「はぁ…(またあの人に会いたいな)」
その男―小峠華太は、天羽組のシマである空龍街の治安を守るために街を巡回していた。
「小林の兄貴…どこにいるんだ?久しぶりに飲みにでも誘おうかと思ったんだが…」
仕事が一段落した小峠は密かに想いを寄せる相手である小林の兄貴こと、小林幸真を探し始めた。
「…ん、あんなとこに…隣にいんのは、…飯豊?」
ようやく見つけた愛しの相手は今まさに舎弟と歩いているところだった。
「…二人には悪いが、ついていこう」
気配を消し、小峠は二人を尾行することにした。
数分後、空龍街の外れにある路地裏に来た二人に小峠はえもいわれぬ違和感を感じていた。
「?…こんな人気のないとこで何しようってんだ?」
二人に向き直った途端―小峠は目を疑った。
いや、疑いたかった。
小林と飯豊が互いに唇を重ね合っている。かなり濃いのだろう。しばらく経つと、息を切らしながら二人はようやく離れた。
「は…?う…ぁ…?!」
頭がカッと熱くなる。次の瞬間、小峠は駆け出していた。同じく街外れの路地裏に入る。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…?!」
小峠の息が荒くなる。
「…ぅうっ」
動揺していたが、もう分かっていた。喉の奥から、ひっくひっくと何かが込み上げてくる。涙がぽろぽろ溢れて、頬を伝う。小峠は路地裏で一人、声を殺して泣いた。
「ぅ…ああ…ぁぁぁあっ…!!!」
小峠は泣き続けた。いくら泣こうと、想いが消えることはないのに。
「華太ぉ?」
後ろから声が聞こえた。小峠が顔を向けると、そこには先程自分が尾行していたその人―小林幸真が立っていた。
「華太ぉ、何してんだよー、そんなとこで」
小峠は耐えきれなかった。小林を無視して、駆け出してしまう。しかし―
「おい華太ぉ…無視すんなよ」
駆け出す前に、小林は小峠の手を掴んでいた。低い声が耳元で囁く。
「ッ…!!!放して下さいッ!!!」
小峠は乱暴にその手を払う。汗で滑ったお陰なのか、意外にもあっけなく払われた。
「…華太」
小林は動揺の一つもせずに、小峠の肩を押した。両手首を掴み、壁に押し付ける。
「お前、さっきから何なの?路地裏にいたかと思ったら、いきなり逃げ出そうとするしよぉ。グリンされる前に、理由の一つくらい話せや」
小林の声が低くなる。が、その顔は全く怒っていなかった。その目の奥は、表情は、明らかに小峠を心配していた。それが分かって、いよいよ小峠は耐えられなくなった。
「あんたこそ!!!何だよあれはッ…!」
先刻の光景がフラッシュバックし、小峠の目からまた涙が溢れ出す。
「俺にあんなもの見せといて…何が理由だ!!!俺は…俺はッ…!!!」
小峠の中で何かが崩れ去った。涙目になりながら、小林を上目遣いで見つめる。
「俺は…あんたが初めてだったんですよ!!人を殺すばっかりの毎日で、こんなに夢中になった人も、恋焦がれた人も、苦悩した人も、全部が…!!!それなのに、あんたはあんな奴と…!!飯豊と!」
理不尽な怒りなのは分かっていた。でも…
「俺は…あんたが凄くかっこ良くて、大好きで、ずっと見つめていたかった。だから、だから、あんたが飯豊としてることが耐えられなかった…!!」
小林が驚いたような顔を見せる。涙が次々に溢れ出し、喉が苦しくなる中で、小峠は必死に言葉を紡いだ。
「あんたが悪くないことは分かっています。自分の好きな奴と過ごしただけだから…!でも、それでも…!俺は…」
もう、我慢できない。すっかり力の抜けた小林の手をすり抜け、顔を隠し、声を殺して泣いた。兄貴分に、しかも最愛の人にこんな情けない姿を、これ以上見られたくない。
「…華太…」
小林の言葉が続くことはない。小峠を優しく抱きしめた。小峠にはその暖かさが余計に辛く、更に涙が溢れる。
「華太、俺…、俺さぁ…」
小林の胸に複雑な気持ちがなだれ込み、言葉が続かない。目の前で泣き続けるこの悲しく儚げな舎弟に何を言えば良いのか、分からなかった。酷く不器用になってしまった小林には、ただひたすらに泣き続ける小峠を抱きしめるしかなかった。
コメント
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あ〜ん(泣)続きおねがいします💕
小林さんのお相手では北岡君、速水君、飯豊君でめっちゃ迷いました。北岡君が最有力候補でしたが、もうお亡くなりになっているのでおかしいやんってことで飯豊君を採用しました。(なんの話やねんwww)