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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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眠狂四郎
153
第二次攻撃は、陸路から幕下の将アッピウスが指揮して行われた。
だが、城壁の狭間から絶え間なく放たれる連弩の矢に、
兵は一人として城壁へたどり着くことができない。
陽動を担った海軍も、先日の戦いで鉤爪に捕らえられ、
艦ごと海へ叩き落とされた恐怖が消えていなかった。
誰もが腰を引き、十分な働きはできなかった。
陣営には重苦しい空気だけが流れる。
偵察から戻ったマルスは、そんな諸将の顔を見回すと、
場違いなほど明るく言った。
「腹減った~。」
「飯にしようか。」
誰も返事をしない。
マルスは首をかしげ、ふと思い出したように口を開く。
「ところで、あの要塞も飯を食うのか?」
その一言で、幕舎の空気が変わった。
電撃攻略は断念される。
戦いは、包囲戦へと姿を変えた。
陸海からの要塞包囲が完成すると、
マルスは一軍を率いてシチリン島の諸都市の攻略を進めた。
降伏した都市には寛大な処置を施し、
抵抗を続ける都市には容赦ない攻撃をもって応じた。
一つ、また一つと補給拠点は失われ、要塞は孤立を深めていく。
そんな折――。
「急報です!」
「敵本国より二万の援軍が出陣しました!」
幕舎に緊張が走る。
敵の狙いはただ一つ。
包囲網を打ち破り、要塞へ兵糧と援軍を送り届けること。
要塞へ補給さえ届けば、この包囲戦は振り出しへ戻る。
マルスは静かに地図へ目を落とした。
悪い知らせは、それだけでは終わらなかった。
要塞西の湿地帯から、目に見えぬ敵が陣営へ忍び寄る。
疫病だった。
長雨と湿地が生んだ熱病は、厭戦気分に沈む兵たちを次々と倒していく。
やがて陣営には、マラリアが広がった。
剣では倒せぬ敵を前に、グラン軍は日ごとに戦力を失っていく。
マルスを最も悩ませたのは、武器でも兵糧でもない。
戦える兵が、日に日に減っていくことだった。
病は敵味方を選ばなかった。
要塞内では兵糧が尽き、疫病が広がる。
それでもヒッポクラテスは、包囲を破らなければ全滅は避けられないと悟っていた。
城門は幾度となく開かれ、そのたびに激しい戦闘が繰り返された。
戦いは、疫病の蔓延とともに消耗戦の様相を呈していった。
ヒッポクラテスは何度かグラン軍の徴発隊を襲撃し、
そのたびにこれを全滅させる戦果を挙げる。
だが、その成功が彼に油断を生んだ。
ある日、敵陣深くまで追撃した部隊は、退路を断たれる。
騎兵に包囲され、続いて押し寄せた歩兵によって徹底的に殲滅された。
この敗北を境に、要塞からの出撃は途絶える。
ヒッポクラテスは、二度と補うことのできない熟練兵を失った。
そんな中、敵本国からヒミルコ率いる援軍が上陸を果たした。
兵二万五千、騎兵三千、戦象十二頭。
その陣容は、バルカ陣営がシラクスを決して見捨てていないことを物語っていた。
対するグラン軍も、包囲をアッピウスへ任せると、
マルスは主力を率いて迎撃に向かう。
誰もが決戦を予想した。
だが、両軍の激突は起こらなかった。
ヒミルコの目的は、グラン軍を打ち破ることではない。
要塞へ兵糧と援軍を送り届けること。
それだけを果たせば、この包囲戦は振り出しへ戻るのである。
マルスは二正面作戦を強いられた。
要塞を包囲しながら、ヒミルコ軍とも対峙する。
膠着は何か月にも及んだ。
その間も疫病は敵味方を問わず兵を蝕み続ける。
やがて、要塞内を率いていたヒッポクラテスは病に倒れ、
そのまま帰らぬ人となった。
この死を境に、要塞内ではグラン派とバルカ派の対立が表面化する。
規律は緩み、脱走兵が後を絶たなくなった。
そして、その一人がもたらした何気ない証言が、
長き包囲戦を終わらせるきっかけとなる。
「祭り~?」
「はい。アルテミスの祭礼です。」
「なんでまた?」
「包囲戦が長引いていますから。」
「祭りだけは続けよう、と。」
副官の一人が口を挟む。
「ですが、戦時下ですよ。」
「いや、戦時下だからだよ。」
「酒も振る舞われるそうです。」
「だから戦時下だって言ってるんですが……。」
マルスが、ふと顔を上げた。
「そうだよな。」
「祭りに酒はつきものだよな。」
幕舎が静まり返る。
「……。」
グラスは額を押さえた。
(また始まった。)
その沈黙を破ったのは、包囲を任されていたアッピウスだった。
「その話が事実なら……。」
彼は地図の一点を指さす。
「夜間の斥候で調べた結果と一致します。」
「侵入できる場所があります。」
皆が一斉に地図を覗き込んだ
ガレアグアの塔。
地形の関係で、そこだけは他の城壁より一段低く築かれていた。
そのため幾度となく夜襲が試みられたが、
周囲の塔から互いに監視し合う防衛体制が敷かれており、
攻略は不可能と判断されていた。
アッピウスが地図を指さす。
「もし、この相互監視が途絶えるのであれば……。」
「侵入は可能です。」
幕舎に沈黙が落ちる。
(いや……まさか。)
グラスは敵の策である可能性を捨てきれなかった。
だが、マルスは迷わなかった。
「アルテミスの祭礼は天の声だ。」
「……司令。」
「オラは一年待ったのだから。」
コメント
1件
包囲戦の重苦しさがひしひしと伝わってきた。疫病という剣では倒せない敵との消耗戦、ヒッポクラテスの死も衝撃だった……。そんな中で「腹減った~」と飄々としているマルスの掴みどころのなさがいい味出してます。「祭りは天の声だ」「オラは一年待ったのだから」っていう判断力と胆力が気持ちよかった。次の一手が楽しみです。