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「じゃあとりあえず町を探そう!」
 チュートリアルが無いと聞いたちんすこうはすぐに歩き出した。まるでめげない少女である。


「お待ちください、その前に自分のステータスを確認しましょう」


 だがサーターアンダギーが呼び止めた。チュートリアルは無いが、ナビゲーターとして操作の説明をするのだという。


「結局あるんじゃん!」


「ゲームのシステムとしてのチュートリアルはありませんが、私の判断でちんすこうさんに必要な操作を教えるのです。その為のナビゲーターですわ」


 ちんすこうはよく分からない様子で首を傾げた。


「……まず、ここは仮想現実ヴァーチャルリアリティの世界です。なので現実には出来ない事も出来てしまうのですわ。自分の姿を決めた時のように、頭で自分のステータスを見たいと念じてください」


 難しい注文である。通常、人間は何かを念じるという行動は取らない。「念じよう」と思ってもなかなか上手くいかないものだ。そんな事は無いと思うなら、試しに「自分のステータスを見たい」と念じてみて欲しい。恐らく頭の中でその言葉を言うだけだろう。


 この仮想空間がプレイヤーのそんな思考を実現するような世界であったら、何かを考えるたびに目の前で様々な事が起こってしまう。不便でもあるが、何より自分の思考が周囲に筒抜けになる『サトラレ状態』になってしまい、とても居心地の悪い世界になるだろう。


 ちんすこうは頭の中で自分のステータスを見たいと思ったが、当然のようにそんなものは見えなかった。


「見れないよ!」


「少々お待ちください、ナビゲーターマニュアルを確認しますわ……ふむふむ、もっと具体的に映像をイメージしないといけないようですわね。イメージがわかない時は『ステータスオープン! ちんすこうのステータスを表示』と口に出して言えば目の前に表示されるようです」


 さすがに救済機能も用意されているようだ。なるほどと手を打ったちんすこうは、元気よく声を出した。


「ステータスオープン! サーターアンダギーのステータスを表示!」


「なにゆえ!? ナビゲーターにはステータスが設定されておりませんわ」


 彼女の言う通り、ナビゲーターのステータスが表示される事は無かった。不満げに頬を膨らませるちんすこう。


「ぶー、見たかったのに。じゃあちんすこうのステータスを表示!」


 ちんすこうの眼前に、空中に浮かぶステータスウィンドウが現れる。表示内容はちんすこうの全身像と各種能力の表示だけと、極めてシンプルなものだ。ただ、何も無い空中に突然表示されたのでちんすこうは大興奮だった。


「おおお! なんかカッコいい、凄い!」


 はしゃぐ少女だが、そこに書かれている文字を読むと眉をひそめた。


 ちんすこう レベル1

 力:弱い

 頭:弱い(※わかる)

 足:遅い

 手先:不器用

 業:普通


「ダメじゃん!」


 キャラを作ったばかりなのだから特におかしい事はないのだが、数値ではなく言葉で示されるとまるで罵倒されているようだ。


「レベル1ですからね。ステータスが低いのは仕方ありませんわ」


 説明され、それもそうかと思い直すが、どうにもよく分からない能力があった。


「業ってなに?」


「カルマと読むのですわ。善行を積むと善に、悪行を繰り返すと悪に変化するようですわね」


 悪行と聞いて、またもや夢の内容を思い出す。


――犯した数々の罪は消えません。


 夢の中で、彼女は宇宙海賊と呼ばれていた。だが、宇宙だから宙賊じゃないのかという疑問が湧いてきて何を気にしていたのか忘れてしまった。


「宇宙海賊っているの?」


「あら、よく分かりましたね。これから説明するところだったのですが、カオスユニバースはその名の通り宇宙が舞台のゲームですわ。プレイヤーは自由に行動できる代わりに、悪事を働くと犯罪者として宇宙警察に追われる事になりますの。その犯罪者プレイヤーは宇宙海賊と呼ばれるのですわ」


「宇宙だから宙賊じゃないの?」


「語呂が悪いから却下したとお父様が仰っていますわ」


 ちんすこうはこれまでで一番納得した表情でなるほど! と大きく頷いたのだった。


「今いるこの場所はカオスユニバース最初の星、ミッドガルドですわ。ここで宇宙船を手に入れるところまでがある意味チュートリアルのようなものですわね」


 サーターアンダギーの説明は、まだ続くようだ。

帰ってきたスイーツガールズ!(えっ、どこから?)

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