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雪月❄️
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yuka @43日間男体化
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💚視点
俺がこの探偵事務所で働くようになってから数週間。 この事務所に入ってくる依頼は大小さまざまで、全てが“怪異”に関連しているという訳ではなかった。
ある時は近所に住むおばあちゃんの飼い猫探し。
ある時はとある会社の部長なる人を尾行して不倫現場を写真に収めたり。
警察より先にとあるお家の空き巣を調査したりなんかもあった。
今どき探偵って、なんて初めは思っていたけれど、依頼の量は想像以上で書類作成もままならないほどだった。向井さんが……いや、康二さんが「人手が欲しい」と嘆き無理やり俺をこの事務所に呼んだのも納得がいった。
今日は近くの商店街でお祭りがあり、依頼者なんて一人も来ない。朝からひたすら書類作成に追われていた。
俺が忙しくしていて構ってやれないことをわかっているのか、かまいたちはどこかに遊びに行って帰って来ない。……なのに、人間であり俺の手伝いができるであろう康二さんは定期的に本棚に囲まれた空間にこもって何かをしている。今だってそうだ。
「……康二さんも少しは手伝ってくださいよ」
「分かっとるよぉ。これ終わったらな」
「何やってるんですか?」
「……アルバムの整理や」
「アルバム?」
これまでの依頼にまつわる書類がたくさん並べられている中で、ある一段だけフォトアルバムがあるのだ。俺はまだその中身について教えてもらっていない。
「そのアルバム、何なんですか?」
「……もう阿部ちゃんに言ってもええ頃かな」
康二さんはそう言うと、いつになく真剣な眼差しを本棚の隙間から俺に向けた。
「あんな、実はこれ……」
カランカラン……
康二さんの言葉を遮るように、探偵事務所に来訪を知らせるベルが鳴った。
「っ! いらっしゃいま……えぇっ!?」
事務所の入り口に立つ人影を見て、俺は思わず大声を上げた。
「なんや、そんなに驚いて……ええぇぇ!?」
棚の奥から出てきた康二さんも、同じように大声を上げる。だって、そこに立っていたのは、
「……すみません、俺がここに来たこと、内緒にしていてくれると嬉しいです」
テレビでその姿をよく見る、今をときめくスーパー俳優・目黒蓮だったからである。
「ど、どうぞ!」
「ありがとう。そんなに気を固くしないで?」
お手製コーヒーを机に置き差し出すと、目黒くんはあのキラキラした輝く笑顔で俺に笑いかける。
「はぅっ!」
俺はその場に崩れ落ちそうになりながら机から遠ざかる。
「な、何? あの輝く笑顔は……!?」
「あんたかてイケメンなんやしもうちょい自信持ちや? 目黒さん来てくださってありがとうございますー!」
康二さんは初めこそ俺と一緒になって驚いていたけれど、今ではもうすっかりいつも通りに戻っている。探偵を長年やっているからなのか?
……というか今康二さんなんて言った?
「なんでわざわざこんな小さい探偵事務所にまで? てかそもそもどこでうちのこと知ったんです?」
「それは……」
「俺が教えたんだよ」
カラン、と入り口のベルを鳴らしながらタイミングよく現れた人物。
「宮舘さん!?」
「だて! あんたかいな!」
「あ、だてさん。来てくれたんですね」
「もちろん。おすすめしたからには責任を持って付き添わないとね」
「そんな、大袈裟ですよ」
仲良さげに話す二人。
「……知り合いなんですか?!」
俺は本日何度目とも分からない大声を上げた。
話を聞くと、どうやら目黒くんは宮舘さんの経営するカフェに一度ロケで訪れてから常連になったらしく、かれこれ4年の付き合いなのだそうだ。
最近でもたびたびここの1階に来ていたのだそうで……
「目情全然上がらないのすごいな? というかこんな近くに来てたなんて同じ空気吸ってたと同然じゃん……」
「ん? なんや阿部ちゃん?」
「あーいやなんでもないです!」
……俺が目黒くんの大ファンだということは言えそうにない。
とりあえずわざわざここに来たということは ——しかも宮舘さんがここをおすすめしたということは—— ”怪異”に関することでの依頼に違いない。
康二さんが依頼内容を聞き出そうとするので、俺の背筋も自然と伸びる。
「そんで……目黒さんのような有名人が、だての紹介とはいえどうしてここに?」
「はい、実はちょっと困ってることがありまして……」
そう切り出して、目黒くんは自分の身に起きた不思議な体験を話してくれた。
実はここ最近、テレビ局の中で俺の知らない間に話が進んでいることが多くなったんです。
いつの間にかドラマ出演が決まってる……とかそういうのではなくて、小さなことばかり。
例えば、会ったことないプロデューサーさんから先日はどうも、と声をかけられたり、雑誌の撮影をするはずが、この前前倒しで撮影したじゃないですか、と担当者に言われたり。
俺が疲れていて忘れているだけか、と思っていたんですけど、先週俺の楽屋に置かれている収録前アンケートが勝手に記入されていたんです、俺がトイレ行ってる間に。でも明らかに筆跡は俺と同じで。回答内容も俺ならこう答えるな、と思っていたものと同じで。
しまいには、昨日家に帰ったら全ての家事が終わっていたんです。
朝 早くから夜遅くまで仕事で家を空けてましたし、親が家に来たとか、彼女もいないんで同棲している人がやったとかでもないですし、家事代行を頼んだとかでもないんです……
家に誰かが不法侵入した形跡もないんで、ちゃんと玄関から入ってるんだろうと思うけど、俺鍵を閉めて家出てるんで。自分以外に部屋の鍵持ってる人いないですし……
それで、今日オフなんでだてさんのカフェに来てリラックスがてら相談したら、この探偵事務所をおすすめしてくれたんです。
「たぶん、“怪異”が関わってるだろうと思ってね」
目黒くんが話した後、宮舘さんは柔らかく微笑みながらそう言った。康二さんとの付き合いも長いため、カフェに来た迷える人々をよくこの事務所へ誘っているらしいとは聞いていたが、さすがの考察力だった。
なんとも信じ難い話だった。仕事や家事が勝手に終わっている? 目黒くんともあろう人なら、それが偽物だったらすぐに分かるだろうし、影武者を頼んでるとかもありえない。
そもそも目黒くんとそっくりな人がこの世にいるとは思えない。
……なら、一体何が起こっているんだ?
「……なるほどな」
康二さんは一言だけ呟いて、ソファーの背もたれに体重を預けた。
「だての勘は合っとる。この案件、いくつかの可能性が考えられるけど、一貫して言えるのは“怪異”の仕業やってことや」
康二さんはそう言うと、体を起こしてコーヒーを飲んだ。それに釣られてか、目黒くんもコーヒーを口にした。
「でもそやな、可能性を説明して変に目黒さんの不安を煽っても良くないやろうし、先に調査に入ろか」
コメント
2件
「はぅっ!」ってなる気持ち、めちゃわかります(笑)。探偵事務所の日常業務のリアルさから始まって、まさか目黒蓮さんが来るとは! しかも自分の知らない間に仕事や家事が終わってるっていう“怪異”、日常のほころび具合が絶妙でゾクゾクしました。康二さんが途中で話そうとしたアルバムも気になるし、次が待ち遠しいです!