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中学3年生。完全なる受験生である。
ここ亀山中学校は校長先生の方針で、
高校進学において、
推薦入学というものが認められない。
「全員、受験の辛さを学び、ちゃんと合格する。」
という頭のおかしい理論で、全員が正規のルートで
受験するしか無かった。
クラス自体の学力のレベルは高くて、
黄金世代なんて言われていた。
成績ランキングで言うならば、
浩二、春香、恭平、横山、優希、俺、朋華
という順番だろう。
この優希と俺の学力の差は、絶望的な差がある。
クラス自体の学力のレベルは高くて黄金世代なんて
言われているが、俺と朋華は黄金どころか、
ブロンズ世代にさえ値しない。
春香は成績優秀だった。
県で1番レベルの高い高校を目指していたし、
塾にも通っていた。
返って俺は、テストの順位も下から数えた方が早い。
「メールいつ送ればいいんだ?」
学校に行き、部活に行き、帰ってゲームして
寝るというルーティーンの俺は、
忙しそうな春香にいつメールを
送ればいいか悩んでいた。
恐らく20時くらいが相手にとって
1番負担の少ない時間なんじゃないかと思い、
初めてのメールを送った。
「こんばんは。健一です。
メールアドレス教えてくれてありがとう。」
なんの返しようもない素朴な初メール。
息を飲んでずっと返信を待っていた。
20分くらい携帯電話の画面に釘付けに
なっていたが、返信がその間に来ることは無かった。
1時間ほどして、待ちに待った返信がやってきた。
「こちらこそありがとう。
よろしくね!」
息が上がり、胸が弾む。
脈アリかどうかなんてまだわからないけど、
でも、好きな人から自分だけにメッセージを
送って貰えるのが、たまらなく嬉しかった。
会話に盛り上がりなど微塵もなかったが、
俺は2分足らずで即返信し、春香は30分おきに
返信するというラリーだった。
最後に「おやすみ」と言いあえるのが
興奮してしまい、逆に毎晩考えて眠れなかった。
俺のルーティーンに新たな「春香とのメール」
が追加された。
恭平と優希にその話をして、
「いけるぞ!健一!ぜってー付き合えるだろ!」
なんて言われたが、
それ以上は春香に踏み込めなかった。
今はこれで幸せだ。
ここで告白して、またフラれてしまえば、
きっと次はない。だからこのままでいい。
そうして月日は経っていった。
ルーティーンも変わらず、なんの進展もなかったが
ある日、横山から聞いた一言で俺のこの
ルーティーンはなくなる。
「春香は健一とのメール、みんなに見してるよ。」
そんな一言だった。
春香は俺とのメールを横山や仲のいい子に、
見していたのだ。
ショックだった。2人だけの秘密みたいに
思っていたから、尚のこと悲しさが大きかった。
本人にろくに確認せず、
その日から春香とメールをすることをやめた。
自分がメールを送らなければ相手から
メールが来ることもなかった。
そうして徐々に春香への想いは薄らいでいった。
そんなもんだったのかなと自分の中で思いつつも、
やはり自分がまたメールを送れば周りに拡散される。
だからメールも送れないというジレンマに囚われた。
正直、どうでもよくなった。
「別に周りに見られたからって、気にすることなくない?」
と朋華に言われたが、
「いや、気にするだろ。好きなことがバレるのと好きな人へ送っているメールを皆が知ってるのは違う。」
「まぁ……そうだけど、それで諦めんの?」
「わかんねー、とりあえず今はメールもやめとくわ。」
それでいいと思った。
メールは春香とだけしているわけではなかった。
朋華とも優希ともしていたし、
他の男子や女子とも数人と毎日ではないが
やり取りはしていた。
帰ったあとの寂しさは別にどうということは無い……
と思っていた。
そんな中、美佳という同級生の女子と
メールをしていた時だった。
付き合うってどういう感じなんだろうね?という
話題で2人でメールをしていた。
美香は朋華と大の仲良しで
ルックスも良くてアクティブで
男子からも人気だった。かといって
俺が好意があるわけではない。
「付き合ったことないからわかんないけど
楽しいんじゃない?」
「だったらウチら付き合ってみる?」
「は?」
「楽しそうじゃん!」
「んー、了解だ!よろしく!」
春香と違い、お互い好きとかそんなんじゃなくて、
恋に恋い焦がれみたいな、軽いノリで
美香と付き合うことになった。
俺にとっては初めての彼女になるわけだが、
めちゃくちゃ興奮したかと言われれば
そういうのではなくて、恋人チュートリアルと言う感じだろう。
正直、春香との1件もあり、成り行き任せだった。
春香のことを諦め切れたわけではなかったが、
恋していない相手を一生懸命恋しようと思う、
なんというか馬鹿だった。
付き合ったことは朋華だけが知っていた。
恭平も優希も浩二にも言えなかった。
バレないように、必要以上に学校で美香と
話すこともなかった。
付き合って3日後に一緒に学校から帰るという
いわば憧れていたことをしてみたが、
手を繋ぐことも無く、ただ話をして帰るだけだった。
「アンタ、美香と付き合ったはいいけど、春香ちゃんはどうすんの?」
と朋華に言われたが、
「どうすんもなにも進展ないし、よくわからんけど、とりあえず美香のこと考えるようにします……」
「健一がそれでいいならいいけど、後悔すんなよ!」
俺は選択を間違えたのだろうか?
