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現在の状況を説明しよう。


俺とルカは体育館裏の木陰に隠れ、ヤンキー先輩の様子をこっそり観察中である。まわりに人の気配はなく、柵の向こうはまだ開拓されていない森が広がっている。


「うーん……ここからだと何も聞こえないなぁ」


「これを使うのじゃ」


ルカがすっと取り出したのは、薄くて丸まった魔皮紙。


「これに魔力を流して耳にかぶせると、聴覚が一時的に強化されるのじゃ」


「へぇ~!便利!」


耳に装着してみると、遠くの音が少しずつクリアになっていく。なるほど、これは使える。


「ふふ……さぁ、今から何が起こるのか楽しみなのじゃ」


え、なに? このワクワクした笑顔。ルカってもしかして、ヤンキー漫画とか暴走族バトルとかめっちゃ好きなタイプなの?


……そんな趣味あったの!? いや、意外とそういうのハマるタイプかも……。


先輩たちの声が、魔皮紙越しにハッキリと聞こえる。


「あー?てめぇがこの紙出してきた奴か?」


「そうよ。あたしは《メルノスクール》から来たクラス代表、マキ。覚えときな!」


「あー……で?何の用だ、特攻服コスプレ女」


「フッ、わかってんだろ?」


そのままマキはズカズカと距離を詰め、先輩に密着。顔をギリギリまで近づけて、真っ直ぐ睨みつける。


※注:マキの方がちょっと背が高い。威圧感アップボーナス付き。


「先輩たちが卒業して、もう時代は私たちのもの! これは、あいさつ代わりだッ!」


バゴッ!!!


――うわああああああ!?


頭突き!? マジで頭突き!?


強化聴覚モードで聞こえた「ゴンッ!」って音、生々しすぎるって! 頭蓋骨同士が友情を拒否した音だったぞ!


「チッ……上等じゃねぇか。去年の先輩の仇、ここでとらせてもらうぜぇ!!」


えっ!?なに!?この戦い、毎年恒例!?


「今年はあたしが、ミクラル最強の座をいただく……その前に、あんたをぶっ倒すッ!」


「あー?順位とか夢語ってんじゃねぇ、まず目の前の敵を見ろや……!」


「――!!」


ズドッ!!


先輩の右拳が、マキの溝……つまり、腹に炸裂!!


「ゴフッ!」


うわっ、生々しい! マキ、唾液飛ばしながらふらついてるじゃん! ていうか、女まじの攻撃してんじゃん!?子供できなくなるよ!!


「やるじゃねーか……私に一発入れられるなんて、大したもんじゃん」


「はっ!そんなにイキるくらいなら!最初の頭突きで気絶させてみろや!」


「なら次はこれだッ!【プラス・フィジカル・アビリティ】!!」


マキが叫んだ瞬間――彼女の体が淡く光り、一気に加速!


「っ!!?」


まるで瞬間移動したみたいに、マキの姿がブレたと思ったら、もう先輩の背後を取っていた!


「もらったァ!!」


――バキィッ!


回し蹴りが炸裂!


「チィッ!」


でも先輩も反応していた! 咄嗟に腕でガードする!


ドッ!!


魔力強化されたマキの蹴りと、ヤンキー先輩のタフネスが火花を散らす!


「くぅっ……! 重いな……!」


「そっちは軽いな!!」


どこの◯ラゴンボー◯よ!?


「うむ、今の蹴りは見事なのじゃ! 魔力強化による回し蹴り! 見事」


ちょっ!?ルカさん!?なんで実況始めてんの!?


「ふっふっふ……燃える戦いを見るとワシの血が騒ぐのじゃ……!」


戻ってきて!!今、我々は木陰に隠れてる観戦組だから!!


「見せてやるよ、これがミクラル最強候補の拳だァ!!」


バゴォォッ!!!


う、うわぁぁぁぁ!?

先輩の蹴りがマキに炸裂し、マキはまるで人形みたいに吹っ飛んで――


――体育館の壁に、激突。


拳は!?!?


「がっは……っ!!」


……ちょ、ちょっと!?血、吐いてるんだけど!?

ねぇ!?背中からぶつかって、血ィ吐くとか、完全に内臓いってない!?

えっ!?これってもう救急車(ないけど)案件では!?


「ふむ、勝負あったのじゃ。最初のパンチは手加減したフェイク……この一撃のための布石じゃ。まさかここまで差があるとは……ワシの見立てが甘かったのじゃ」


いやいやいやいや!! 何、冷静に勝敗分析してるの!?


「…………」


先輩がゆっくりと、マキに近づいていく。

マキは地面に前のめりで倒れたまま、まったく動かない。


……え? うそ、え? ちょっと!? ま、まさか――


「……なんだよ、とどめを刺せよ」


あ、生きてた。


「…………」


「おーい、聞いてるのかぁー?」


「……昔の俺ならな」


と、突然こっちを見てくる先輩。

で、またマキを見る。


「今は変わった」


「ふん……そうやってると足元をすくわれるよ」


「はぁ?負けた分際で何イキってんだ」


そう言いながら、先輩はマキに手を差し出した。

マキはその手を掴み、ふらつきながら立ち上がり――


血のついた口元を腕でぬぐって笑った。


……いや、え、ちょ、何それ。

え、これ、なんか……え? 友情? 生まれたの? 今?


「なんだかんだ、お主、ええやつなのじゃ……」


「いやいや!なんで納得してんの!? 友情の始まりが血まみれなの!? ヤンキーってそうなの!?」


もう……お母さんついていけません……。




そしてその時――


強化された聴覚が、俺とルカの耳に“異音”を捉えた。


「……ん? なんか、カサ……カサカサって――」


その音は、みるみるうちに迫ってきて――


「――あぶねぇ!!」


「んあっ!? ぐっ!!」


マキが突如、先輩を突き飛ばして、そのまま二人ともゴロンと地面を転がる!


……と、さっきまで二人が立っていた場所に――


「ぎゃあああああ!? なにあれ!? サソリ!? いやでっか!!!」



黒光りする巨大なサソリが現れた。





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【プラスフィジカルアビリティ】


これは、ミクラルの地に生まれた者――またはミクラルとの血を引く者が扱える“土地魔法”である。魔法の歴史において古くから存在し、いわばこの地域特有の身体強化術とされる。


効果としては、一定のラインまで身体能力を底上げするもの。瞬間的な力の爆発ではなく、安定した強化を持続できる点が特徴で、使用後に動けなくなるような反動はない。ただし、発動中は常に魔力を消費し続けるため、他の魔法を併用する際は自身の魔力残量に注意が必要となる。


グリード王国における類似魔法【限界突破】と比較すると、最大強化は劣るが、持続性と安定性に優れる。たとえるなら、【限界突破】が火事場の馬鹿力の強制発動であるのに対し、【プラスフィジカルアビリティ】はスポーツ選手が集中力の極みに達する「ZONE」の再現に近い。


なお、アバレー王国の獣人たちは生来の身体能力が非常に高いため、この魔法自体を必要としない者も多い。


現在では、魔法陣と魔皮紙の技術が進歩したことで、出身や血筋に関係なく誰でも使用可能となっている。


教科書 P◯


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