、
「あんたらの知り合いみたいだから、あんまり
失礼な事は言いたくねーんだけどよ……
高額な依頼をしてくるのはたいてい、
貴族サマか豪商なんだ。
そしてそんな連中は、亜人なんぞに
依頼は出さねぇ。
むしろ条件としてお断りまでつけてくる」
ティエラ王女様の話だと、公聖女教の中にも
亜人・人外を差別する派閥がいるとの事だった
けど、どうも身分的に上に行くほどそういう層も
多いようだ。
「確かにそれじゃあ……」
「活躍しようにも出来ないでしょうね」
魔狼夫婦が同情し、微妙な表情となる。
そこで私は少し考えてある事に気付き、
「エードラム君、ちょっとここで待ってて
くれる?
この2人とお話ししてくるから」
「へっ? あ、はい」
と、ビルドさんとクエリーさんを連れて、
少し離れた場所に移動した。
「俺たちがあの人のパーティーに、ですか?」
「魔力銀クラスパーティーですか……」
聞くところ、二人はすでに白金クラス。
それならばエードラム君のパーティーに
入ってくれれば、万事解決だと思ったのだが、
さすがに二人も困惑した面持ちになる。
「いえ、もちろん断って頂いても……」
「シン様の頼みなら、断るという選択肢は
ありません!」
「二度に渡って兄の命を救ってもらった恩義が
ありますし、わたくしとしても異存は……!」
深々と頭を下げる兄妹に私は慌てて、
「いや! そこまで重い話じゃありませんって!
私が言いたいのは、故郷に帰るまでのお金を
貯める間だけでも―――
彼のパーティーに入ってもらえないか、
という事です!」
そこでようやく、ビルドさんもクエリーさんも
ホッとした表情を見せ、
「そ、そうでしたか」
「しかし、わたくしたちが獣人という事は
構わないんでしょうか?」
当然の疑問を口にする彼女に、
「エードラム君は今、トラブルを起こさない
人材を探しているんですよ。
やたら誰かにつっかかったりとか、いきなり
ケンカを売らない、そういうメンバーを探して
いまして。
そこへお2人が現れましたので、私としては
この国で推薦出来るのはあなた方しかいない、
と思ったんです」
すると兄妹は互いに顔を見合わせ、
「確かに、俺たちが獣人族である事を
抜かしても……
非常にガラの悪い態度を取る連中が
多かったですね」
「シン様の推薦でもあり―――
それに魔力銀クラスパーティーの一員であった
という実績も付くのであれば、断る理由は
ありません。
喜んでその話、お受けいたします」
こうして二人の同意を得ると、エードラム君の
元へ戻った。
「というわけで、この2人なら礼儀正しいし
トラブルも起こさないと保障するけど……
どうかな?」
それを聞いた彼はポカンと口を開けて、
「い、いや。
戦力的にはむしろ俺の方からお願いしたい
くらいだけどよ。
パーティーとして依頼を受けるのなら、
獣人族がメンバーにいようがいまいが関係ねぇ
だろうし―――
でも本当にいいのか?」
エードラム君がビルドさんとクエリーに
聞き返すと、
「シン様の頼みでもありますから」
「とは言いましても、故郷へ帰るためのお金が
貯まるまでの間だけですが……」
二人が深々と頭を下げると、
「いや! 俺の方こそよろしくお願いする!