でも、付き合っていくうちに段々と
美香ではなく春香のことばかりよぎる。
あー、多分間違えたんだな俺は。そう思った。
付き合って1週間経ち、3年生全員が
2泊3日、山の教習所みたいなところで
みんなの交流を測り、勉強する
合宿みたいなイベントがあった。
日中は体育館で運動、その後勉強。
夜になると皆で晩御飯の用意をし、一緒に食べる。
そこからは自由時間で、みんなトランプやら
談話室でお喋りしたりしていた。
俺も恭平と優希とたわいもない話をしていた。
俺は眠くなってそのたわいもない話をやめ、
1人で自分の部屋に向かっている時だった。
「きゃははは!」
「いや、マジだって!」
男女2人の楽しそうな喋り声が聞こえてきた。
少し気になり覗き込んでみる。
そこは裏の外へと繋がる非常口みたいなところで、
薄暗い光と一緒にいたのは、浩二と美香だった。
内心ドキッとしたが、なにも見ていないフリをして
部屋へと戻った。
好きでもなくとも、彼女だ。
やはり他の男子としかも夜に2人でいるところを見ると
流石にモヤモヤして、寝付けなかった。
次の日、鋭い目線を浩二向けたが、
「なに?」という表情で浩二はこちらを見る。
浩二は俺と美香の関係を知らない。
だから、浩二へ怒りを向けるのは違うだろ。
美香に目線を向けるが、他の女子と笑っている。
俺だけ何故か笑えなかった。
モヤモヤの気持ちを残したまま、
合宿が終わり次の日の夜、
朋華から一通のメールが届いた。
「美香と浩二って付き合ってるみたいだけどアンタ別れたの?」
やっぱりなと1番最初に思った。
中途半端なことをするんじゃなかった。
「別れてないよ。」
とだけ返信して、携帯の電源をオフにした。
ぐちゃぐちゃだった。
美香はきっと、誰でもよかったのだろう。
お互い気持ちがないのは前提だったわけだし。
確かに春香への諦められない気持ちもあったが、
だけど、付き合ってから
美香への気持ちが全くないと言えば嘘だ。
だから自分がどうするべきか考えた。
そして、自分の中に結論を見出して、
明日実行すると心に誓った。
ただ、今日だけは少しだけ枕を濡らした。
次の日、登校して1番に、
美香を誰もいない学校裏び出した。
「浩二と付き合ってるって聞いたけど本当?」
「そんなわけないじゃん!」
「いや、聞いた。それに合宿の時も2人で楽しそうに喋ってるところ見たよ。流石に信じれないよ。」
「ホントだってば!」
「お互いそこまで気持ちもないんだし。別れよう。」
「そっか……」
俺の初めてのカップルライフは2週間という、
超短期間で幕を閉じた。
別れて次の日、公に浩二と美香が一緒に帰りだした。
悲しさよりも肝座ってるなと思ったし、
なんなら少し笑えてしまう。
逆に清々としたし、これでずっと
モヤモヤした気持ちを解消して、
一直線に走れる気がした。
別にメールできなくたっていい、
朝挨拶できなくたっていい。想うのは自由だろ。
だからなにもしないけど、俺は春香を想おう。
実らなくたって、ダサくたってやっぱり春香が
どうしようもなく好きなんだ。
そう思っている内に期末テストが終わり、
中学生活最後の夏休みがもうそこまで来ていた。