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ヒップホップ大会の渡航費のためだったんだね。まだ足りないと思いながらのレッスンは集中できないし、気持ちも満たされないし、満足のいくパフォーマンスもできないよね😔それに登録したところはきちんとしてるようだから、うん!応援したい!応援する✊🏻*✭ それにしてもこのバスローブ男、引き込まれていく…
オーバーヘッドシャワーって、こんなに真上から全身にお湯を浴びることが出来て気持ちいいんだ。
海外のホテルで、固定のシャワーヘッドが使いづらいと感じるのとは全く違うな。
お湯を止めて、ベンチに座ると打たせ湯ボタンを押してみる。
ああ…すごい贅沢……だけど…ここは部屋のシャワールームだから、バスルームはまだ別にあるんだよね。
そりゃそうよね……
お金持ちのお客さんしか登録がないだろうから。
私が今夜の仕事を登録したのは、1時間5万円で女性を自宅に派遣するところで、厳しく個人情報を調べられるが、それは男性側も同じこと。
もちろん互いの情報を公開されるようなことはない。
どちらも心身ともに危険を冒したくないという共通意識があっての利用だ。
私だってこんなことをしたかった訳ではない。
だけれども、自分の中の最優先事項を優先するための手段だ。
世界50ヵ国で予選が行われるヒップホップの世界大会。
国内予選を通過して本選に参加するのは5回目だ。
国内予選を通過、というのが私の認識だが、スクールの人たちは
‘優勝おめでとう’
と言ってくれる。
だけど違うの。
あのキラキラした世界の舞台で万年入賞者として、ステージ上で優勝者へ拍手を送るのは去年で終わりにしたい。
一度はあの真ん中に立ってみたいと思うんだ。
一方で、毎回渡航費を工面するのには苦労する。
去年はタイで開催されたのだが、今年はイギリス。
滞在費も含めると倍以上の費用がかかる。
イギリスでの開催は分かっていたことなので1年間準備はしてきたけれど、レッスンを疎かにせず確実に国内で勝つためには、アルバイトばかりしていられなかった。
それはこのあとの2ヶ月間も同じこと。
世界一を目指してのレッスンとコンディショニングは欠かせない。
体力、精神、技術、医療、栄養、環境といった要因から影響を受けるコンディションをコントロールする。
つまり、それらに総合的にアプローチして、競技の際に能力を最大限に発揮出来るようにコンディショニングの必要がある。
だから本選2ヶ月前の今、費用への不安を無くしておくことは大切なこと。
そう割りきって、シャワールームから出た。
「こっちだ」
私が着て来た服を着ている途中で、開いたままだった部屋のドアからバスローブ姿の男が言う。
当然帰るのだと思いドアまで行くと
「座れ」
顎でソファーを示され、男は水のペットボトルと珈琲の入ったマグカップをローテーブルに置いた。
男は座らず、水と珈琲がどちらも並べてあるので私に出してくれたのだろう。
正直、水は嬉しい。
だけど、寝室以外で寛ぐようなことは違うと思う。
「お水を頂いていいですか?」
最初の挨拶以外に話をしたのはこれが初めてだ。
本来なら‘ありがとうございました’と帰るはずだったのに。
「座って飲め」
感情の読めない声に従いソファーに浅く腰を掛けると、ペットボトルの蓋を開けて一気に半分ほど飲む。
その私の前に男が……お札を置いた。
「…多いですけど?」