『月下の剣』のメンバーとしてよろしく
頼むぜ!!」
その光景を、家族と魔狼夫妻も暖かな目で
見守り、
「一応、ギルドマスターにも一言、この事を
言っておいた方がいいかな?」
「そうだのう」
「ピュイッ」
と、帰る前にベッセルさんに話しておこう、
という事になり―――
いったんギルドマスターの部屋へ顔を出す
事にした。
「おう、そんな事があったのか。
ご苦労だったな」
王宮の合同待機部屋に戻った私たちは、
ライさんやエンレイン王子様、ヒミコ様―――
他、エイミさんにアーロン君、スクエーアさん、
それにボーロさん、オトヒメさんに……
冒険者ギルドでの情報を共有していた。
「魔王様と、あのお2人の姿が
見当たりませんが……」
魔王・マギア様とイスティールさん、
オルディラさんの姿が見えず、
私は周囲を見渡す。
「多分もうすぐ帰ってくるだろう。
フィリシュタが食べ歩きしたいってんで、
その見張りというかお目付け役として、
一緒に帝都内を歩いて回ってんだよ」
何やっているんだかあの魔界王……
まああの三人が一緒ならトラブルは起こさないと
思うけど。
「そういえば、土精霊様もいませんね」
「確か遠出をしているんでしたっけ」
淡い紫色の短髪の中性的な青年、
エンレイン王子様と―――
ワイバーンの女王にして彼の妻である、
燃えるような真っ赤な長髪の女性が、
夫婦で彼の行方について語る。
「まあ一泊くらいするかもとは言っていたから、
そう心配する事でもないだろう。
それよりシン、新しく作った料理ってのは?」
ライオネル様の言葉に、例の灼熱の風で
作った料理を披露する。
そしてみんなが次々に手を出すと、
「エイミ姉さま、これ美味しい!」
「熱風だけで料理すると、こんな食感に
なるんですねえ」
グリーンの髪の少年を抱くようにしながら、
下半身が蛇の亜人の少女、エイミさんが
一緒に食し、
「油使ってないって話だったけど……
確かにサッパリしてるわ」
人魚族のスクエーアさんがブルーパープルの
ウェービーヘアーを揺らし、
「野菜の種類によっては嫌いな子もいるから、
これなら食べてもらえるかしら?」
ロック・タートルが人化した姿の長身の女性、
オトヒメさんも、その長いパープルヘアーを
波立たせながら味わう。
「蒸気で蒸すではなく、熱風だけで、だべか。
厨房の料理人にも教えてあげてもいいんじゃ
ないだべか?」
熊型の獣人、ボーロさんも手に取って、
興味津々な目で見つめる。
「そうですね。
あ、少しは魔族の方々に残しておいて
あげてください」
そうしてスナック菓子のようにそれをみんなで
食べながら、不在のマギア様たちの帰りを待つ
事にした。
「参ったなぁ」
「まあ、こういうのは私たちが適任でしょー」
「さっさと済ませて帰ろうぞ、シン」
翌日の昼過ぎ、私たちは帝都・グランドールの
東側へ向かって―――
アルテリーゼの背に乗って飛び続けていた。
(ラッチはティエラ王女様預かり)
「もも、申し訳ございません!
なにとぞこの件はご内密に……!」
一緒に乗っているのは、少し離れた農地を
土精霊様に見てもらいたいと要望を出した、
農業関係のお役人。
何でも、半人半馬の亜人の群れと接触し―――
当初は友好的だったのだが、土精霊様を見ると
態度が一変し、
有無を言わさず連れ去られ……
下半身が馬の彼らに追いつけるはずもなく、
緊急事態として帝都に連絡しようとしたものの、
責任問題になる事を恐れた彼の上司により対応が
二転三転、
そこで彼は思いあまって、私たちの元へ
駆け込んできたのである。
『まあわからなくもない。
まだ外交を結んでいないとはいえ、
友好使節の1人が―――
それも帝国側の要請に応じての移動中に
拉致されたんだ。
上から順に何人か首が飛ぶだろう』
そうライさんが王族の立場から理解を示し、
なるべく穏便に事を済ませる事が出来る
メンバーとして、私たち家族が出動する事に
なったのだ。
「アルテリーゼ、なるべく目立たないよう
低空飛行を心掛けてくれ」
「わかっておる、我が夫よ」
そして私たちは役人を案内人として、現場へと
急いだ。
「こ、この度は真に申し訳なく!
土精霊様のお身柄は必ずや取り戻しますので、
どうかお時間を……!」
目的地に到着した私たちはひとまず役人の上司に
お目通りし、詳しい状況を聞く事に。
何でも、ただの農地視察であったので護衛も
最低限しかつけず、
いざとなれば土精霊様は飛べると聞いて
いたので、万が一の時は彼さえ逃がす事が
出来れば―――
というつもりで動いていたのだという。
「そういえば飛べるんだよね、土精霊様」
「それにしてはあっさりと捕まったものだのう」
二人の妻が顔を見合わせながら話す。
するとここまで案内にした役人が、
「当初は非常に友好的だったのですよ。
そもそも彼らは大陸中央の未開拓地寄りに
