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side聖奈(18)
「何をやっていたんだ!?」
この怒鳴っている壮年の男は一応私の父親。
「私のせいだって言うの!?子育てをしなかったのはあなたでしょ!?」
ヒステリックな女は一応私の母親。
「大学受験に失敗するなど……もういい」
「ふんっ。妹の反面教師ね。貴女はこの子みたいな馬鹿なことはしないわよね?」
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと勉強してるし」
部屋の隅で震えて答えているのは私の妹。
親の言いなり…これまでの私と同じ。可哀想な子。
「もう行ってもいい?準備があるから」
「勝手にしなさい。必要最低限金は払うが、これまでのような生活が出来るとは思わんことだな」
私は実家のある某政令都市から新幹線の距離の大学に行くことになった。
元々はこの地方の旧帝大の法学部に行くことになっていたの。
行くことになっていたっていうのは、代々うちの家系ではその大学をみんな卒業していたから。
でも私は落ちた。
わざと。
〜〜〜さらに過去〜〜〜
「聖奈。そんな予備の予備みたいな大学のオープンキャンパスに、ホントに行くの?」
とある日、学校に行くと高校の同級生にそんな言葉をかけられた。
確かにうちの学校からそのレベルの大学に行く人は少ない。
ううん。いないからかなり驚かれた。
「うん。そこの大学にあるサークルが気になってるんだよね。
某筋ではかなり有名らしく…」
「うん…聖奈のオタクは筋金入りだけど…態々その為だけに受験するのは凄いね」
どうせ地元の大学に行くことになるんだし、それくらいいいよね?
「お婆ちゃん!!」
オープンキャンパス前日。大学は実家からかなり離れた所にあるから、近くに住んでいる祖母宅にお世話になることに。
「まぁ!聖奈?綺麗になったねぇ!」
「お婆ちゃんは元気そうで良かったよ!」
あの母親の親だとは思えないくらい家族想いで優しいお婆ちゃん。
このオープンキャンパスに行こうと思ったのは、お婆ちゃんに会う為でもあったの。
「心配かけちゃったかしら?でもこの通り、大分調子良いから明日は大学まで送るわ」
お婆ちゃんは67歳で去年脳梗塞で倒れた。
大好きなお婆ちゃんだから凄く心配したけどなんとか持ち直して、回復してくれた。
今日、この元気な姿が見られただけで来た甲斐があったよ。
「ホント!?じゃあお願いするね!」
うちの一族は代々地元の権力者をしてきた。
曽祖父は家業を大きくして財を築き、祖父はその財をふんだんに使い代議士としての地位を確たるモノにした。
父は国には上には上がいると祖父を見て諦め、地元の権力を掌握する事にやっきになっている。
自身の弟すら道具として使い、自身の妹は県会議員の議長の家に嫁がせた。
私は自分のやりたいことを身の丈にあった程度出来たらそれで満足。
父や他の家族のように、私欲のために貪欲にはなれない。
「まあ!じゃあ大学は向こうで決まりなのね。娘も喜ぶわね」
その日の夜。お婆ちゃんの手料理を頂きながら先の話をした。
「私はお婆ちゃんの家が近い大学に行きたかったなぁ」
「ふふっ。良いじゃない?私からあの子に言おうかしら?」
「ダメだよ!またお婆ちゃんが嫌なことを言われるだけだもん!」
「聖奈は優しいね。でもお婆ちゃんは大丈夫よ。困ったことがあればいつでも頼ってね?」
ホントに母親の親なのかな?お婆ちゃんの子供だったら私は幸せだったのに・・・
「ここだよ!」
翌日、待ちに待ったオープンキャンパスの時間になった。
「ええ。お婆ちゃんは一度帰るから帰る前に連絡しなさいね?」
「うん!ありがとう!」
優しい笑みを浮かべる祖母を見送り、私は大学へと足を踏み入れた。
「ふぅ。サークルは情報通り中々だったね…」
しまった。つい独り言をしてしまった。
まぁ、ここには通えないからいいかっ。
「君っ!受験生かな!?案内するよ!」
「間に合ってます」
はぁ。ここに来てから何回目なのかな……
人の表面ばかり見る人にはお腹いっぱいだよ……
まぁ、私の中身を知ったらオタクすぎて誰も付いてこられないだろうけど。
トゥルルトゥルルッ
あれ?知らない番号から電話だ。
「もしもし。長濱ですけど、どちら様でしょうか?」
『こちら○○病院ですが、長濱聖奈さんの携帯電話で宜しかったでしょうか?』
病院?何だろう?しかも知らない病院だ。
「はい。ご用件は…?」
『落ち着いて聞いてください。
先程お婆さんが交通事故に遭いました。こちらの病院に運ばれたのでご家族である聖奈さんに連絡しました』
えっ!?お婆ちゃんが事故!?
