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よ~し!
「計画は立てているのよ!一週間の献立も考えたし、午前中のヨンジュンのご機嫌の良い時に掃除、洗濯を済ませて、午後はお散歩がてらお買い物でしょ、そして今夜はジンさんの好きなキムチ焼きそばを作るわ!」
キャッキャッご機嫌でヨンジュンがリビングで手足をばたつかせている
「いつまでもジンさんに甘えちゃいけないもんね!完璧な専業主婦をめざすわよぉ~!ね~ヨンジュン♪」
「あぷ~~♪」
桜はヨンジュンをくすぐって笑わせた
しかし思い通りにいかないのが子育てだ、ヨンジュンは気難しい所があってよく泣いた、とくに夕方になると「黄昏泣き」をし、一時間でも二時間でも泣き続けるのだった、あんまり泣くものだから桜は「赤ちゃんが泣くんです!」と小児科を受診したぐらいだ
小児科医によれば、健康な赤ん坊でも夕方になると「疲れる」らしく、特に感受性が強い赤ん坊は部屋の匂いや明かりが変わっただけでも泣くと言われた
ヨンジュンは毎日夕方の5時から8時まできっちり三時間泣いた、いったん泣き出すと、ずっと抱っこしないといけないし、主婦が一番忙しい時間と重なるため、桜はいつもジンの食事の世話が出来なくなり、洗濯物は満足に畳めなくなった
ある日夕方から暗くなるまでずっとヨンジュンがあんまりギャン泣きするものだから桜は困り果てていた、ミルクを与えても飲まず、抱っこしても手足をバタつかせ、背中をエビ反りにして胸を蹴りまくる、桜は思わず赤ん坊の口を手でふさぎたくなった、そこでハッとした
―ヨンジュンは何も悪くないのに・・・私ったら悪い母親だわ・・・―
桜はすっかり疲れ果てて、あたりを見渡した・・・汚れたオムツ入れは溢れそうになっているし、午前中にスーパーで買った購入品は買い物袋から出さずに床に転がっている、洗濯物もソファーに山積みだ
髪もボロボロで美容院に行きたいのにそれもままならない、素敵な食器で・・・テーブルに花なんか飾って、おいしい手料理でジンを迎えてあげたいのに・・・もしかしたら自分はずっとキャリア・ウーマンだったから主婦の才能が無いのかもしれない、子育てが出来る力量がないのかもしれない
あ~~ん!あ~~ん・・!
「グス・・・ごめんね・・・こんなママでごめんね・・・ヨンジュン・・・」
桜はくたびれきっていて意識は朦朧としていた、それはヨンジュンも同じだった、実際に丸一日7キロ以上ある赤ん坊をずっと抱っこしたままの腕は痛みを感じるほどしびれていた、そんな桜の不安な気持ちがヨンジュンにも伝染して事態はいっそう酷くなり、二人はずっと泣き続けた
その時玄関のドアが開き、ジンが帰って来た、以前にジンが済んでいた2DKのタワマンから少し郊外の緑が多く住みやすい、ファミリー向けのマンションに引っ越した三人だったが、電気もつけずに涙で曇った桜の視界にジンの背の高い姿が現れた
―まぁ!どうしよう!ジンさんが帰って来てしまった、今一番こんな姿を見られたくない人に見られてしまった―
「・・・桜?どうしたんだい?泣いているのか?どこか痛むのか?」
ジンは困惑した視線を桜に向けてリビングに入って来た、桜は首を横に振って話そうとしたが、急にヨンジュンと同じぐらい激しく泣き出した
ジンがヨンジュンを抱き上げてくれたので、桜はホッとして息をついた、ジンに抱かれるとヨンジュンの泣き声は嘘のようにピタリとおさまった
「よしよし・・・大変だったね、今朝の君がひどく疲れた顔をしてたから、気になって早く帰って来たんだ」
優しくされるともう駄目だった、桜はジンに縋り付いて泣いた、ジンはソファーにヨンジュンを抱いたまま座り、桜を優しく膝の上に乗せた、そしてヨンジュンを抱えていない方の腕でギュッと抱き寄せてくれた、桜はコテンと温かい彼の肩に顎を乗せて目を閉じた
