side motoki(17)
「俺、若井滉斗なんだ…」
何言ってんだこの人。
どこからどう見ても若井なわけねーじゃん。
やっぱり、どっかおかしいやつなのかもしれない。だって、考えても見ろ、おかしい。手ぶらでスタジオにいたかと思えば携帯はおろか財布すら持ってない。
金は持ってるかもしれないけどなんかやっぱり変だ。
もしかして、ストーカーかなんか?
だとしたらかなりヤバい。
「違うって、ストーカーなんかじゃないよっ。信じらんないかもだけど、ほんとなんだよぅ。俺、28歳の若井滉斗なんだ…」
28歳。
28歳なんだ、この人。
ちょっとびっくりした。
もう少し若く見えたからだ。
「あーもう、これでどうだっ」
どうにも納得出来てない俺のとなりに、自称若井だと言い張りながら詰め寄る彼。
耳打ちされた内容に俺は頭がくらくらした。
若井と初めてキスした場所とか。初めてのエッチが未遂に終わってしまった理由とか。
俺と若井しか知らない内容を彼が知っていて。
まさか、若井が他人に喋ったりするわけなんかない。
そう思うと、やはり彼が言ってることは本当のことなんだろうか。
俺は隣に座っている彼をじっと見た。
確かに。
若井が歳を重ねていけば、きっと彼みたいになるかもしれない。
しかし、見れば見るほど大人だ。
なんていうか、大人の色気というか、カッコいい中にもなんだか艶があるっていうか。うまく言葉では言い表せないなんとも言えない雰囲気を纏う彼の姿に。
俺は自然とドキドキしてしまう。
ああ、俺が好きなのは若井なのに。同い年で、いつも一緒にいて、俺の為ならなんでもしてしまう、あいつ。
全てを棒に振っても、俺と共に有りたいと言ってくれる若井が俺は大好きだ。でも、大好きだからこそ、本当に若井が幸せなのかなって思ってしまうのも事実で。
でも。
でも。
彼が本当に若井なら。
未来から来たんだとしたら。
俺とはどうなってるんだろう。
大人になっても、俺は若井と恋人同士なんだろうか。
そして。
バンドは続いてるんだろうか。
デビュー出来たのかな。
ギタリストって言ってるから、バンドは続いてるって思いたい。
「元貴と俺は、付き合ってるよ、大丈夫」
ファミレスから、カラオケボックスに移動して。
堪らずに詰め寄ってしまった俺に、彼はそう穏やかに言った。でも、バンドのことは教えてはくれない。
「先に知ってしまったら、面白くないじゃんね」
そう言いながら、人差し指を唇にあてて。
片目を閉じてウインクをしてみせた彼に、俺の下半身に衝撃が走ってしまう。
17歳の若井は良くも悪くも、年齢相応。色気なんかとは程遠い。
化粧っけなんか全くなくて、女の子みたいに可愛いってわけでもない。
でも。不意に見せる表情にどきりとしてしまって。
純粋に、ただ純粋に俺に好きって言って恥ずかしそうに笑う姿に心惹かれた。
無条件に俺を慕ってくれるあいつが本当に大切にしたくて。でも、俺だけのものにしたくて。
そして恋人になった。
ぎこちないキスも、慣れないセックスも、全てが大切で、堪らない。
そう思っているのに。
俺は今、隣に座っている28歳の若井に対してなんとも言えない欲を抱いてしまっている。
こちらの若井も、女の人みたいに綺麗になってるとかじゃないのに。
どちらかといえば、高校生の若井よりかは男っぽさが増して。華奢過ぎた身体は程よく筋肉が付いて、細いながらも大人の色気を感じる。
少し薄化粧なのは、多分未来がそういう風潮だからなのかな。
男でもメイクするのが当たり前になってる世界なのかもしれない。
その、暗めではあるけれど赤く染めた髪も、耳と唇のピアスもそう思えてしまう。
と。
彼の、シャツで隠れていた首筋が少し顕になった。
赤い痣が見える。
間違いなくキスマークだ。
「それ…」
思わず指差してしまうと、彼ははっとしたような顔をしたけれど、でも口元に笑みを浮かべている。
「ああ。まだ残ってた。元貴が一昨日付けたんだろな」
彼の言う元貴は、28歳の俺なんだろう。
生々しい行為の残り香が漂ってくるような錯覚がして、俺は唾を飲み込む。
「興味、ある?」
口元は確かに、笑みを浮かべたまま。でも、その涼やかな目元は一切笑っていない。
吸い寄せられるように。
彼の両肩を掴んで、首筋の痣に顔を埋めた。
無我夢中で唇を押し当てて、強く吸い上げてしまう。
まるで、キスマークを上書きするような行為に及んでしまったことが自分でも驚きだった。
「あっ…」
濡れた声がして、慌てて唇を離す。
「ごめっ、なさい。お兄さんごめん、俺っ」
流石に若井、と呼ぶことなんで出来ないから、呼び方だけは同じまま。
「謝んなくていいよ。気になったんだろ?」
彼はそう言いながら。
怯んで離れた俺の膝上に馬乗りになった。そして、ゆっくりと着ているシャツを脱ぎはじめる。
「元貴にずっと抱かれてきた身体なんだよね、俺の身体」
最近はあんまりだけど。
そう言いながら半裸で俺を見下ろす姿。
ジーンズからチラリと見えるブランドの下着、そして。形の良い臍に光るのは、バーベルタイプの銀色のピアス。
震える手で、それに触れると彼は俺の両肩に手を回して顔を近づけてくる。
「なぁ、抱いてみたくなった?」
死ぬほどイケメンな顔で。
そんなことを言う彼の唇に噛み付くようにしてキスをしてしまった。
ああ。
若井、ごめん。
俺は、こんな誘惑に勝てるはずもない。
コメント
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一気見しました〜!!年の差良すぎる、、28歳💙の色気に当てられちゃう17歳❤️可愛すぎますね、、設定が良すぎる、、
声出ました。
一気見させていたいたいたたたただきました…‼️いやもうすごい心臓がぎゅんぎゅんしちゃって…、大人の色気むんむんな若様が…続きが楽しみです…!!!!