「そ、祖母は!?お婆ちゃんは無事なのですか!?」
『詳しい事は病院に来て主治医に確認してください』
「わ、わかりました。すぐに向かいます…」
ど、どうしよう…お婆ちゃん……
「おっ?受験生か?案内するから一緒に行こうよ!」
こんな時に……
「祖母が事故で入院したので帰ります」
さっきまでのようにあしらえなくなっていて、下手な言い訳も思い浮かばず、事実を話してしまった。
「おいおい。いくらなんでもその言い訳はないんじゃねーの?おーい!」
男は私を通せんぼしながら周りに声を掛けた。
「どうした?
おいっ!凄く可愛い子じゃん!やったな!」
「だけどさぁ。・・・・」
男が周りに集まってきた連中に何やら説明しているけど、この時の私はそれどころじゃなかった。
(そうだ。病院の場所を調べなきゃ!)
「なっ?やばいだろ?こんだけ囲まれても携帯つついていられるんだから」
「まぁいつもの奴で誤魔化せば騒いでも無駄だし、やばい奴でも良いんじゃね?」
男達は笑いながら何事かを喋っていた。
「すみません。急いでいるので通してください」
「ごめんね。お兄さん達も君に用事があるから通せないな」
これは後日知った話だけど、この男達は大学でぼっちの女性を10人くらいで囲んでは連れ去り、事に及んでいたらしい。
らしいっていうのは裁判沙汰になったけど、被害者に考慮してか別の思惑があったのかは定かじゃないけど、不起訴になり後に退学したことだけしか周りには報されなかった。
前も後ろも右も左も囲まれた私は焦って叫んだ。
「お婆ちゃんのところに行かせてぇええっ!!?!」
しかし男達は・・・
「ダメダメェ。まだ俺達の用事が済んでないからね。さっ。あっちにいくよ」
「騒いでも周りには分からないからねぇ」
(なんで!?なんで私の邪魔をするの!?)
「警備員さん!こっちです!!」
そこに男の子の声が響いた。
「あそこの男達に女の子が囲まれて叫んでいます!」
「ちっ!散らばるぞ」
その言葉に男達は散り散りになって消えた。
私の視線の先には、反対方向を向いた男の子が一生懸命に手を振り叫んでいた。
「ありがとうございます!助かりました!」
男の子は私が振り向くと、何やらゴソゴソと探し物をしだした。
「あっちゃあ…ハンカチないな…はい。これあげるから」
そういって渡されたのは……青いドットが入った手拭い(?)だった。
「一応洗濯した後使ってないからっ!」
私が初めて見る手拭いを見つめていると、勘違いした男の子が慌てて言い訳をした。
どうやら涙を拭けってことみたい。
「ありがとうございます…あっ!お婆ちゃん!ごめんなさい!すぐに行かなきゃいけないんです!」
「ああ…いいよ。気をつけて」
男の子はそういうとすぐにいなくなった。
私はすぐに携帯で病院の場所を検索して走り出した。手拭いを握りしめたまま。
手拭いにはどこかの地名と祭りの名前とともに『東雲 聖』と刺繍してあった。
思い出すまで返さないんだからね?