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◻︎心理テスト?
少しずつ書いていた小説のようなものを、とあるサイトにアップしてみた。
誰か読んでくれるだろうか?何か感想とか書いてくれるだろうか?ドキドキする。
「まるで初めてラブレター書いて渡したあの頃みたいな気持ちだあっ!」
「は?何、どうしたの?」
「小説をね、サイトにあげてみたんだ。誰か読んでくれるかな?どんな感想があるかな?って考えただけでドキドキするよ」
「誰も読まないかもしれないよ」
「はっ!礼子、なんてことを言うのよ、誰か一人くらい読んでくれるよ」
パートが終わって秘密基地にやってきた。
今日は礼子ものんびりしていて、ゆっくりお茶なぞしている時間。
「美和子って、一緒にいて退屈しないよね?そういうとこが雪平さんも好きなんだろうね」
「なんでそんなこと?退屈しないって、面白いってこと?ん?おかしいってこと?」
「まー、どっちも?」
「えー、魅力的だからとか女らしいからとかじゃないの?」
「女らしいって美和子からは程遠い形容詞な気がする」
「否定はしないけど」
「12パックで5000円もするという高級紅茶で、牛蒡のかりんとうをお茶うけにする、それが美和子」
「は?え?」
「何が飛び出すかわからないってこと」
「牛蒡のかりんとう、美味しいよ」
「美味しいけどさ、高級紅茶ときたら、もっとこう、なんていうかアフタヌーンティーみたいなものを想像するけど。あ、そうだ!美和子にやってみてほしいことがある」
「何?簡単なこと?」
礼子は、自分の部屋からレポート用紙とボールペンを持ってきて、私に差し出した。
「ここにさぁ、“私は〇〇です”っていう文章を20個書いてみてよ。時間はねー、5分以内。小説家さんならお手のものでしょ?」
「え、何を?なんでもいいの?」
「うん、美和子自身のことなら、なんでもいいよ、用意、始め!」
まるで国語のテストのような出題だった。
___私は、えっと…
・私は女です
・私は結婚しています
・私はO型です
・私は50歳です
・私はコロッケが好きです
・私は運転が苦手です
・私は方向音痴です
・私は大雑把です
・私はパートをしています
・私はお化けが怖いです
・私は肩こりです
・私は普通です
・私は猫好きです
・私は小説を書いてます
・私は礼子という友達がいます
・私は寂しがりです
・私はお母さんです
・私は悪いヤツです
・私は好きな人がいます
・私は欲張りです
「はい、ストップ!書けた?」
「うん、なんとか、15個超えた辺りから思い浮かばなくなってきたよー。ボキャブラリーが貧相過ぎることに気付かされたよー」
私はテーブルに突っ伏した。
ちょちょっと頭を使っただけなのに、ひどく疲れた。
「ふーん、なるほどね」
私が走り書きしたレポート用紙を、まじまじと見ていた礼子。
「なんかある?え?何かわかるの?」
「うん、これ見てホッとしたよ」
「えー、なんのこと?教えてよ」
「あのね…」
礼子は、これは簡単な心理テストのようなものだと言っていた。
「心理テスト?なんか怖いじゃん!最初に言ってよ」
「言ってしまったら構えてしまうから、ちゃんと出来ないと思うよ」
「そりゃそうだわ」
紅茶のお代わりをして、もう一度自分で書いたものを読む。
「それね、自分自身を知るためのもの、みたいなことなの」
「自分自身を知る?」
「そう。最初から5個めくらいまでは、すぐに書けるでしょ?」
「うんうん、簡単だった」
「それは誰が見てもわかる美和子のこと。それからだんだん美和子じゃないとわからないことが書いてあって」
「そうだね、コロッケ好きとか方向音痴とか、見ただけじゃわからないね」
「そう。あ、なにこれ、普通ですって」
「私、普通でしょ?」
「美和子は、美和子自身は普通だと思ってるってことね。で、段々と書くことがなくなってきたでしょ?」
15個めを過ぎたあたりから、なんだか抽象的な文章になっている。
「そうなの!時間は迫るし言葉は浮かばないし。で、思いついたことを書いたんだけど…」
「雪平さんのことと、家族のことだよね」
「わかりましたか、単純だな、私」
「それでさ、終わり二つが、ポイントだと思う。自分のことを悪い女で、欲張りだと書いてる」
「書いてるね、家族も大事だけど雪平さんも大事。どっちも欲しいから私ってわるいヤツで欲張りなんだと思ったんだよね」
「だよね。だからこれを見て安心したんだ。小説に雪平さんのこと書いてるけど、美和子の気持ちの中では常識から外れてるという意識はあるんだなって思った。ちゃんと悪いことだと線引きしてるんだなって。でも好きだから欲張りだと自覚もしてる。雪平さんに深入りしてなくて、安心したよ」
「そういうことなの?雪平さんは大事な人だけど、家族と比べることはできないね。そこは割り切ってるつもり」
「不倫だとさ、勘違いする人もいるじゃない?純愛ですって。美和子はそうじゃないんだね」
「純愛なもんですか。ただの欲望の吐口だよ」
「それ聞いたら雪平さん、ひくんじゃない?」
もしも、そう言ったらどんな反応をするか想像してみた。
「美和子さんらしいですねって、笑うだけだよ、きっと」
そういう人だから、私は雪平さんのことが好きなんだと思った。
「ね、礼子もやってみてよ」
「いいよ、じゃあ、私はわかってて書くから時間を3分にするね」
礼子の終わりの三つ。
・私は美和子が好きです
・私は今が楽しいです
・私は欲張りです
「礼子も欲張りなの?」
「そう思う。まだまだやりたいことあるし、欲しいものもあるから」
「似たもの同士だね、私たち」
「そだねー」
どこかでよく聞くセリフで意気投合した。