済む少数種族ですので、帝国の支配も伸びて
おらず、敵対する事も敵視される事も無かった
はずなのですが」
なるほど……
この大陸・クアートルの中央は魔物が多い事で
敬遠され、ほとんど手を付けられておらず、
また情報も少ない土地があるとは聞いていた。
(■182話
はじめての しょうだん(らんどるふていこく)
参照)
だから帝国に取って彼らは脅威でも無ければ、
わざわざ戦いを仕掛けて得られる利も無い―――
そういう意味では友好的な状態だったのだろう。
「土精霊様はこちらの大陸の出身では
ありませんし……
狙われる理由も今ひとつわかりませんね。
それに彼なら逃げられない事は無いと
思うんです。
何か考えがあって拘束されたままになっている
のかも」
恐らく遠征の責任者なのだろう、彼の心の負担を
軽くするために、『今回の件は不可抗力』、
『土精霊様も逃げようと思えば逃げられる』
と強調しておく。
「それで、そいつらはどっちに逃げたの?」
「さ、去った方向はわかりますが彼らは機動力に
長けておりますので―――
今どこにいるのかまでは。
ただ、大陸中央に向かっているという事だけは
間違いないでしょう」
そこで私はいったんアルテリーゼに視線を
向けてから、改めてその役人の上司に振り向き、
「では、ここから先は私たちだけで。
帝都に帰る準備だけはしておいてください。
その時は、何事も無かったかのようにお願い
します」
「は、はいっ!!」
そして私はメルと共にドラゴンとなった
アルテリーゼに乗ると―――
空高く舞い上がった。
「あれかな?」
「おお、本当に半人半馬」
「初めて見る亜人だのう。
向こうの大陸にはおらぬ」
飛び立ってから三十分もすると……
やがて眼下に、草原といくつかの林が点在する
地形の中に―――
報告にあった下半身が馬の亜人の群れが
見えてきた。
「まるでケンタウロスだなあ」
「ン? シン、あの亜人知っているの?」
メルの質問に私はコクリとうなずき、
「とは言っても、地球の書物、それも伝説上の
存在だけどね。
少なくとも現代の地球には存在しないし」
「ラミアといい人魚といい、シンの世界は
想像だけでいろいろな種族を把握して
おるのう」
アルテリーゼの言葉に、偶然だろうけど、と
返そうとすると急激に姿勢が傾き、
「シン、メルっち!!
つかまれ!!」
乗っている彼女の指示に従い、身を屈める
ようにしてしがみつくと、数本の光線のような
ものが、アルテリーゼの翼の横を通り抜け、
「うひょっ!? 何あれ!!」
「下から撃って来ておる。
魔法矢の一種だと思うが……
すさまじい威力じゃ。
ドラゴンの我でも、集中して食らえば
厳しいぞ」
そもそもドラゴンの彼女を見て攻撃を仕掛けて
来たという事は―――
逃げずに戦闘を選択したという事だしな。
つまり、それなりに実力に自信があるのだろう。
「でも、当初は友好的だったと聞いているし、
意思疎通は可能なはず。
こちらに敵対的な意思が無い事を知らせれば
あるいは……
アルテリーゼ、ちょっと頼まれてくれるか?」
「何か考えでもあるか? シン」
そこで私は彼女に指示をして、いったん着陸する
事にした。
「!?」
「族長、アレ降りて来た」
「どうする?」
地上に降り立ったドラゴンを、彼らは遠巻きに
包囲する。
地上からの攻撃があるとはいえ、空中を自在に
動き回れる方が圧倒的に有利だ。
その優位性を捨ててわざわざ自分たちと同じ
大地に降りた事で、逆に警戒を強め―――
「アルテリーゼ、お願い」
「派手に一発ぶっ放して!」
私とメルの言葉に彼女は長い首を見上げるように
上へと向けて、
「お、おおっ!!」
「ワイバーンの比では無い!
これがドラゴンの吐く炎か……!」
空に向かって放たれた火球を見て―――
さすがにケンタウロスの一団はひるみ、
それを見計らって、
「あのー、お話があります。
よろしいでしょうか?」
何も無い上空へ攻撃してドラゴンの脅威を
見せつけると同時に、相手に向けて発しなかった
事で敵意が無い事を伝える……
というのが私の作戦だった。
そしてこちらの意を察したのか、彼らは
私たちに向かって歩み寄ってきた。
「人間族のシンです。
冒険者です」
「シンの妻で冒険者のメルです」
「同じくシンの妻で冒険者のアルテリーゼだ。
ドラゴンではあるがよろしく」
アルテリーゼも人間の姿となり、まずは
こちらから彼らに自己紹介すると、
「この一族の長、ロナト。
敵意が無い、わかった。
貴殿ら、ここに来た目的、何?」
焦げ茶の髪を馬のたてがみのようになびかせ
ながら、三十代くらいの戦士のような肉体を
した男が対応する。
そこで私たちは、土精霊様について彼に
たずねると、
「彼は精霊様。
大地の精霊を奉る、我が種族の礼儀。
歓迎している最中、遠慮は無用」
ここでようやく、土精霊様は無事だと
