テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あおっちӦ(あおあお)
191
タイナ
30
#シェドレツキー
最高神Robloxへの密かな恐怖。
そして、神でありながら持て余してしまう、あまりにも有り余った暇。
その二つから逃れるため――。
テラモンは、新たなる「混沌の試み」に乗り出そうとしていた。
「決めたぞ、1x!」
「……なんだよ」
テラモンの居室。
黄金の翼と黒いローブをバサァッと翻しながら、テラモンは高らかに宣言した。
「私に足りなかったもの……それは!」
ビシッ!
自分自身を指差す。
「華やかな愛だ!!」
「…………」
1x1x1x1は無言だった。
「だから私は、輝かしき美の女神――ブライトアイズへ求愛する!!」
「はぁぁぁあ!?」
瞬間。
1x1x1x1の全身から、濃緑色の炎がボンッ!!と噴き出した。
半透明の緑色の身体の奥で、黒い肋骨がカタカタと鳴る。
赤い目は限界まで見開かれた。
「女神ぃ!?」
「うむ!」
「お前、頭のコードでも狂ったのかバカテラモン!!」
「失礼な」
「なにが『華やかな愛』だよ!!」
1x1x1x1は床から勢いよく立ち上がった。
肩には、相変わらずテラモンから贈られた赤いケープ。
それをギュッと握りしめながら、必死に抗議する。
「お前みたいな混沌撒き散らし男に、まともな女神が振り向くわけねぇだろ!!」
「フハハハハ!!」
テラモンは余裕たっぷりに笑った。
「案ずるな、1x!」
「何を根拠に!?」
「私の神々しき暗黒のカリスマ!」
「…………」
「そして情熱的なアプローチ!」
「…………」
「これに落ちない女神など存在せん!!」
1x1x1x1は頭を抱えた。
「ダメだこいつ……」
「何か言ったか?」
「なんでもねぇよ!!」
しかし。
テラモンはすでに聞いていなかった。
「さて……花束か?」
「普通に花束にしろよ」
「いや、混沌の美学を取り入れるなら爆発だな」
「なんでだよ!!」
「そして空からチキンを――」
「求愛なんだよな!?」
「当然だ」
「どこに向かってんだよ、お前の恋愛観は!!」
こうして。
1x1x1x1の猛烈な不安をよそに。
テラモンの「完璧な求愛計画」が始まった。
数日後。
神々の庭園。
そこには、天界でも一目置かれる美しき女神が佇んでいた。
輝くような存在感。
洗練された美貌。
そして、何よりも気品に満ちた佇まい。
美と秩序を象徴する女神――ブライトアイズ。
静かな庭園に、穏やかな風が吹く。
「……今日は、随分と静かですね」
ブライトアイズが微笑んだ、その瞬間。
ドォォォォン!!
「…………」
空が爆発した。
「…………?」
続いて。
ドドドドドドッ!!
色とりどりのドミノが空から降ってきた。
さらに。
「え?」
大量のフライドチキンまで降ってきた。
そして。
ドォォォォン!!
ド派手な花火が空を埋め尽くす。
どう考えても、神々の庭園でやることではない。
「見よ、ブライトアイズ!!」
煙の向こうから声が響いた。
「混沌の美しさを!!」
「…………」
黒いローブをバサバサとはためかせ。
手には巨大な爆薬。
反対の手には――。
『BLAME JOHN』
と書かれた、どう見ても意味不明な看板。
そして背後では、世界のコードを書き換えてまで用意した謎の花火。
その中央から。
テラモンがド派手に降臨した。
「さあ、ブライトアイズ!!」
「…………」
「私と共に、この世界を終わりなきパーティと混沌で塗り潰そうではないか!!」
テラモンは両腕を広げた。
「私の愛を受け取るがいい!!」
沈黙。
風が吹く。
ドミノがひとつ。
カラン。
ブライトアイズは、ゆっくりとテラモンを見た。
「…………」
そして。
「お断りします」
「…………え?」
あまりにも即答だった。
テラモンの笑顔が固まる。
「派手で」
「…………」
「うるさくて」
「…………」
「品がなくて」
「…………」
「何より、やっていることが極めて迷惑です」
「…………」
ブライトアイズの周囲に、静かな光が集まる。
降ってきたフライドチキンが、その光に触れる。
スッ。
一片の肉片すら彼女に届かない。
完璧なバリアによって、すべてが弾き飛ばされていく。
「混沌だか何だか知りませんが」
彼女は冷静に言った。
「私の視界に入らないでいただけますか?」
「…………」
「静寂と秩序の邪魔です」
一刀両断。
完膚なきまでの拒絶。
「…………あ」
テラモンの口が、わずかに開く。
「あ……」
その瞬間。
ド派手に打ち上げられていた花火が。
シュン……。
消えた。
空から降っていたドミノも。
ポトッ。
地面に落ちた。
そして最後のフライドチキンが。
ベチャッ。
テラモンの頭に落ちた。
「…………」
沈黙。
テラモンは、ゆっくりとフードを目深にかぶった。
「嫌われた……」
「…………」
「私のアプローチが……」
膝から力が抜ける。
「完敗だ……」
ズーン……。
暗黒の神の威厳が。
見事なまでに粉砕された。
その様子を、少し離れた影から見ていた1x1x1x1は。
「…………」
赤い目を細めた。
「……ほーら見ろ」
テラモンの隣まで歩いてくる。
「言わんこっちゃないだろ、このマヌケ」
腕を組む。
「お前のその無駄に派手で身勝手な性格を好きになる奴なんて、この世界にいるわけねぇんだよ!」
「…………」
「だから言っただろ!」
「…………」
「そんな女、こっちから願い下げだ!!」
「…………」
1x1x1x1は偉そうに言い放った。
しかし。
その赤い目は。
チラッ。
落ち込むテラモンを見る。
チラッ。
また見る。
「…………」
(な、なんでそんなガチで凹んでんだよ……!!)
