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#離婚
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海斗が差し出したのは、データの断片ではなく
数十枚に及ぶ「直筆の帳簿」の写しだった。
そこには、直樹の若き日の雇い主であり
後に政界のフィクサーとなった男───
長谷川幹事長への、20年にわたる裏金の流れが記録されていた。
「直樹はね、この帳簿を『命の保険』として、俺の母親に預けていたんだ。自分がいつか九条や帝国開発に消されると分かっていたから」
「……詩織さん、あんたが今戦っている連中は、この長谷川の『駒』に過ぎない」
海斗の言葉に、私は父の万年筆を握る手に力を込めた。
父の会社を執拗に追い込み、倒産へと導いた本当の黒幕。
直樹という怪物を生み出し、利用し、捨てた、真の「捕食者」。
「……でも、直樹の息子であるあなたに、協力するメリットが私にあるの?」
「メリット?…あんたは、自分の『帳簿』を完璧に閉じたいんだろ。俺は、自分を捨てた『血』を完全に否定したい。……目的は違っても利害は一致しているはずだ」
海斗の冷徹な合理性は、驚くほど直樹に似ていた。
けれど、その奥底にあるのは
直樹のような「支配欲」ではなく、自分の存在を証明するための「渇望」だった。
そんな私たちの会話を、ドアの影で陽太が聞いていた。
「……ママ。その人、パパの……僕のお兄ちゃんなの?」
陽太の震える声に、海斗の表情が一瞬だけ強張った。
陽太は海斗に歩み寄り、彼が持っていた「一円募金の瓶」をそっと差し出した。
「お兄ちゃんも、これ、手伝ってくれる? ……パパはたくさんの人を悲しませたけど、僕たちは、それを『ありがとう』に変えたいんだ」
海斗は、キラキラと輝く一円玉が詰まった瓶を呆然と見つめた。
直樹が一生かけても手に入れられなかった、純粋な「一円の価値」。
「……おめでたいガキだな」
海斗は毒づいたが、その手は瓶をしっかりと受け取っていた。
直樹の「悪」を継ぐ者と、父の「誠」を継ぐ者。
二人の少年が、私の帳簿の上で、奇妙な交差を見せた瞬間だった。
「……あなたの『持ち株』、私のプロジェクトに投資しなさい。…長谷川幹事長を、一円の余地もなく社会的に抹殺する。それが、私たちの共同事業よ」
【残り17日】
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