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第1話「鉄ノつめ、再始動」
> 「ドリルが唄ってる。なら、あたしが踊る番だね」
耳を劈くような機関音のなか、カンナは操縦桿を両手で握りしめた。
赤茶の髪は煤けた三つ編みにまとめられ、額の上では古びたゴーグルが反射光を跳ね返していた。
袖が擦れて破けた掘り服の下、肘と膝には金属の補強パッド。腰に巻いた工具袋の重みが、彼女の体重よりも“掘る覚悟”を語っていた。
眼前の斜面が、低く唸った。
“聞こえる”。
耳ではなく、胸の奥。
カンナは自分の鼓動と斜面の“ざわつき”が重なった気がして、笑った。
操縦席の左に固定された巨大ドリル──通称《吠える爪(ホエルツメ)》に手を伸ばす。
「いくよ、吠えろ」
ドリルが起動と同時に火花を散らし、轟音を唸らせた。
金属製の螺旋刃が回転するたび、掘削船《ギアノート》の装甲が震える。
その轟きはまるで雄叫びだ。地の奥へと何かを問いかけるように。
すると、爆風の向こうに三輪のバギーが五台、金属弾を連射しながら接近してきた。
密掘り団《ヤガ連》だ。ドリルを持たず、爆薬と火器だけで鉱脈を盗みに来る連中。
「うちの初掘り現場、荒らさせないからね」
カンナは操縦席の横を蹴って飛び出した。
斜面へ飛び降りると、体を半回転させてドリルを地面に突き立てる。
――キィィィインッ!
回転刃が大地に食らいつき、粉塵と火花が周囲を染めた。
まるで踊るような姿勢で地を滑り降りながら、バギーの進路を真っ二つに裂いていく。
「鉄のつめ、再始動。合図は、あたしの一発目!」
一台目のバギーが、地面の裂け目ごと沈んで爆発する。
カンナは衝撃で舞い上がる瓦礫を飛び石代わりに、跳ねるように二台目へ突撃した。
その着地と同時、腰のドリルを逆手に持ち替え、
バギーの装甲を真横に“撫で切り”にするように、斬り込んだ。
内部から飛び散った火花が、カンナのゴーグル越しにきらりと映る。
背後の掘り船では、採掘獣のヤスミンが尻尾をぴんと立てて見守っていた。
イタチに似たその小柄な生き物は、金属の振動を感じ取る“耳”を持つ。
ヤスミンは尻尾をふるりと揺らし、音も言葉もないまま、
「その下に“何か”がある」と伝えてくる。
カンナはうなずいた。
「感じてるよ。ここは、何かを待ってた」
最後のバギーが接近する。
その直前、カンナは地面にドリルを突き立て、
**エネルギーを一点集中させた“螺旋跳躍”**を放つ。
大地から跳ね上がる自分の影を、彼女は空中で見る。
下では、バギーが止まりきれず、真上から落ちてくるドリルの先端を見上げるだけだった。
――ゴウンッ!!
一撃で、斜面が揺れた。
静けさのなか、金属片が雨のように降る。
その音に混じって、カンナの肩が小さく震える。
ドリルは唄うように回転をやめた。
彼女は少しだけ目を閉じて、手袋越しに地をなぞる。
> 「……いた。ここに、確かに何かが」