テラモンは完全に沈んでいた。
肩を落とし。
フードを深くかぶり。
いつもの尊大な雰囲気など、見る影もない。
(あんな女の一言くらいで……!)
1x1x1x1は爪を噛んだ。
(……くそ)
(なんか……ムカつく)
しばらく迷った末。
「……ったく」
1x1x1x1はテラモンの前へ立った。
「おい、テラモン」
「…………」
返事がない。
「ふ、ふん!」
1x1x1x1は赤いケープの端を握りしめた。
「落胆することねぇだろ!」
「…………」
「当然の結果だ!!」
「…………そうか」
「そうだよ!」
「…………」
「お前みたいなバカで、混沌で、いっつも自分勝手に暴れ回る奴にはな……!」
「…………」
「もっと、こう……!」
1x1x1x1は言葉に詰まった。
「……もっと?」
テラモンが弱々しく顔を上げる。
その瞬間。
1x1x1x1の心臓――があるのかどうかはさておき――が跳ね上がった。
「……っ!」
(や、やめろ!!)
(そんな顔でこっち見るな!!)
(言えねぇだろ!!)
しかし。
ここまで来たら引き返せない。
「お前の……その醜い悪意も」
「…………」
「弱さも」
「…………」
「最高神に怯えてる情けないところも……」
1x1x1x1は拳を握った。
「全部ひっくるめて理解して!」
声が少しだけ大きくなる。
「側にいてやるような……!」
そして。
「もっと相応しい奴がいるはずだろ!!」
「…………」
「だから……!」
1x1x1x1は顔を真っ赤にした。
「そんな高飛車な女神なんて……こっちから願い下げなんだよっ!!」
言った。
言ってしまった。
「…………」
沈黙。
1x1x1x1の炎が。
ボッ!!
一気に燃え上がった。
(……言っちまったぁぁぁぁ!!)
(俺、何言ってんだ!?)
(まるで『俺が側にいてやる』みたいじゃねぇか!!)
テラモンは、呆然と1x1x1x1を見つめていた。
やがて。
「1x……」
「な、なんだよ!」
「お前……」
「勘違いするなよ、バカテラモン!!」
先回りだった。
「俺はただ!」
「…………」
「お前があんな女にうつつを抜かして、俺を放置するのが気に食わなかっただけだ!!」
「…………ほう」
「相応しい奴って言ったのは……!」
1x1x1x1は必死に考える。
そして。
「そう!!」
ビシッ!
「ビルダーマンとか!」
「…………」
「ドゥームブリンガーとか!!」
「…………」
「そういう奴らのことだ!!」
「なるほど」
「俺のことじゃないからな!!」
「…………」
「絶対に!!」
「…………」
「絶対に違うからなっ!!」
顔を真っ赤にした1x1x1x1は。
「もう知らねぇ!!」
赤いケープを頭からすっぽりとかぶった。
「…………」
テラモンは数秒間、ぽかんとしていた。
そして。
「……ふ」
口元が緩む。
「ふふ……」
「なんだよ!!」
「ははは……!」
次の瞬間。
テラモンは笑い出していた。
さっきまでの落ち込みなど、完全に消えている。
「おい!」
テラモンの手が伸びる。
「何――」
わしゃわしゃわしゃ!!
「やめろぉぉぉ!!」
ケープ越しに、1x1x1x1の頭を力いっぱい撫で回す。
「触るな!!」
「はははは!」
「離せーっ!!」
「ありがとうな、1x」
「うるせぇ!!」
「お前の言う通りだ」
「…………」
「私には、もっと良い『相応しい者』が……」
テラモンは1x1x1x1を見る。
「すぐ近くにいたようだな」
「…………」
1x1x1x1の炎が止まった。
「…………は?」
「おい、1x」
「な、なんだよ……」
「これからもよろしく頼むぞ」
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「~~~~っっ!!」
ボンッ!!
緑と黒の炎が爆発した。
「意味わかんねぇ!!」
「ははは!」
「気持ち悪いこと言うなーっ!!」
暴れる1x1x1x1を抱きかかえながら、テラモンは久しぶりに心の底から笑った。
求愛は大失敗。
花火も失敗。
チキンも失敗。
そして何より、恋愛計画そのものが大惨敗だった。
だが。
そんなことは、もうどうでもよかった。
自分の弱さも。
恐怖も。
悪意も。
全部知った上で、文句を言いながら隣にいてくれる存在がいる。
「……悪くないな」
「聞こえてるからな、テラモン!!」
「ふふふ」
テラモンは笑った。
腕の中では、1x1x1x1が真っ赤な目を逸らしながら必死に暴れている。
「俺はお前なんか大嫌いだからな!!」
「そうかそうか」
「本当に嫌いだからな!!」
「分かった分かった」
「……だから、明日もここにいるけどな!!」
「うん」
「…………」
「待っているよ」
「……うるせぇ」
その声だけは。
ほんの少し、嬉しそうだった。
こうして。
ブライトアイズへの求愛は、見事なまでの大失敗に終わった。
しかしテラモンは、その日初めて気づいた。
自分が本当に欲しかった「華やかな愛」よりも。
すぐ隣で悪態をつきながら、それでも離れようとしない小さな影のほうが。
ずっと温かいのかもしれない、と。
そして1x1x1x1もまた。
絶対に口には出さないまま、同じことを考えていた。
(……まあ)
(俺がいるんだから……別に、女神なんていらねぇだろ)
赤いケープの奥で。
濃緑色の炎が、ほんの少しだけ嬉しそうに揺れた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!