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おおお、第6話、めっちゃ重かった……! カラザ、あのオウムガイみたいな見た目で「人間は自然破壊生物」って断定してくるところ、ゾッとしたよ。でも、故郷を失った難民で、地球に来たのも生きるためってのが刺さった。ユウの「必ずなんて決めないで」って返し、短いけど核心突いててカッコよかった! そしてHASAもやっぱり裏で動いてるし、この世界観、敵味方が複雑すぎて好き。砂漠の砂を月に持ち帰るラスト、めちゃくちゃ良い伏線になりそうだね。次話が待ち遠しい!
第6話 枯れ敵
校舎裏の畑で、風が止まった。
HASA広報官の足元には、細い緑の根がのぞいている。
ユウはその根の前に立った。
ミハルはノートを抱え、男の手元を見ていた。
透明ケースの中で、接触種子の抜け殻が震えている。
男は笑った。
「その根は、危険物です。こちらで管理します」
「渡しません」
ユウの声は、自分でも驚くほど硬かった。
男の笑みが薄くなる。
「あなたは、自分が何を持っているのか分かっていない」
胸元でリウの声がした。
下がるな。
ユウは動かなかった。
ミハルが一歩前に出る。
「HASAはずっと隠してきたんですよね。月面着陸の映像も、月の森も」
男の目が初めて揺れた。
ほんの少し。
でも確かに。
「誰に聞きましたか」
ミハルは答えない。
ユウも答えない。
男は透明ケースを懐へ戻した。
「残念です」
その言葉と同時に、畑の周囲で小さな音がした。
かちり。
かちり。
土の中から、細い棒のような機械が四本出てくる。
先端がユウたちへ向く。
ミハルが息を止めた。
「麻酔装置か何か?」
リウの声が鋭く響く。
接触種子を根へ。
ユウはしゃがみこみ、胸元の種を引き出した。
男が叫ぶ。
「やめなさい!」
ユウは接触種子を、土からのぞく緑の根へ押し当てた。
根が光る。
接触種子が応える。
畑の土に、緑の輪が広がった。
だが、いつもの月へ続く光とは違った。
光の中に、砂の色が混じった。
乾いた風が吹いた。
ミハルがユウの腕をつかむ。
「これ、月じゃない!」
リウの声が一瞬遅れる。
ずらされた。
「誰に!」
答えはなかった。
足元が消える。
朝の校舎。
HASAの男。
畑の支柱。
全部が遠ざかる。
次にユウが感じたのは、熱だった。
乾いた熱。
肌を刺す風。
口の中へ入り込む砂。
ユウは膝から崩れた。
手をついた地面は、湿った土ではない。
砂だった。
見渡すかぎりの砂。
低い岩。
割れた地面。
細い枯れ草。
遠くで、陽炎が揺れている。
ミハルが隣で咳き込んだ。
「どこ……ここ」
ユウは空を見上げた。
月内部の森ではない。
学校でもない。
本物の地球の砂漠だった。
胸元の接触種子は、弱く光っている。
リウの声が途切れながら届いた。
……砂漠地帯……枯れ敵の影響線……近い……
「リウ!」
返事は乱れた。
通信がかすれる。
接触種子の中で、緑の光が細くなる。
ミハルがノートをリュックにしまい、水筒を取り出した。
「ユウ、飲んで」
「ミハルも」
二人で少しずつ水を飲む。
水はすぐにぬるくなった。
風が吹くたび、砂が足首を打った。
ユウは周囲を見た。
人影はない。
でも、何かの跡がある。
砂の上を、大きなものが這った跡。
円を描くような深い筋。
そして、複数の細い線。
「足跡……じゃない」
ミハルがつぶやいた。
ユウは跡をたどった。
その先に、低い岩山がある。
岩山の根元に、入口のような穴が開いていた。
冷たい風が、そこから吹き出している。
砂漠なのに、その穴だけが生き物の口みたいだった。
接触種子が震えた。
リウの声が戻る。
離れろ。
「何がいるの」
枯れ敵だ。
その瞬間、穴の奥で音がした。
ざり。
