だが、見間違いでなければ、そこには青い色のもう一つの魂があった。
下方には銀世界の中の迷路のような道路は全て、人々の足跡と共に凍り付いていた。路面バスや車が最徐行で街の入り乱れた道路を息を止めるているかのように流れている。昨夜はダイヤモンドダストが起きたので、深夜ではミリーは絶対に生きていないはずだった。だから、きっとオーゼムが助けたのだろう。
そこまで考えたモートだったが、オーゼムの家までイーストタウンの建物を通り抜けながら飛び跳ねたりと急いで進んだ。人も街もモートは通り抜けられる。前を歩く行き交う人々も驚いていた。皆、モートの後ろ姿に振り返っていた。
何故、切羽詰っているかというと、オーゼムの家と思わしき場所へ黒い魂が三人も乱入したからだ。
オーゼムの家にモートは辿り着いた。
針葉樹で囲まれた石造りのその家は、二階がだいぶ騒がしくなっていた。モートはすぐに十字架が飾られた入り口の扉を通り抜けた。二階へとキッチンからシチューの匂いがする廊下を走り、土足で荒らされた白いカーペットの床を蹴って階段を登った。
二階はドアが四つだが、その一番奥にオーゼムの魂が見える。ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていたので、モートは強引に通り抜けた。
「キャー!!」
ミリーの悲鳴がする。
悪漢の一人がナイフをミリーとオーゼムに向かって振りかざしていた。
モートは瞬く間に三人のナイフや銃を持った悪漢の首を狩った。
悪漢の首がごろりと血を巻き上げて床に転がり、一人の首が窓を突き破って吹っ飛んだ。鮮血が桃色のカーペットにドクドクと大きな染みを作る。
「モート君。お蔭で助かったよ。けれどもねー……天はどう思うのでしょう?」
オーゼムは胸の上で十字を切って小声で言った。
「ああ。それでも、ぼくは人を狩るしかないんだよ……」
モートはそう平静に言葉を漏らすと、恐怖で顔を歪ませ震えて立っているミリーの前で、ミリーの手を優しく握り、その手を左頬に当てた。勿論、モートの考えた行動だった。
「もう、大丈夫だ……」
「モート……」
それ以上。ミリーは何も言わずに泣き崩れた。
モートは困って、オーゼムの方を向いた。
オーゼムは未だに眉間に皺をよせ俯いて考え込んでいたが、すぐに顔を上げ笑みを含んだ顔をモートに見せた。
「いやはや、モート君はいつも私の期待通りで、結構。結構。大いに……いや……期待以上か……賭けはまた私の勝ちだね」
「オーゼム?」
モートは何の賭けだかわからなかったので、オーゼムに目で問うことにした。
「ああ、子供の頃からの私の趣味でね。実はミリーは、あ、でも。言っていいのかな? とある事件に関わっていて……灰色の魂だったんだよ。でも、今は青い色の魂だね。そう、私は青い色の魂になる。と、天界の兄と賭けていました。兄は黒い魂なると賭けましたが……何を言っているのかわからないといった顔ですね。でも、説明しようとしても……ミリー……」
そこで、オーゼムはミリーの頬を優しく撫でて説明を促した。
女学生のミリーは痩せすぎで、血色が悪く。そばかすばかりの顔だったが、シンクレアに似て美人だった。髪の色は茶髪だが、金髪に近い。ミリーは涙を拭って、話し出した。
「オーゼムさんの言うことをわかりやすく言うと、あのね……。モート……私は実は街の窃盗団のリーダー的な存在だったの……」
…………
淹れたてのコーヒー豆をミルで挽いていたオーゼムは、自家製シチューでモートたちに細やかながらおもてなしをしてくれた。
窓の外は未だに大雪で、ヒューヒューと鳴る風がまるで人の悲鳴のような音に聞こえた。
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