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幼いユキたちをレストランに連れていった男たちは、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら話しかけていた。
「なぁなぁ、ねーちゃん達さ――
ほんと、いいスタイルに……いい顔してんなぁ? えぇ?」
そう言いながら、男のひとりがユキの腰に手を回し、指先で腹をいやらしくなぞる。
(……っ!)
不快感に背筋が震える。けれど、ユキは耐えた。
大人の女を演じるように、努めて軽く笑みを浮かべながら――
「そ、そぅですぅ~?」
「おっ、変な喋り方も含めて、エロいぜぇ?」
(変な話し方だったです!?)
脳内で動揺しながらも、ユキとミイは必死に考えていた。
どうにか、この場を切り抜ける方法を――。
そこへ、店員がグラスに注いだ酒をトレイに載せてやって来た。
「お待たせいたしました。《タオツー》になります」
「よぉし来た来た! お前ら! 乾杯だ!」
「おおー!」
ユキとミイの前にもグラスが置かれる。
二人とも手を出さない。それは当然だ。
――お酒は子供が飲んではいけないもの。
それくらいの理性は、まだあった。
「ん? おい、どした? 乾杯しねぇの?」
「そ、そうねぇ~……ですぅ」
「ぼ、僕も……」
「よぉーし、みんな持ったな? それじゃあ――」
「かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
「か、かんぱいですぅ……」
「かんぱい……」
震える指先でグラスを取ろうとした、その瞬間――
「――あなた達。ここで、何してるんですか?」
「……あぁ?」
ガラリ、と空気が変わった。
店内にすっと現れたのは、
大人になったユキたちよりも背が低い、黒髪ショートの少女。
「あなたたちに用はありません」
少女は冷たく言い放ち、ユキの腰に添えられた男の手を指差す。
「その手。――不快です。どけてください」
「は? おいおい、てめー誰に口きいてんだ? ……チビが調子こいてんじゃねぇよ?」
「……チビ?」
ピクッ、と少女の目元が引きつる。
その瞬間、店の空気が凍った。
「誰がチビですって? ガキ。
少なくとも、私はあなたより“歳上”なんですよ?」
「ハハッ、聞いたかおい! お姉さまらしいぜこのガキ!
なぁなぁ、お前さっき文句言ってたろ? 一人増えてちょうどいいじゃねぇか、ナンパしてみろよ~」
「オッケーオッケー、しゃーねぇな~。お姉さまに軽く俺のナンパテクってやつ、見せてやるよ」
男は椅子をガタンと引き、少女の目の前に立つ。
その顔には、浅い余裕の笑み。
「なぁ、お姉さま? 俺たちより年上なら、ぜひ“大人の手解き”ってやつを……」
「……良いでしょう」
「っ!?」
次の瞬間――男の身体が、まるで人形のように宙を舞った。
バンッ!
背中から綺麗に落下して、テーブルの下で呻く。
「手加減しました。お皿が割れると弁償が面倒ですから」
「てっ、てめぇ!」
別の男が怒鳴りながら立ち上がり、少女に飛びかかる――
が、その声が出きる前に。
「……ヒロユキさんを少しは見習ってください。
どうして、こうも性欲で脳みそが焼き切れた冒険者が多いのでしょうね」
ドゴッ!
まるで影すら踏ませず、少女の回し蹴りが男の顔面を捉えた。
グラスが揺れ、男が壁に激突して崩れ落ちる。
「変態は――あのパンティー野郎だけで十分なんですよ」
少女が冷めた目で吐き捨てると、倒れた仲間を見ていた残りの男が叫ぶ。
「何ブツブツ言ってやがる!おい、こいつ潰すぞ!」
「お、おう! 行くぞ!」
「相手はただのガキ一人だぜ!」
「ふん……三人程度、どうってことありません」
「さぁ――いくらでも相手してあげます。かかってきなさい」
男たちがいっせいに襲いかかる。
だが、少女の動きは一段も二段も速かった。
その隙を、ユキとミイが見逃すはずもなかった。
「(いまです! ミイちゃん、逃げましょ!)」
「(う、うん!)」
「ちょ、ちょっと!?」
少女が戦いながら呼び止めるが、二人は振り向きもせず、店の外へと飛び出していった。
「まったく……本当にヤンチャなんですから」
それでも、口元はどこか楽しげだ。
「……ジュンパク! ヒロユキさん! 起きてください~!」
少女は三人の男を流れるようにさばきながら、声を張り上げて振り向く――が。
「あれ……?」
先ほどまで座っていた席。
そこに、いるはずの二人の姿が――
ひとりしかいなかった。
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夜の町を、ユキはひたすら駆け抜ける。
「ミ、ミイちゃん! はやくです!」
後ろには、いつものように相棒がいてくれると――思っていた。
「こ、ここまで来れば、もうだいじょ……」
――振り返る。
そこに、ミイの姿はなかった。
代わりに、立っていたのは。
見たこともない、真っすぐな一本道。
「……ど、どこですか……ここ」
誰もいない。
足音も、声も、光も――何もない。
ユキの心臓がドクンと跳ねた。
「……ミイ、ちゃん?」
声が、夜に吸い込まれていった。