ざり。
硬いものが砂をこする音。
ミハルがユウの袖を握る。
穴から、触腕が出てきた。
一本。
二本。
何本も。
乾いた砂の上を探るように動く。
続いて、渦を巻いた巨大な殻が現れた。
オウムガイに似ていた。
けれど、ただの生き物ではない。
殻はユウの背丈よりずっと大きい。
表面には細かい傷がいくつもあり、古い地層のような筋が走っている。
殻の奥から、目が二つ見えた。
乾いた石のような目。
それがユウたちを見た。
ミハルの呼吸が止まる。
ユウも動けなかった。
胸元でリウが低く言う。
カラザ。
「名前?」
枯れ敵の一体だ。
カラザは触腕をゆっくり持ち上げた。
声は口から出なかった。
砂が震えた。
頭の中に、乾いた音が届く。
人間。
ユウは唇を開いた。
「話せるの……?」
壊す者。
その言葉は、最初から判決のようだった。
ミハルが震える声で言う。
「私たちは、壊しに来たわけじゃない」
カラザの目がミハルへ向く。
人間は、いつもそう言う。
ユウは拳を握った。
「あなたたちは、枯れ敵?」
有楽の呼び名だ。
「じゃあ、本当の名前は」
失われた。
風が吹いた。
砂が足元を流れていく。
カラザはゆっくり殻を動かし、穴から完全に出てきた。
大きい。
近くで見ると、さらに大きい。
触腕の先には細かな感覚器があり、砂の温度を読むように地面をなぞっている。
怖い。
ユウはそう思った。
でも、逃げられなかった。
カラザの声が続く。
我らは外から来た。
故郷を失い、無重力空間を漂い、乾いた星を探した。
ミハルの目が少し変わる。
怖さの中に、聞きたいという光が戻る。
「難民……なの?」
カラザの触腕が止まる。
人間の言葉では、そう呼ぶらしい。
ユウは砂漠を見た。
ここに来るまで、枯れ敵はただの敵だと思っていた。
森を減らす存在。
川を消す存在。
人間を利用する存在。
でも目の前のカラザは、故郷を失ったと言った。
乾いた土地を探して来たと言った。
「どうして地球を変えようとするの」
ユウが聞いた。
カラザの目が、ゆっくり細くなる。
生きるためだ。
「森や川があっても、生きられないの?」
湿りは殻を腐らせる。
根は地下を裂く。
森は我らの道を塞ぐ。
水は記憶を流す。
カラザの声は、怒りではなかった。
もっと古いもの。
長くこすれて角が取れた石のような声だった。
我らにとって、枯れた土地は墓ではない。
家だ。
ミハルはノートを取り出しかけて、やめた。
書くより先に、見ていた。
ユウはゆっくり言った。
「でも、地球には森で生きるものもいる」
知っている。
「なら」
だから、人間を見た。
カラザの触腕が、砂の上に線を描く。
線は木の形になった。
次に、人の手の形。
その手が木を倒す形。
人間は、我らが望む前から森を切った。
我らが教える前から川を汚した。
我らが押す前から土地を削った。
カラザの目がユウを見た。
人間の本能は自然破壊である。
ミハルが首を振る。
「違う。守る人もいる」
いる。
カラザはすぐ認めた。
だが少ない。
「少なくても、いるなら」
少数は流れを変えない。
ユウは言葉に詰まった。
有楽の観察館で見た記録が頭に浮かぶ。
森を切る手。
苗を植える手。
火を放つ者。
火を消す者。
人間は一つではない。
でも、カラザの言葉も完全には否定できなかった。
ユウは砂を見下ろした。
「じゃあ、あなたたちは人間をどうするつもりなの」
利用する。
カラザの答えはあまりにまっすぐだった。
ミハルが顔を上げる。
「ひどい」
人間も利用する。
木を。
川を。
獣を。
同じだ。
「同じじゃない」
同じではないと思うのは、使う側だからだ。
ミハルは口を閉じた。
ユウはカラザを見た。
「人間は変われないって思ってるの」
カラザはしばらく黙った。
風が砂を動かす。
遠くの岩が熱で揺れて見える。
