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 私がFちゃんの存在を明確に認識したのは、小学校へ入学してから一ヵ月ほどが経った頃だった。


 入学してからずっと同じクラスだったものの、私がいつも同じ顔ぶれとばかり遊んでいたせいか、席替えで同じ班になるまでFちゃんと言葉を交わした記憶さえなかった。とはいえ、班が同じになったからといって特別仲が良くなったわけでもなく、挨拶を交わす程度の関係性を保っていた。

 いつも数人の男女と遊ぶことの多かった私と違って、物静かなFちゃん。そんな対称的な性格から、これといった共通点もなかったのだ。


 そんなFちゃんの印象といえば、いつもどこかしらを怪我している子。といった、少し不思議な印象の残る女の子だった。

 活発に遊んでいる様子もないのに、何故こんなにも怪我が絶えないのだろうか? そんな疑問が芽生えてからというもの、私は気付けば自然とFちゃんの姿を目で追いかけることが多くなっていった。かといって、わざわざ本人に問うほどの疑問を感じていたわけでもなく、何かそれ以上のアクションを起こすつもりは全くなかった。


 そんな私の考えが変わったのは、帰宅途中に偶然Fちゃんと出会ったことがきっかけだった。

 普段通りなら、友達複数人とワイワイ騒ぎながら帰宅していたはずだった私。けれど、その日は私が一人トイレに寄っていた間に、仲の良い子達は皆んな先に帰ってしまったようだった。

 置いていかれた事に少しばかり寂しくは思ったものの、私が何より嫌だと感じたのは、一人で帰らなければならないという退屈さの方だった。そんな時、偶然にも前方を歩くFちゃんの姿を発見した私は、迷うことなくFちゃんに駆け寄ると声を掛けた。



「Fちゃん、一緒に帰ろう?」


「うん、いいよ」



 Fちゃんはそう言って快《こころよ》く受け入れてくれたものの、中々思うように会話は弾まなかった。そこで私は、以前から疑問に思っていた事を質問してみることにした。



「ねぇねぇ、Fちゃん。何でいつもケガしてるの?」


「えっとねぇ……私、よく転んじゃうの」



 なんてことのない、そんな返答がFちゃんの口から返ってきた。



「ふ~ん、そうなんだぁ」



 何かもっと別の答えを期待していた私は、少しばかりガッカリとした気持ちでそう声を漏らした。

 と、その時──私の隣で「あっ!」と小さく声を上げたFちゃんは、突然、何もない道路の上で派手にすっ転んだ。



「……っ、痛いよぉ~」



 その場に倒れたまま、擦りむいた額を抑えて泣き始めたFちゃん。そんなFちゃんを見下ろしながら、私はその視線の先にある足元を見て恐怖に震え上がった。

 なんと、Fちゃんが躓《つまず》いたのは人の生首だったのだ。ギョロリと剥き出しになった瞳は何とも恐ろしく、私はギュッと硬く瞼を閉じると大声で泣き始めた。


 子供2人分の泣き声はすぐに方々まで届いたようで、気付けば近所に住んでいる大人達から手当を受けていたFちゃん。その傍《かたわ》らで、私は見知らぬ女性に頭を撫でられながら宥《なだ》められていた。



「血が出てビックリしちゃったね。お友達は大丈夫だからね」



 そうは言われたものの、血に濡れた生首がすぐそこに転がっているのだから、平静でいられないのも無理はない。あんなものを前にして、何故皆んなはこんなにも冷静でいられるのだろうか?

 むしろ、私にはそのことの方が異常に思えた。



『ばあばには見えないけど、杏奈には見えてるんだねぇ』



 昨年亡くなった祖母が、たまにそんな言葉を溢していた。そんな光景を思い出した私は、きっとこの生首は私以外の人達には見えていないのだと、そんな風に思った。


 それから三年に進級するまでの間、Fちゃんとは変わらず同じクラスだったものの、私は必要以上の関わりを持つことはなかった。

 ただ、やはりFちゃんの存在は気にはなっていたので、時折りその姿をこっそりと遠巻きに眺めていた。


 またどこかで、“見えない何か”に躓《つまず》いたのだろうか──。

 相変わらず生傷の絶えないFちゃんの姿を見ては、私は一人、そんな風に思った。

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