ラウ視点
楽屋のソファにふっかさんがぐったりと沈み込んでいる。
レッスンが続いていたせいか、収録の合間に少しでも休もうとしたんだろう。
そのまま完全に寝落ちてしまったらしい。
そんな様子を、少し離れたところから眺めていた。
(……岩本くんが起こしてるのに、ふっかさんめっちゃ寝てるし)
「ふっか、ふっか……起きて」
岩本くんが優しく揺さぶるが、ふっかさんは「うーん、まだねむい……」としか喋らない。
(いや、起きる気ないじゃん)
少し笑いそうになりながら、そのまま様子を見ていた。
岩本くんがもう一度肩を揺さぶる。
「ふっか、そろそろ起きないと本番だよ」
「……んー、あと5分……」
(これ、絶対5分じゃ起きないやつ)
岩本くんもさすがに困ったのか、少し考えた後、ふっと口元をゆがめた。
「もう、起きないならここでキスするよ?」
(えっ!?)
思わず息を飲む。
ふっかさんもさすがにびっくりして起きるだろう……と思ったが。
「いいよぉ……」
「は?」
(ちょっと待って、今なんて言った?)
ふっかさんの口から寝ぼけた甘い声が落ちてくる。
「……おい、ふっか?」
岩本くんがもう一度肩を揺さぶるが、ふっかさんは半分夢の中なのか、にへらと笑ったまま微動だにしない。
(いやいやいや、ふっかさん、何言ってるの… )
岩本くんは困ったようにため息をつくと、周りに聞こえないくらいの小さな声で「じゃあ……本当にするぞ?」と呟いた。
(は?…やばいやばいやばい!!)
思わず耳を塞ごうとしたが、間に合わなかった。
──ちゅ。
──ちゅっ、ちゅっ。
(え、え、えぇぇぇ?)
脳内が一瞬でパニックになる。
後ろでスマホをいじっていためめが、その異様な音に気づいて顔を上げた。
「……なに?」
めめと目が合う。
もう、何も言わなくてもお互い察した。
めめがゆっくりと俺の隣に移動し、二人でそっと後ろを振り向く。
そこには──
岩本くんにぎゅっと腕を掴まれたまま、ふっかさんが甘えるように目を細めている光景があった。
「……ん、ひかる、もう……」
「大丈夫、誰も見てないって」
(見てる!見てるよ!!俺とめめが見てるよ!!)
心の中で全力で叫ぶ。
岩本くんがふっかさんの顎をそっと持ち上げ、もう一度唇を重ね──
──ちゅ、ちゅっ、ちゅぅ。
(音やばいって)
静まり返った楽屋に、やけに艶っぽい水音が響く。
思わずめめの腕をぎゅっと掴んだ。
「……めめ、これ、どうする?」
「いや、どうもしないけど……」
「……止める?」
「……無理だろ」
めめが小さく溜息をついた。
俺も、なんだかもう見てはいけないものを見てしまった気分になって、視線を逸らす。
なのに、まだ聞こえてくる。
──ちゅっ、ちゅぅ……ん。
(もう、まじでやばいって)
必死に耳を塞ぐ。
「ねぇ、めめ……俺、もう耐えられないかも」
「俺も」
「逃げる?」
「……逃げるか」
そんなことを小声で話していると、ふっかさんがふと目を開けて、俺とめめの存在に気づいた。
「……あれ、ラウ?めめ?」
岩本くんも、その言葉で振り向く。
長い沈黙が部屋に流れる。
「…………」
「…………」
俺とめめは、もう一度だけ顔を見合わせた後──
「……俺たち、何も見てないよな?」
「うん、何も聞いてないし、見てない」
即座に結論を出し、さっさとその場を離れた。
コメント
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これは…よい😍