変われる個体はいる。
種としては、変わらない。
その言葉は、有楽の見方よりずっと冷たかった。
有楽は人間を信用していない。
でも見捨ててはいない。
カラザは違う。
見て、測って、結論を出している。
人間は壊す。
だから使う。
それだけ。
「あなたたちだって、地球を壊してる」
ユウは言った。
カラザの目が、少しだけ動いた。
壊していない。
変えている。
「森で生きるものから見たら壊してる」
我らから見れば、森が侵している。
ユウは息をのんだ。
世界の見え方が違う。
同じ地球を見ているのに。
有楽は森を守る。
枯れ敵は枯れを守る。
人間は、その間で何度も壊し、何度も育てる。
どれが正しいのか。
簡単に決められなかった。
カラザが触腕をユウへ伸ばした。
リウの声が鋭くなる。
下がれ。
ユウは一歩下がった。
カラザは止まった。
有楽の種を持つ人間。
「接触種子のこと?」
有楽はまた人間に期待した。
愚かだ。
「リウたちは、全部の人間を同じにしない」
だから負ける。
ユウの胸元で、接触種子が強く熱を持った。
リウの声が、かすれながらも届く。
聞きすぎるな。
カラザの声が重なる。
有楽は見ているだけだ。
我らは、人間を理解している。
ユウは眉を寄せた。
「理解?」
壊したい。
増えたい。
使いたい。
勝ちたい。
それが人間だ。
ミハルが叫んだ。
「違う!」
砂漠に声が響いた。
カラザは動かなかった。
ミハルはリュックのひもを握りしめている。
「確かに、そういう人もいる。でも、それだけじゃない。守る人も、助ける人も、植える人もいる。月の観察館に、そういう記録があった」
カラザの目が細くなる。
有楽の記録か。
「そう」
有楽は、例外を愛しすぎる。
ミハルは唇を噛んだ。
ユウは一歩前に出た。
「例外じゃなくなるかもしれない」
カラザの触腕が砂をたたいた。
かすかな振動。
かもしれない。
それで森は守れるのか。
「分からない」
またその答えか。
カラザの声に、初めて少しだけ怒りが混じった。
人間は分からないと言いながら壊す。
分からないと言いながら進む。
分からないと言いながら、戻れぬ場所まで来る。
ユウは胸が痛くなった。
否定できなかった。
分からないまま、進んできた。
人類は。
自分も。
でも、そこで止まったら何も変わらない。
「分からないから、見たいんだ」
カラザの目がユウを射る。
「あなたたちのことも。有楽のことも。HASAのことも。人間のことも。ちゃんと見ないと、選べない」
砂漠が静かになった。
カラザは長くユウを見た。
それから、ゆっくり触腕を引いた。
人間の短い命は、よく燃える。
「ほめてる?」
観察している。
「有楽みたいなこと言う」
カラザの目がわずかに冷える。
我らを有楽と並べるな。
ユウはすぐ黙った。
その時、遠くで機械音がした。
砂丘の向こう。
低いエンジン音。
ミハルが振り向く。
「車?」
リウの声が途切れながら届く。
HASA……追跡……
砂丘の上に、灰色の車両が三台現れた。
側面にHASAの印。
人影が降りる。
防砂装備。
探査機材。
その先頭に、校舎裏にいた広報官がいた。
男は遠くからでも分かる笑みを浮かべていた。
「こんなところまで……」
ミハルの声が震える。
カラザはHASAの車両を見た。
人間は速い。
「あなたが呼んだの?」
ユウが聞く。
違う。
カラザの触腕が砂の中へ沈む。
だが利用できる。
砂が揺れた。
HASAの車両の足元で、地面が沈み始める。
探査員たちが慌てる。
広報官だけは動かない。
むしろ、カラザを見て笑った。
「接触成功」
その声は風に乗って届いた。
ミハルの顔色が悪くなる、という言葉を思い浮かべかけたが、ユウは別の言葉を探す前に足元を踏んばった。
リウの声が響く。
逃げろ。
