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第2話「唄う金属」
> 「この音、怒ってる……鉄が、叫んでる!」
夕暮れの地平線で、キイロは膝をついて耳をすました。
短く切った黒髪、片目を隠すように下がった前髪。その奥に光る灰色の瞳は、
金属の揺らぎ――音の違和感を捉えていた。
煤で黒く染まった作業服の袖をまくり、耳を斜面に押し当てる。
「……音が濁ってる。こいつ、怒ってる」
操縦席から顔をのぞかせたカンナが、ドリルに手をかける。
「なら、機嫌を直してもらわなきゃね。うちらの仕事だもの」
彼女は赤茶の三つ編みをふわりと揺らし、ゴーグルを目元に下ろすと、
掘り船《ギアノート》を前傾姿勢に構えた。
――始動音、轟く。
機体左腕の主武装ドリル《吠える爪》が唸りを上げる。
高速回転しながら刃先に熱をため、金属片が火花とともに吹き飛んでいく。
「吠えろ、吠える爪……!」
ギアノートの車輪が浮き土を削り、船体ごと跳ねるように斜面へ突っ込む。
“削る”のではない、“叫びを聴く”ようにして掘る。
その様子を、密掘り団《リーフ骨》が上空から狙っていた。
グライダー型の飛行艇から、重力弾と粘着鉱を搭載した砲塔が降ってくる。
「空から撃ってくる気か。やな角度で来やがる……!」
カンナは操縦席からドリルを引き抜き、腕ごと真横に叩きつけるように回す。
旋回軌道で飛来する砲弾を迎撃し、爆煙のなかでギアノートを滑らせながら切り込んでいく。
「もっと唄ってよ、金属たち!」
ドリルは空気すら切り裂く速さで回転し、唸りとともに鋭い音階を奏でる。
その音に、斜面の金属層が共鳴を始める。カンナの腕に“何かが伝わる”。
> ……ここには、まだ誰かの跡がある。
彼女はそう“感じて”いた。
「キイロ、そっち!音が割れてる部分がある!」
「任せて!」
キイロは背負っていた小型ドリル《音壊し(ねくずし)》を起動。
刃が共鳴音と逆波を生み出し、地中に走る音の歪みをなぞるように回転する。
ギュオオオオン……!!
その刹那、地面が落ち、巨大な空洞が現れる。
崩れた斜面から飛び出したのは、かつて使われていたと思しき金属製の作業台。
誰かがここで掘って、暮らして、そして……去った。
カンナは、ドリルの熱がゆっくり冷えていくのを感じながらつぶやく。
> 「掘った先に“誰かがいた気がする”ってだけで、もう十分なんだよね」
彼女の瞳の奥では、まだ微かに回るドリルの残光がきらめいていた。