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第8話:世界一他人の恋人を奪ってしまう人
「あなたは、“世界一他人の恋人を奪ってしまう人”に認定されました。」
朝のニュースで取り上げられていた。
名前も顔も公表されたその女は、一夜で“恋愛破壊者”の代名詞となった。
ナナミ、26歳。
整った顔立ちに、くびれたシルエット。いつも上質なワンピースを身にまとい、
目元にうっすら涙をにじませているような、儚げな印象を与える女性だった。
街中では彼女の顔写真が晒され、
「近づいたら彼氏を奪われる」
「ナンバーワンの呪い女」
と、掲示板やSNSで叩かれ続けていた。
だが、彼女自身は呆然としていた。
「奪おうとしたことなんて、一度もないのに」
誰かに好意を抱かれれば、なぜかその相手には必ず“本命の恋人”がいる。
だが最終的に彼女を選んでしまう――彼女はいつしか「人の愛情を引き寄せてしまう自分」に怯えるようになった。
ある日、カフェにミナが現れる。
赤いカーディガンに、ラフなパンツ姿。
ナナミは彼女に気づくなり警戒した。
「……もしかして、あなたの彼氏も私に……?」
「いないよ。いたとしても、取られたらそれは“そいつの意思”でしょ。」
ミナは堂々と席に座ると、こう言った。
「“恋人を奪う”ってさ、“奪われる誰かの意思”を抜いて考えてない?」
ナンバーワン社会では、特定の“ナンバーワン”が街頭広告に使われ、
“世界一キスが上手い人”や“世界一見つめられた目”などが、恋愛商品のように扱われていた。
企業は“ナンバーワンと付き合う方法”セミナーを開き、
恋愛相談アプリでは“ナナミに奪われない恋人の作り方”が売れていた。
「もう、関わらないほうがいい」
「また誰かの関係を壊しちゃう」
そう言うナナミに、ミナはスマホを差し出す。
「見て。これ、“世界一奪われる男”って人からのDM」
「ナナミさんとちゃんと話したいです。自分が選んだのは彼女じゃなかった、あなたでした。」
ナナミは黙った。
「人の心は奪えるもんじゃない。選ばれるだけ。
なら、選ばれたって、堂々と立っていいでしょ?」
その日、ナナミは初めて自分の足で街を歩いた。
交差点で叫ぶように笑った。
「私、奪ったんじゃない……ただ、愛されたかっただけなんだ!」
ミナが横で言った。
「“愛される呪い”なんてものはない。
それは、“好かれすぎる自分”を怖がらない練習の証拠。」
その夜、ナナミの端末に新しい通知が届く。
「あなたは、“世界一、誰かに本気で選ばれた人”に認定されました。」
END