ユウはカラザを見た。
「あなたはどうするの」
カラザは殻を少し傾けた。
人間を見る。
「HASAも?」
すべて人間だ。
その答えが、ユウの胸に刺さった。
HASAの男も。
ミハルも。
自分も。
枯れ敵から見れば、同じ人間。
自然破壊生物。
利用できる存在。
カラザの中で、違いは小さい。
ユウはそれが悔しかった。
悔しいのに、反論のための証拠はまだ持っていなかった。
HASAの探査員たちが近づいてくる。
広報官が声を張った。
「日向ユウさん、長瀬ミハルさん。こちらへ。そこにいる存在は危険です」
ミハルが小さく言う。
「どの口で」
ユウは接触種子を握った。
緑の光は弱い。
月へ戻る道は、まだ乱れている。
リウの声が苦しそうに響く。
砂漠の干渉が強い。
セナが道を探している。
カラザがユウたちを見た。
有楽へ戻るのか。
「戻る」
そしてまた迷う。
「迷っても、戻る」
カラザは触腕をゆっくり持ち上げた。
砂が舞う。
その奥で、HASAの探査員たちが足を止めた。
なら伝えろ。
「何を」
有楽に。
我らは、もう待たない。
ユウの背中に冷たいものが走った。
カラザの声が、砂漠全体から響く。
枯れセカイは近い。
人間はすでに道を作った。
我らは、その道を通る。
ミハルが震える声で言った。
「人間が作った道って……」
カラザの目が、HASAの車両へ向く。
都市。
工場。
乾いた川。
切られた森。
掘られた地下。
人間は入口を作るのがうまい。
ユウは息を止めた。
枯れ敵が地球を壊している。
そう思っていた。
でも、枯れ敵は人間が作った壊れやすい場所を通っている。
人間が開いた傷口から入っている。
「ユウ!」
ミハルが叫んだ。
足元に緑の輪が戻っていた。
不安定だが、確かに光っている。
リウの声。
今だ。
広報官が走り出す。
「止めなさい!」
カラザの触腕が砂をたたく。
HASAの足元が崩れる。
探査員たちが倒れる。
広報官だけが必死に腕を伸ばす。
ユウはミハルの手をつかんだ。
最後にカラザを見る。
巨大な殻。
乾いた目。
砂を読む触腕。
故郷を失い、地球を変えようとする難民種族。
敵。
でも、ただの敵ではない。
カラザの声が、最後に届いた。
人間は、必ず壊す。
ユウは光の中で言った。
「必ずなんて、決めないでよ」
返事は聞こえなかった。
砂漠が遠ざかる。
HASAの声も。
カラザの影も。
熱も。
砂も。
すべてが緑の流れにほどけていく。
次に足が触れたのは、月内部の草だった。
ユウは倒れ込み、咳き込んだ。
ミハルも隣で肩を上下させている。
リウがすぐ近くに降りた。
「無事か」
「たぶん」
ユウは砂だらけの手を見た。
指の間に、砂漠の砂が残っている。
ミハルはリュックからノートを取り出した。
表紙にも砂がついていた。
セナが駆け寄る。
淡い灰色の羽が珍しく乱れている。
「カラザと接触したのか」
ユウはうなずいた。
モウも奥から現れた。
濃い灰色の羽を揺らし、低い声で言う。
「話したか」
「話しました」
「何を聞いた」
ユウは少し黙った。
砂漠の熱が、まだ体の中に残っている。
カラザの声。
難民種族。
故郷の喪失。
乾いた土地を家と呼ぶ感覚。
人間を自然破壊生物と断定する冷たさ。
そして、HASAの車両。
人間が作った道。
ユウは顔を上げた。
「枯れ敵は、ただ攻めてきたんじゃない」
モウの目が細くなる。
ユウは続けた。
「故郷を失って、地球に来た。乾いた場所じゃないと生きにくい。だから地球を変えようとしてる」
リウは黙って聞いている。
「でも、人間を利用するって言ってた。人間は自然破壊生物だって」
ミハルがノートを握った。
「守る人もいるって言ったけど、少数は流れを変えないって」
セナの目が暗くなる。
「カラザらしい」
ユウは砂のついた手を見た。
