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モートの今朝は、アリスが来る時間までに、ノブレス・オブリージュ美術館の正門を押しつぶすかのような、ズッシリとした雪を取り除くという作業をしていた。正門を行き交う人々は、皆、モートに挨拶をしている。
「あ、モート。今日は大変だねー」
通りすがりの煙突掃除屋の男性がモートに声を掛けた。
「ああ。今年始まって以来の大雪だってさ。今朝のサン新聞に載っていたね」
モートはせっせと雪かきをしたり、青銅の正門に固まってしまった氷をスコップで丹念に削ったりしていた。ノブレス・オブリージュ美術館の使用人たちは、女中頭からの号令で、総動員で広い館内の大掃除であった。
道路はすでにアイスバーンとなっていて、交通が滞っていた。流れにつまった車が目立っている。深夜ダイヤモンドダストがここホワイト・シティを襲い。夜に外へ出ることが、自殺行為の夜だった。
生憎。今日はモートは狩りをしなかった。
午前9時過ぎになると路面バスが停まり。アリスが反対側の道路から足早に歩いて来た。珍しくシンクレアと一緒だった。
何故かシンクレアの魂もアリスの魂も赤色だったので、モートは何か起きたのだろうと察して瞬時に険しい顔になっていた。
勢いよくアリスがモートの肩に抱き着いてきた。
そして、モートの耳元でシンクレアに聞こえないように囁いた。
「あのね、モート。シンクレアの姉弟の一人。ミリーが昨夜に外へ出かけてしまって、そのまま帰ってこなかったのです」
アリスの不安に押しつぶされそうなほどの震える声に、モートは思考が硬直した。
「アリス。今日はぼくは大学を休むよ……じゃあ、シンクレア。昨日借りた教科書を返すのは明日だね」
「え……? あら! モート! それどころじゃないけど……?」
モートはスコップを投げ出して、オーゼムを探しに走り出した。
「あの教科書は今日使うのよー!」
後ろからのシンクレアの叫び声も気にせずに、オーゼムなら何か知っているかも知れないと考えた。時と場合によっては一緒に探してもらうためでもあった。
モートはまず何色にも見えないオーゼムの魂を探すために、この街で一番高い塔のシルバー・ハイネスト・ポールに登るためイーストタウンへと向かった。
人ごみをかきわけて走り、とめどもない横断歩道を縦横し、数十ブロック先のシルバー・ハイネスト・ポールに辿り着いた頃には一時間が経っていた。
シルバー・ハイネスト・ポールは石造りの塔で、約400年前にホワイト・シティの統治者が建立した歴史的な建造物の一つで、大勢の観光客が年に二回は訪れる場所だった。
今の時期では、物珍しそうに佇んでいる遠方から来たホワイト・シティの住人がちらほらと見えていた。寒々とした木々の真ん中にポツンと立つ真っ白な塔。この塔の上からなら街全体が見えるのだ。
モートは塔の中へと入り、一階の土産物屋を無視して石壁の脇にある。グルグルと塔の頂上まで巻き付いた螺旋階段を登った。
普通、観光客は入れない立ち入り禁止の扉をモートは通り抜け、塔の外側の石階段を登って行った。
やっと、着いたシルバー・ハイネスト・ポールの頂上では、無限に振り撒かれる雪が舞い落ちるホワイト・シティの街全体が見えた。
モートは僅かな希望を持って、遥か下の人々の魂から赤い魂を見つけようとした。だが、見つからなかった。皆、青い色か黄色か灰色だったのだ。そこで、モートは何色にも見えないオーゼムの魂を見つけようとした。
しばらく、モートは目を凝らすと、
「見つけた! オーゼムだ!」
モートは、ノブレス・オブリージュ美術館から遥か西のここイーストタウンの一軒屋に、何色にも見えない魂を発見し塔から飛翔した。