テラーノベル
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第34話:もふもふの相乗効果。同接が限界突破する
北海道の秋晴れの空の下、我が家の縁側は今日もシロの『フェーン現象(という名の神聖結界)』によって、完璧な室温25度に保たれていた。
「ふわぁ……眠くなってきたな」
俺は縁側に座布団を敷き、温かいほうじ茶の入った湯呑みを片手に大きく欠伸をした。
俺の足元では、すっかり我が家の家族(兼シロの舎弟)として定着したキタキツネのコン吉と、新入りの弟分コン次郎が、ふさふさの尻尾を揺らして待機している。
『ミャウ……』
そこへ、縁側の特等席――つまり、日差しが一番よく当たる場所を求めて、純白の神獣であるシロがトコトコと歩いてきた。
すると二匹のキツネは、シロが立ち止まった瞬間にサッとその足元へ滑り込み、自身の体を丸めて『極上のダブルキツネ座布団』へと変形したのだ。
『ミャァ♪(ご苦労)』
シロは満足げに喉を鳴らし、彼らの黄金色の背中の上に、ぽふんっ、と優雅に身を沈めた。
純白の猫と、二匹の黄金色のキタキツネ。
三つのもふもふが完全に融合した、文字通りの『トリプルもふもふ団子』の完成である。
「お兄さん! 今の完璧なフォーメーション、バッチリ録画しましたよ!」
カメラを構えた小春ちゃんが、興奮気味に鼻息を荒くしている。
「よし、じゃあそのまま今日の配信もスタートしてくれ。今日はもう、俺は一歩も動く気がないからな」
「了解です! ポチッとな!」
小春ちゃんがスマートフォンの配信開始ボタンを押す。
すると、ものの数秒で同接カウンターが『1,000,000』を突破した。
『待機してたぞおおお!』
『開幕トリプルもふもふ団子キターーー!!!』
『白と金! 神々しすぎる配分!』
『シロ様とキツネ兄弟のコラボ、最高すぎるだろ……』
画面の向こうの200万人の視聴者たちは、その圧倒的な光景に一瞬にして釘付けになった。
ただでさえシロ単体で致死量のマイナスイオンを放っているというのに、そこにエキノコックスすら浄化された最高純度の『野生のもふもふ』が二匹も加わったのだ。
三匹の毛並みが重なり合う部分から、真珠色の光と黄金色のオーラがマーブル模様のように混ざり合い、画面越しに世界中へと放たれていく。
『ゴロゴロ、ゴロゴロ……』
『キュゥゥン……』
シロの重低音の喉鳴らしと、コン吉・コン次郎の幸せそうな寝息。
それは、現代社会でストレスに苛まれる人類にとって、あまりにも劇薬すぎた。
「ふさふさの尻尾が……シロちゃんの顔を優しく包んでる……ッ!」
「キツネたちの耳がピクピク動くたびに、シロちゃんがそれを前足でポンポンって……あぁっ、これ以上見たら私の心臓が爆発します!」
小春ちゃん自身も、カメラを構えながら呼吸を荒くし、今にもその場に崩れ落ちそうになっている。
チャット欄のコメントも、次第に様子がおかしくなっていった。
『あ……あぁ……(昇天)』
『ダメだ、可愛すぎて息ができない……』
『画面からマイナスイオンが溢れてきて、部屋の空気がアルプスの山頂みたいになってる』
『尊い……これが尊死というやつか……!』
『ブラック企業で徹夜明けの俺、スマホ見ながらガチ泣きしてる。明日辞表出すわ』
『お母さん、今まで育ててくれてありがとう。俺、この光の向こう側に行ってくるよ……』
視聴者たちが次々と『尊死(あまりの尊さに昇天すること)』を報告し、チャット欄が奇妙なほど静かで平和なポエムで埋め尽くされていく。
そして、彼らはその圧倒的な癒やしに対する『お布施』の衝動を止められなくなった。
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト×20連発)=”OH MY GOD!! TRIPLE FLUFFY!! I WILL BUILD A SHRINE FOR THEM!!“(オーマイガー!! トリプルもふもふ!! 彼らのために神殿を建てるぞ!!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000ギフト×20連発)=”My heart… my heart is melting! Take all my Swiss Francs!“(私の心が……心が溶けていく! 私のスイスフランをすべて持っていけ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500ギフト×10連発)=”This is the world’s best therapy! Crying!“(これは世界最高のセラピーよ! 号泣してるわ!)』
赤、赤、赤。