「リウ」
「なんだ」
「有楽は、人間を見捨ててないんだよね」
「そうだ」
「枯れ敵は、もう結論を出してる」
リウは静かにうなずいた。
「彼らは統計を好む。傾向を見て、結論にする」
「それって、間違い?」
リウはすぐには答えなかった。
森の上を、光の川が流れている。
水路の音が、砂漠の風を少しずつ洗い流していく。
「完全な間違いではない」
その答えは、痛かった。
「だが、完全な正解でもない」
ユウは顔を上げた。
リウの目は深かった。
「有楽は、そこに立っている」
ミハルが小さく言った。
「人間は、まだ決まってない」
モウがうなずいた。
「だから危険で、だから捨てられない」
遠くで警告音が鳴った。
短く。
鋭く。
セナが観測板を開く。
そこに地球の砂漠地帯が映る。
濃い紫の点が増えていた。
HASAの移動線。
枯れ敵の地下線。
そして、それらがいくつか重なり始めている。
セナが低く言う。
「HASAが枯れ敵の存在を正式に確認した」
ミハルの顔がこわばる。
「これからどうなるの」
モウの声が重く響いた。
「人間は恐れる」
リウが続ける。
「恐れれば、戦うか、隠すか、利用する」
ユウは拳を握った。
「また隠すかもしれない」
「そうだ」
「枯れ敵は、それを利用する」
「そうだ」
ユウの頭の中で、カラザの声が戻る。
人間は、必ず壊す。
ユウは砂のついた手を強く握った。
「必ずなんて、言わせたくない」
ミハルが隣でうなずいた。
「私も」
リウは二人を見た。
セナも。
モウも。
月内部の森が静かに揺れる。
有楽たちは人間を信用していない。
枯れ敵は人間を断定している。
HASAは人間から真実を隠している。
その間に、ユウとミハルは立っている。
小さすぎる。
短すぎる。
知らないことが多すぎる。
それでも。
観察対象で終わるか。
断定されたまま終わるか。
それとも、次の記録を変えるか。
ユウは接触種子を握った。
砂漠の砂が、月の草の上に少し落ちた。
乾いた粒が、湿った葉の根元で止まる。
リウがそれを見た。
「砂を持ち込んだな」
ユウは慌てた。
「ごめん」
リウは砂をくちばしでつつき、少しだけ横へ寄せた。
「よい」
「いいの?」
「ここで、何が芽吹くか見る」
ユウは目を見開いた。
砂漠の砂。
月の森。
交わらないはずのもの。
リウは静かに言った。
「敵を知るとは、砂を払うことではない。持ち帰った粒を見ることだ」
ミハルは急いでノートを開いた。
今度は手が止まらなかった。
ユウは砂の粒を見つめた。
そこには、カラザの言葉が残っている気がした。
人間は自然破壊生物。
その断定を、どう覆すのか。
答えはまだない。
でも、答えを探す理由はできた。
遠くでまた警告音が鳴った。
今度は長かった。
月内部の森が、ざわめく。
地球の砂漠で出会った枯れ敵は、もう待たないと言った。
そしてたぶん、HASAも止まらない。
ユウは立ち上がった。
膝についた砂を払いきれないまま、リウを見た。
「次は、枯れ敵の故郷を知りたい」
リウの目がわずかに揺れた。
モウが低く言う。
「つらい記録だ」
「それでも」
ミハルが隣に立つ。
「知らないままじゃ、また選べない」
セナは二人を見て、静かに羽を閉じた。
「なら、見ることになる」
リウは光の川を見上げた。
「第七記録を開く」
月内部の森の奥で、古い根が低く鳴った。
それは砂漠から帰った二人を迎える音ではなかった。
もっと深い場所へ案内する音だった。
枯れ敵がなぜ来たのか。
何を失ったのか。
何を家と呼ぶのか。
そして、人間をなぜそこまで信じないのか。
ユウは砂の粒をもう一度見た。
小さな粒。
でもその中に、乾いた世界の記憶が詰まっているように見えた。
月の森は静かに揺れていた。
その緑の奥で、枯れた星の記録が目を覚まそうとしていた。