テラーノベル
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「この桜の木、すごい…」
僕が部屋に戻ってくると畑葉さんは偽物の桜の木を舐め回すように見ていた。
「でもこっちの方が近い…」
「けど…」
そうブツブツと呟きながら何かをしていた。
どうやら畑葉さんは僕が後ろに居るということに気がついていないようだった。
その時、一瞬だけ畑葉さんの手と偽物の桜の木が仄かに光ったような気がした。
目を擦りながら、確認するように再度見る。
が、やっぱり光っていた。
見間違い?
いや、見間違いなんかじゃない。
黄色く光ったり、桃く光ったり。
でもなんだか盗み見は良くないと思った僕はわざと床のきしみ音を鳴らした。
「古佐くん?!おかえり…!」
少し驚いたように目を丸くしながら振り返る畑葉さん。
「うん…ただいま」
そう返すも、変な空気が流れるだけ。
「…今の、見た?」
ホラー映画でありそうな言葉を急に掛けてくる。
「見たって…何を?」
そう嘘をつく僕。
きっと見てはいけないものだったに違いない。
そう思ったからである。
「…見てないならいいよ!」
そういつものように満面の笑みを向ける畑葉さん。
だけど、どこかぎこちなくて。
「これは桜のあんぱん」
「こっちは桜ジュースと桜ご飯」
畑葉さんの目の前に手作り桜尽くしのメニューを並べていく。
桜ご飯。
実は桜は入っていない。
別名は茶飯と言って、醤油の香りがするもの。
確かどこかの郷土料理だとかなんだとか…
炊き上がった際の色が桜に似ていることから名付けられたらしい。
だけどどうせならと思い、
桜の花弁の塩漬けと桜でんぶを加えたものにリメイクした。
「あ!!これ!ちらし寿司に入ってたピンクのやつ!!」
そう言いながら畑葉さんが最初に目をつけたのは桜ご飯だった。
「私このピンクで甘いの好きなんだよね〜!!」
そう言いながら気分良さげにそれを頬張る畑葉さん。
「古佐くんは食べないの?」
しばらく畑葉さんを眺めていたらそんなことを言われてしまう。
「あー…僕はいいよ」
「味見の時にいっぱい食べてお腹いっぱいだから!」
そう返すも、これも嘘。
今日は嘘をついてばかりだ。
だけどどうやら僕は畑葉さんを見ているだけで十分満腹になるようだ。
「私今日食べた中でこれが一番好きかも!!」
「いや、全部好きなんだけど…」
「初めて食べたこれが好き!!」
「桜餅より?」
畑葉さんが気に入ったのは『桜あんぱん』
でも桜餅が大好物の畑葉さんは桜餅より桜あんぱんの方が好きなのだろうか。
そんな疑問が思い浮かび、
ふとそんなことを聞いてしまう。
「桜餅より…」
「うーん…」
眉間に皺を寄せながら悩む畑葉さん。
それが少し面白くて。
「どっちも?」
と笑みを零しながら聞く。
「…うん!どっちも!!」
僕の中の畑葉さん図鑑に新しく畑葉さんの好物は桜餅と桜あんぱんだと記され、更新される。
ちなみにだが嫌いな食べ物は今のところ昆虫食だと記されている。
が、果たして合っているのだろうか?
何だか違うような気もするが…
そう思っていると
「でもやっぱり桜餅も捨て難い…」
とまだ悩んでる畑葉さんの声が隣から聞こえてきた。
「そういえば畑葉さん、今日のホワイトデー楽しかった?」
「今年はこんなんだったけど来年はもっといいものにするからさ…!!」
そう言うとまたある日のように『来年…』と呟き零す。
たまに漏らす畑葉さんの謎の独り言。
何か意味があるのだろうか?
いつも不思議に思う。
「…楽しかったよ!!」
「大きな桜の木が生えた丘の再現だって凄いし!!しかも好きな物増えたし!」
そう言いながらにこにことする。
話す前の謎の間は何だったのか。
一瞬そんなことを思ったが、
畑葉さんの笑顔を見たら『どうでもいいや』だなんて思ってしまう。
「ね、古佐くん…」
「あの…お願いがあって…」
少し時間が経ってからおずおずとそんなことを聞いてくる。
『なに?』と聞くと
「2つもあるんだけど…いい?かな…?」
と再度質問をしてくる。
「いいよ?というか我儘は全然言って欲しいって言うか…」
そうツンデレみたいな言葉を発する僕。
少ししてから『何言ってんだ』と僕が思ったと同時に
「この部屋…片付けないでそのままにしておくのって無理かな…?」
と提案してくる畑葉さん。
そのままに?
そう不思議に思ったが、『畑葉さんの提案なら何が何でも断るつもりは無いだろう?』と心の中の僕にそう言われてしまう。
「無理じゃない。全然構わないよ」
そう僕が応えると
「本当に?!」
と満面の笑みを浮かべる。
そんなに嬉しいことなのだろうか?
いや、もしかして断られると思ってたとか?
そんな考察をする僕。
「そういえばあともう一つのお願いって?」
「えっと…」
「もうすぐ私の誕生日でしょ?」
「うん」
「その時に、古佐くんの桜餅が食べたいなぁって思ってて…」
まさかの発言に思わず目を丸くしてしまう。
「え、桜餅飽きたんじゃないの…?」
てっきり飽きたかと思ってたのに…
だから今日、違う桜を使った食べ物を準備したのに…
そう少しガクリと肩を落としていると
「飽きない!!てか飽きるわけない!!」
と声を上げる畑葉さん。
「あ、まぁ…分かった」
「誕生日プレゼントは桜餅ね…」
そう声を返すと
「やった!!」
といつも通りの笑顔を見せた。
コメント
4件
前からだけど、謎の間とか独り言とか多いよね〜...... 桜 に何かありそう、、!気になる✨️