伝えられるが、
「その土精霊様を探してここまで来たんです。
予定では今日中に帰るはずでしたので。
ですので、彼を帰して頂けると助かるの
ですが……」
やんわりと彼を連れ帰しに来たと告げると、
「歓迎の儀式、終われば帰す。
焦る必要無い」
「ええと、いつくらいに終わるんでしょうか、
それは」
あくまでも低姿勢でおずおずと聞く。
「この地に精霊、姿を現す。
久しく無かった事。
なので30日、行う」
私は思わず首をブンブンと左右に振る。
否定の意を伝えたためか、二十名ほどの一団は
気色ばむが、
「彼は大地の実りを見回りに来たのです。
それを足止めしてしまうというのは、
あなた方の精霊様に対する歓迎に沿った
ものなのでしょうか?」
それを聞いた彼らは隣りの者と、あるいは
一人で口々に『確かに』『よくない』
『困らせてしまう』と語り出し、
「……わかった。歓迎減らす。
10日、やる」
ロナトさんの答えに、また私は首を左右に振る。
そこでメルが私の横腹をひじでつつき小声で、
「(ねーシン、
『無効化』でどうにかならない?)」
「(意思疎通は可能だからなあ……
無効化でうかつに骨折させたり、
傷付けたりするのは避けたいんだ。
しかしどうしたものか)」
そう話し合っていると長の彼の方から、
「双方、引かない。
その場合、勝負、決める。
お前、夫か。
ならお前、決める」
どうも勝負しろという事らしい。
そして代表は私とロナトさんになるようだ。
まあドラゴン相手だと話にならないだろうし。
「勝負の方法は?」
「それもお前、決める。
何でもいい」
そこで私は脳を振り絞って考え―――
「ロナトさん。
あなたの一番得意とする攻撃方法は
何でしょうか?」
そうたずねると、彼の両手に光る弓が出現し、
「これ、魔法弓。一族、誰でも使える。
ロナトの放つ矢、魔法矢は特別。
相手を追い、そして一族で一番強い。
サジタリウス・アローいう」
ホーミング機能付きで、それでいて威力も高いと
いう事か……
同時に、先制攻撃して来た時は避けられたの
だから―――
彼らも本気では無かったという事なのだろう。
「では、それを一発私に向けて撃ってください。
外したり私が落としたら私の勝ちという事で。
当てたらあなたの勝ちです」
「お前、正気!?」
彼は私と妻たちの顔を交互に確認するが、
「あー、当たっても別に恨まないから」
「シンならそれくらい余裕ぞ?」
そこで私とロナトさんは少し離れた場所で、
勝負をする事になった。
「……では撃つ。
手加減、出来ない」
「はい、いつでもどうぞ」
事の成り行きに、ケンタウロスの一団は
困惑しているが―――
対照的にメルとアルテリーゼの顔は、
私の勝利を信じて疑わない。
しかし良かった。
これがケンタウロスそのものを指定する
条件なら……
全員を巻き添え、下手すればケガをさせて
しまう恐れもあったけど、
すると彼は魔力で取り出したであろう弓を
つがえ、上へと向ける。
ホーミングするというのは事実なのだろう。
「いくぞ」
そして時間を置く事で、私が考えを変える事を
促しているのだろうが―――
「はい」
そこでロナトさんは諦めたように弓を引き、
矢が上空へ向かって放たれ……
あり得ない軌道を描いてこちらへと向かう。
「魔力で、それもホーミングする矢を放つなど、
・・・・・
あり得ない」
そう私が小声でつぶやくと同時に、
「ぬっ!?」
空中で魔力の矢はかき消され、後にはその
余波を受けた風が吹き―――
「うむ。
ロナトの負け、シンの勝ちだ」
彼は潔く敗北を認めた。
「ア、土精霊様!!」
「お怪我はありませんでしたか!?」
役人たちの待っているところまで戻ると、
緑の短髪にエメラルドグリーンの瞳をした
少年に駆け寄り、安否を確認する。
「ごめんなさい、心配をおかけしました。
ボクとしても歓迎されている以上、
無下には断れなくて」
ぺこぺこと頭を下げる土精霊様に、
役人たちも負けじと頭を振りかぶるように
下げ続け、
「ええと、早めに戻った方がいいと思います。
予定通り今日中に戻れば、怪しまれないかと」
「あ、ありがとうございます!
何とお礼を言えば……!」
私は首を横に振り、
「とにかくすぐに戻ってください。
『農地視察は何事も無く終わった―――』
それがこちらの願いです。
いいですね?」
役人たちは振り子のように首をブンブンと上下に
振り、帰りの馬車へ土精霊様と一緒に乗り込んで
いった。
そしてシンたちも時間を置いて、帝都に戻って
いったのだが……
実はシンが動いた事で、皇帝・マームードと
第三太子ゴルトの手の者によって、この件は
逐一彼らに把握されてしまっていた。
ただ報告の中に、シンの『何事も無く終わった』
という事にして欲しいという要望があったので、
役人たちはお咎めなしとされたのだが、
彼らはその事を知る由も無かった。