画面の右端を埋め尽くす高額MeTubeギフトの滝が、もはや個別のコメントを視認不可能なほどの絶対的な濁流となって流れ始めた。
「お、お兄さん! MeTubeギフトの勢いがヤバいです! 画面が真っ赤で何も見えません!」
「まぁ、皆が幸せならそれで――ん?」
俺が湯呑みを置いた、その瞬間だった。
スマートフォンの画面で滝のように流れていたチャットが、突然『ピタリ』と停止した。
「あれ? 小春ちゃん、電波悪くなったか?」
「えっと……電波のマークはMAXなんですけど……あっ、エラーメッセージが出ました!」
小春ちゃんが読み上げた画面の文字に、俺は耳を疑った。
『サーバーとの接続が切断されました。MeTubeギフト機能は現在、世界規模で一時的に制限されています』
「……は?」
俺と小春ちゃんは顔を見合わせた。
「お兄さん……これって、つまり……」
「シロとキツネたちのトリプルもふもふに尊死した世界中の富豪たちが、一斉に高額MeTubeギフトを投げすぎたせいで……決済サーバーが落ちたってことか?」
「ええええええっ!? 配信者一人のせいで、天下の巨大プラットフォームのサーバーがダウンしたんですか!?」
小春ちゃんの絶叫が北海道の青空に響き渡る。
だが、俺は元限界社畜だ。大規模なシステム障害など、企業勤めの頃には日常茶飯事であった。顧客への障害報告の言い訳など、山のようにでっち上げてきた男である。
俺は咳払いをして、フリーズした画面(カメラはまだギリギリ動いているらしい)に向かって、極めて冷静な、カスタマーサポートの声で言い放った。
「……皆さま、落ち着いてください。これは決して、うちの猫とキツネたちのせいではありません」
「いや、どう考えても三匹のせいですけど!?」
「いいですか。システムのサーバーダウンというのは、一般的にトラフィックの異常な集中が原因とされますが、北海道のような大自然に囲まれた場所では『物理レイヤーでの障害』を疑うべきです」
俺はもっともらしい顔をして、さらに言葉を重ねる。
「おそらく、この村の地下を通っている基幹光ファイバーケーブルを、冬支度に焦ったエゾリスの群れが集団で囓り切ったのでしょう。それに伴うルーティングの異常が、結果的に決済サーバーに想定外の負荷をかけた。ええ、田舎ではよくあるインフラの脆弱性です」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんの悲痛なツッコミが炸裂した。
「リスがケーブル囓って、なんで世界規模で決済システムだけピンポイントで落ちるんですか! どう見ても石油王さんたちの課金ラッシュのせいですよ!」
『小春ちゃんのキレキレのツッコミ助かるww』
『主wwwついにインフラまで破壊したぞww』
『世界最強のIT企業を物理的にダウンさせる猫とキツネたち』
『エゾリスに責任転嫁するなwww』
『適応力バグおじさん、ついに通信障害まで北海道の大自然のせいにし始める』
『主の言い訳が苦しすぎて、逆に安心感あるわ』
数分後、なんとかチャット機能だけが復旧し、エラーから生還した視聴者たちの文字が再び流れ始めた。
俺の強引すぎる言い訳は、見事にサーバーダウンのパニックを笑いへと昇華させていた。
「やれやれ……世界中のインフラを止めるなんて、お前らは本当に人騒がせなもふもふたちだな」
俺が苦笑いしながら三匹の頭を撫でると、シロとコン吉とコン次郎は全く悪びれる様子もなく、ただ気持ちよさそうに目を細めた。
『ミャァ……』
『キュン……』
世界規模のサーバーダウンが起きようが、莫大な金が乱れ飛ぼうが、この縁側の時間はどこまでもゆっくりと流れている。
「さぁ、小春ちゃん。俺たちも一緒に昼寝するか」
「はいっ! 私、三匹の隣で寝ちゃいます!」
限界集落で繰り広げられる、世界中を巻き込んだ最高にバグったスローライフ。
今日も俺たちは、温かい秋の陽だまりの中で、圧倒的なもふもふに包まれながら平和な夢を見るのだった。
コメント
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あーもう、このエピソード完全にやられたわ…! トリプルもふもふ団子でサーバー落とすとか、スケールおかしすぎるだろww シロとコン兄弟の黄金と白のコラボ、確かに画面越しでもマイナスイオンが半端なかったし、石油王たちが課金しまくる気持ちめっちゃ分かる。 そしてエゾリスに責任転嫁する主人公の適応力、バグってるけど好き。 小春ちゃんのツッコミも炸裂してて、今回も最高に緩くて温かい回だったわ〜。
ゆうき あきや
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259
#心理描写重視