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バレーボールトーナメントの決勝が行われる前にどうやら先生方によるエキシビションマッチが行われるらしく、体育館中の生徒たちは大盛り上がりしている。
女子校なので両チームとも女性の先生がほとんどを占めているが、その中で一人だけ身長が飛び抜けている男性教師が目を引く。
「あれ?あそこにいるの七宮先生だよね?」
「うん」
…七宮ってアレか、成瀬に好意を抱いている明らか元ヤンのアイツか。『王様ゲーム』したときにちょろっと会ったくらいで、あんまり関わりが無かったから最初は気付かなかったな。
「七宮先生の相手チームにも一人だけ男の先生いない?」
「ほんとだ」
アレは確か……体育教師の歌代泰久《うたしろ たく 》だった気がする。バランスの良い筋肉とソフトベリーショートの髪型、大きな丸い目と全体的に色素が薄い感じがゴールデンレトリバーを彷彿とさせる所謂大型犬系男子という好ビジュアルにも関わらず、その女心が分からなさすぎるが故のデリカシーのない言動によってモテないレベルが完ストしていると噂の残念教師。
七宮がバレー部顧問の先生が放ったサーブを正確に受け止め、打ち上げる。観覧席の女子たちが歓声を上げる中でラリーが続いていく。
「うわー!!すごっ!!」
純粋にバレー観戦する成瀬の横顔はいつになく楽しそうで、あーしも釣られて笑みが零れてしまう。……自然に笑えたことになんだかホッとした。
しかし、次の瞬間あーしの視界は歪み始めた。同時に周囲の喧騒が遠退いていく感覚に襲われる。
…あ。これ、ヤバいやつだ。
緊張の糸がぷつりと切れてしまったからだろうか。今まで堰き止めていた感情が傾れを起こしたみたいに、封じ込めていた記憶がフラッシュバックする。
嫌だ、怖い、苦しい、辛い、…………身体の中から目紛しい傷みが溢れそうになる。嗚呼どうしよう。……こんなのも受け止め切れないなんてあーしが弱いせいだ。でも、堪えなければならない。落ち着こう、落ち着こう、落ち着こう、落ち着こう。……まだ駄目だ。忘れよう、忘れよう、忘れよう、忘れよう…………………
…………ッ………助けて。
ーー突然、衝撃を感じた。身体が揺り動くような衝撃を。
「え」
それをキッカケにして五感が再び動き始める。
「……落ち着いた?」
耳元で声がした。
「!」
そこでやっと、自分の身体が逞しい腕に抱かれ、頭部を頑健な肩に預けている状態であることに気付く。…………誰の?
なんとか自分の力で身体を起こすと、鼻先が触れそうな距離で“その人”と視線がぶつかった。
「歌代!?」
まさかまさかの歌代泰久が目の前にしゃがみ込んであーしを見上げている。……試合していた筈では?
「こら、呼び捨てすんな」
「……試合は?」
「ったく、もう終わったよ」
「あ……」
隣を向くと、側には成瀬が心配そうに座ってくれていた。
「西田ッ……」
「ごめん成瀬」
あーしには、さっきの約束を守ることしか成瀬を安心させる術が無い。
「……ホッとしたら今までのがドッと来ちゃったっぽい。今日は先に帰っても良いかね?」
「もぉ〜!!良いに決まってるし!!……また無理させたかと思った」
「ばーか、心配しすぎ。ほんじゃあ、バリバリ元気になって戻ってくるからさ。また学校で会おぜい」
「おっけい!!明日の体育大会は来れなくても大丈夫だかんね。西田の分までサッカー頑張ったるでい!!」
成瀬に手を振ってあーしは歩き出す。さりげなく歌代が隣に着いてきてくれた。
「……なんで分かったの」
「ん?まぁ……顔、かな」
「顔?」
「顔に“助けて”って書いてあった」
「…っ」
「何があったかは知らんが、…さっきの子は良い友達だな。ギャルがめちゃくちゃ青春っぽい会話してんのオモロかったわ」
「はぁ?歌代のくせにうるせー」
「ったく、また呼び捨てにしやがって」
歌代がわざとらしく唇を尖らせるのを横目にあーしは小さく吹き出した。
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