テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

第2話「唄う金属」

「この音、怒ってる……鉄が、叫んでる!」




夕暮れの地平線で、キイロは膝をついて耳をすました。

短く切った黒髪、片目を隠すように下がった前髪。その奥に光る灰色の瞳は、

鉄鋼の揺らぎ――音の違和感を捉えていた。

煤で黒く染まった作業服の袖をまくり、耳を斜面に押し当てる。


「……音が濁ってる。こいつ、怒ってる」


操縦席から顔をのぞかせたカンナが、ドリルに手をかける。


「なら、機嫌を直してもらわなきゃね。うちらの仕事だもの」


彼女は赤茶の三つ編みをふわりと揺らし、ゴーグルを目元に下ろすと、

掘り船《ギアノート》を前傾姿勢に構えた。


――始動音、轟く。


機体左腕の主武装ドリル《吠える爪》が唸りを上げる。

高速回転しながら刃先に熱をため、金属片が火花とともに吹き飛んでいく。


「吠えろ、吠える爪……!」


ギアノートの車輪が浮き土を削り、船体ごと跳ねるように斜面へ突っ込む。

“削る”のではない、“叫びを聴く”ようにして掘る。


その様子を、密掘り団《リーフ骨》が上空から狙っていた。

グライダー型の飛行艇から、重力弾と粘着鉱を搭載した砲塔が降ってくる。


「空から撃ってくる気か。やな角度で来やがる……!」


カンナは操縦席からドリルを引き抜き、腕ごと真横に叩きつけるように回す。

旋回軌道で飛来する砲弾を迎撃し、爆煙のなかでギアノートを滑らせながら切り込んでいく。


「もっと唄ってよ、テツたち!」


ドリルは空気すら切り裂く速さで回転し、唸りとともに鋭い音階を奏でる。

その音に、斜面の金属層が共鳴を始める。カンナの腕に“何かが伝わる”。


……ここには、まだ誰かの跡がある。




彼女はそう“感じて”いた。


「キイロ、そっち!音が割れてる部分がある!」


「任せて!」


キイロは背負っていた小型ドリル《音壊し(ねくずし)》を起動。

刃が共鳴音と逆波を生み出し、地中に走る音の歪みをなぞるように回転する。


ギュオオオオン……!!


その刹那、地面が落ち、巨大な空洞が現れる。

崩れた斜面から飛び出したのは、かつて使われていたと思しき鉄鋼製の作業台。

誰かがここで掘って、暮らして、そして……去った。


カンナは、ドリルの熱がゆっくり冷えていくのを感じながらつぶやく。


「掘った先に“誰かがいた気がする”ってだけで、もう十分なんだよね」




彼女の瞳の奥では、まだ微かに回るドリルの残光がきらめいていた。

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