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「もう……、嫌なんです。昭人なんかに支配されるの……っ。彼氏らしくしてくれた事はあったかもしれないけど、心から私を大事にしてくれていなかった。私の事は、全部優秀なお兄さんを見返すための道具としてしか、求めてなかった……っ」
――あぁ、嫌だ。
――何回も同じ事を言ってしまっている。
「『彼氏らしくしてくれた』って、庇わなくていい。〝善く〟あろうとしなくていいんだ。朱里は沢山傷つけられたんだから、思ってる事を叩きつけろよ」
言いたい事は沢山ある。
でも尊さんの前で、汚泥のような自分をぶちまけるのは嫌だ。
けど、それさえ言えなかったら、今後彼と夫婦になるのに本心を見せられないと思われそうで恐い。
「〝何となく〟で付き合わなきゃ良かった。『みんな彼氏がいるから、私も』なんてノリじゃなくて、もっと自分を大切にすれば良かった……っ」
「自分を責めるなよ。違うだろ? 田村に言いたい事があるはずだ。あいつにはもう直接届かないけど、俺が聞いてやるよ」
彼はそう言ってくれているけれど、「死ねばいいのに」なんて言葉、尊さんの前で言いたくない。
簡単な罵倒の言葉であっても、人の死を願う事がどんなに重たい事か、私も尊さんもよく分かっている。
「……っ、尊さんの前で言えない……っ。~~~~っ、綺麗でいさせて……っ」
泣き崩れると、彼は悲しそうな顔で私を見つめ、トントンと背中を叩いてきた。
「俺の前で言えなかったら、それでいいよ。俺も朱里の前では見せたくない姿はあるから、気持ちは分かる。……でも、帰国したあとでもいいから、中村さんとカラオケでも行って、ストレス発散して来いよ」
「はい……っ」
私はギューッと尊さんを抱き締め、「ごめんなさい……っ」と謝る。
「いいよ。俺も怜香の事で、呪いの言葉を吐いて荒んでる姿を見せたくない。……お前ともっと前から会いたかったって思ってるけど、人生で一番荒んでる時期を見られずに済んだのは、良かったと思ってる」
「……尊さんって、理想の男性ですよね」
私は彼の頬を撫で、ちゅっとキスをする。
「そう思ってくれているなら嬉しい。朱里がいるから『理想の姿でありたい』って思えているし。そりゃあ、結婚するし腹を割った関係でありたいけど、同性の友達にしか見せられない面まで、全部見せられるかって言ったら少し違うからな。俺にも守りたい面子はあるし、子供ができたらもっと理性的でありたいと願う」
「うん……。分かります。いつか母親になった時、ちゃんと尊敬してもらえるお母さんになりたい」
「八月下旬か、九月に女子会を予定してるんだろ? その時にでも発散して来いよ。いつも三ノ宮さん持ちだったら悪いから、次は俺が場を提供するから」
「ありがとうございます。でも、女子同士の問題ですから、いいですよ。それに安くつくホテルなら、ラブホ女子会って言ったら、春日さんノリノリで参加しそう」
「ははっ、マジか」
尊さんは笑ったあと、顎クイして言った。
「女子会ならいいけど、男と行く時は俺とだけだぞ」
「う……、わ、分かってますよ。他の男性と行く訳ないじゃないですか」
「朱里は俺だけのもんだ」
大きな体に包み込まれるように抱き締められ、私はこの上ない幸せを感じる。
確かに尊さんには自分の汚い部分を見せられないけれど、こうやって一緒にいて安らげる存在は彼だけと言っていい。
一緒にいるだけで幸せな気持ちになって、フワフワして、「自分は世界一幸せな女の子だ」って思える彼氏に出会えた事は、この上ない誉れだ。
「落ち着いたか?」
頭を撫でられ、私は「はい」と頷く。
「上がるか?」
「……もうちょっとだけ、このまま」
私は尊さんの膝の上に座り、彼に抱きついたまま目を閉じる。
静かなバスルームの中、トクントクンと尊さんの鼓動が聞こえ、私の気持ちを落ち着かせていく。
日常に戻ったら一緒にお風呂に入っても、どこか次の予定を気にしてしまっているから、ケアンズ最終日の夜を贅沢に使おうと思った。
**
「恵ちゃーん、マッサージお兄さんが来ましたよ~」
「キモいからやめてください」
シャワーに入ったあと、私――、中村恵は、タオル片手にジリジリ近づいてくる涼さんに向かって恐い顔をし、威嚇する。
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