テラーノベル
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――森の奥、息が詰まるような静寂。
遥と梨亜が駆け込んだ先、奏太は静かに倒れていた。
「奏太!」
遥が駆け寄ろうとした、その時。
――ズン……
地面が揺れ、異形の気配が現れる。
黒い霧のような霊力、その中心から這い出るように現れたのは、
人でも獣でもない、歪んだ姿の霊だった。
「オマエラ……ジャマ……ジャマダ……ッ!!」
ねじ切れた声で叫び、歯をむき出して笑う。
その霊力は、この森の自然な流れとは明らかに異質だった。
「……こんなの、森の霊じゃない。」
梨亜が震える声で言った。
遥は刀を構え、静かに言い切る。
「関係ない。――やるしかない。」
霊は狂ったように暴れ回り、木々をなぎ倒していく。
高速で動き、鋭い爪で遥に襲いかかる。
「遅い……!」
遥は寸前でかわし、刀で反撃するが、
霊の体は煙のように揺らぎ、確かな手応えがない。
「っ、梨亜!支援を!」
「わかった!」
梨亜が桜色の霊力で地面を封じ、霊の動きを一瞬止める。
その隙に遥が斬りかかる――
だが、霊は狂気の笑い声をあげながら再び煙となり、背後から襲いかかる。
「オマエモ……オマエモ……クルシメ……!」
遥の肩を鋭い爪がかすめ、血が滲む。
「くっ……!」
遥の霊力が、黒くうねり始める。
(また……抑えきれない……)
耳奥に、再び聞こえる――
奏太の弱い声。
『……遥……』
遥は歯を食いしばった。
「負けるわけには、いかないんだよ!!」
黒い霊力が再び溢れそうになる――が、
梨亜が背後から声をかける。
「大丈夫、私がいるから!」
その声に、遥の力が少しだけ静まり、
白と黒の狭間のような霊力で、刀が輝く。
「梨亜、もう一度!」
「行くよ……!」
梨亜が放つ桜色の光が、霊の身体を照らす。
その光は霊の煙を焼き払い、姿を強制的に実体化させた。
「……終わりだ。」
遥が渾身の一撃を振り下ろす――
闇を裂くような、鋭い一閃。
霊は悲鳴と共に崩れ落ちた。
だが、消える間際――
その歪んだ口から、意味深な言葉が漏れた。
「……“あの方”ノ……マエブレ……マダ、コレカラ……」
不気味な笑い声を残し、霊は完全に霧散した。
静寂が戻った森の中で、遥は刀を下ろし、深く息を吐く。
「……“あの方”? 誰なんだ……」
梨亜は、倒れている奏太に膝をつき、
その顔にそっと手を当てた。
「大丈夫、息はある。貧血……と、霊力の消耗みたい。」
「……助かった。」
遥は梨亜に静かに言った。
「お前がいなかったら……たぶん俺、また暴走してた。」
梨亜は少し驚いて、でも優しく微笑む。
「一人じゃ、無理だよ。……だから、私がいるんだよ。」
その言葉に、遥の胸が少しだけ温かくなる。
――闇はまだ晴れない。
でも、隣に誰かがいるなら――進める気がした。
遥は静かに、倒れている奏太を背負い、歩き出した。
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