「何が一番辛い?僕に話してくれる?」
ジンは桜の髪にささやきかけた
ヒック・・・ヒック・・・
「なにもかも・・・ちゃんと出来ないのが辛いの・・・」
働いていた頃の桜は健康的な生活、部下の教育、仕事の昇進・・・すべてを自分の意志でコントロールしていた・・・今桜は人生で初めて自分の思い通りにいかない壁にぶち当たり、産後のホルモンのバランスもあって、すっかり自分に自信を無くしていた
「君はすばらしいお母さんだよ」
20
グス・・・
「違うわ・・・」
しくしく泣きながら、ヨンジュンの黄昏泣きの事・・・ベビーカーを嫌がるのでろくに買い物もできない事、睡眠が足りてない事などをジンに話した、ジンは着替えもせずにスーツのままゆっくりと桜の背中をさすってくれている、泣いている人間を二人も抱えているのに、まったく動揺している様子もなく、二人が泣き止むまでただ抱いてくれていた
「ハンカチが右ズボンのポケットに入ってるよ」
桜が安心して落ち着いて来た頃、ジンが言った、彼のハンカチで自分の涙を拭こうと手探りでポケットに手を入れた、その時わざとではないが桜の手の甲が布越しに彼の股間に当たってドキッとした
興奮している時の彼のモノはもちろん見ても触っても、味わってもしているので知ってるけど、興奮状態でない時もその存在感はしっかりあった
情緒不安定ですぐに泣いてしまうのも、ヨンジュンが生まれてから彼と一度も体を重ねていない事もあった、桜の初めての男性はジンで、時間をかけて心も体も愛し合う喜びを教えてくれたのもジンだ
ヨンジュンが出来るまでは、いつも朝まで愛しあって、休日はずっと二人で繋がっていた、心も体も満たされ、男性に愛されている自信に満ちて、成熟した女性として、新妻として輝いていたのに・・・
でも今は・・・こんなに赤ん坊と一緒に子供みたいに泣いていたら・・・母親としても妻としても彼は魅力を感じないのではないだろうか・・・
彼の職場には素敵な女性は沢山いるし、彼ほどの人なら妻帯者でも構わないと狙っている女性は少なくはない、だからこそ桜は魅力的な妻であり、母親でいたかった
いつでもハンサムで、毎朝見る度恋している素敵な旦那様を、こんなことでは繋ぎ止めておけないのではないかと・・・今の桜は全てにおいて自信が無くなっていた
「ヨンジュンは僕が見ているから少し横になりなよ」
あまりにも魅力的な言葉だったが、桜は涙を拭いて歯を食いしばった
「では、あなたがヨンジュンを見てくれているなら、お食事の準備を―」
「横になりなさい、一時間したら起こしてあげるから」
ジンは優しく繰り返した
「でもあなたはお仕事をして帰ってきてるのに―」
「つべこべ言わない」
ジンは桜を優しく寝室の方へ押しやった、赤ちゃんの世話を誰かの手にゆだね、後のことを任せてしまっていいのだと思うと言葉にできないほどの安堵を感じた
糸の切れたマリオネットのように、ぐしゃりとベッドの上に崩れ落ちた、心はへとへとだったけど、少なくてもリビングに転がしたままの買ってきたシャンプーやトイレットペーパーを、ジンに見られる前に片付けるべきではと思った・・・
しかし頭が枕についた瞬間、桜は充電が切れたみたいに眠りについた
コメント
4件
桜ちゃんはひとりで頑張り過ぎよ😊赤ちゃんもお母さんも初めてだらけだもの。ジンさんはちゃんと話を聞いてくれるし怒らないし素敵な夫でパパだわ😍フネさん達に協力してもらいましょうね😊
黄昏泣き、うちの長女もそうだった。 ほんと泣き止まなくて途方に暮れたわ😭 でも、みんな通る道よ、桜ちゃん、大丈夫よ。
初めての子育て大変💦何もかも上手に出来なくて当たり前だよ🥺 ジンさんがいてくれるから大丈夫! 今は疲れを癒して、ジンさんに助けてもらって子育て楽しめるようになるといいな😊