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「同伴……か……」
ガランとした広いリビングに小さく響く独り言に、優子は、バルコニーに広がる青空と、モクモクと迫り上がっている入道雲を、ぼんやりと見つめている。
今度、廉と会うのは、お泊まり、という事だ。
「いつものホテルで、二日間、部屋に閉じこもってエッチするって事……?」
廉と身体を交えるようになって二ヶ月になったけど、彼は、優子を丁寧に抱いてくれる。
彼女の嫌がる事は、一切しない。
廉からすれば、優子の立場は売女だ。
でも彼は、彼女を『女』として扱い、慈しむようなセックスをする。
だけど、廉のポリシーなのか、情事の時、キスだけはしない。
口付けは、好きな女だけと交わす主義なのだろう。
「同伴の時に着ていく服でも、買いに行くかな……」
彼女は立ち上がると、白のTシャツとブラックデニムに着替え、黒革の二つ折り財布と部屋のキーをデニムのポケットに突っ込み、部屋を出た。
ホテル近くのデパートでは、夏のクリアランスセールが始まっていた。
目当てはワンピース、または、ボトムスがロングスカートの、カジュアルなセットアップ。
優子は、三階から五階までのレディースファッションフロアを歩き回っていると、四階のキャリアファッションブランドの多いフロアで、見覚えのあるブランドロゴの店舗が視界に入り、彼女は立ちすくんだ。
かつての仕事場だった『Hearty Beauty』が出店している。
逮捕前にも、彼女は、ここの百貨店に足を運んでいたけど、当時は別のブランドショップだった。
(私が服役中に、いつの間にかオープンしていたんだ……)
広報部だった優子は、新店舗がオープンすると、数日間、手伝いに借り出された事を思い出す。
優子は、躊躇いつつも、Hearty Beautyの店舗に足を向けた。
流行を取り入れつつ、シンプルで上質な服は、優子が在職中の時と変わらずだった。
今年は、ビビッドカラーが主流なのか、Hearty Beautyで扱っている服は、深い海を思わせるブルーや、草原を感じさせるグリーンなどが多い。
(あ……このセットアップ……素敵かも)
彼女は、コットンリネン素材のセットアップに手が伸びていた。
鮮やかなロイヤルブルーの生地で仕立てられた、ボートネックのプルオーバーブラウスと、控えめな広がり具合のロングフレアスカート。
(素敵だな……この服……。だけど……)
罪を犯し、ブランド名に大きな傷を付けた優子に、ここの服を着る資格はない、と思い直し、店から立ち去った。
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