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弱点
実体のない、このアプリの化け物にそんなものがあるのだろうか。
問い返そうとしたその時、背後から声をかけられた。
「……佐川さん、顔色が悪いよ。大丈夫?」
ビクリとして振り返ると、そこには同じチームの高橋くんが立っていた。
彼は課長や香織と違って、いつも穏やかで
ミスをした私をさりげなくフォローしてくれる唯一の「善意」のような人だ。
「高橋、くん……」
「最近、変なことばかり続いてるでしょ? 佐川さん、無理してないかなって思って。……そのアプリ、あまり見ないほうがいいよ」
彼は私のスマートフォンをチラリと見て、悲しそうに目を伏せた。
まさか彼も、知っているの?このアプリのことを。
そう思ったが、特に聞き返すことはできなかった。
◆◇◆◇
その日の夜
帰り道でスマートフォンの通知が狂ったように鳴り響いた。
【パレットさんから日記が届きました】
『結愛さん。残念です。高橋くんが、私たちの邪魔をしようとしています。』
画面には、高橋くんが今日、私に話しかけている隠し撮り写真が添えられていた。
『彼はあなたの「白さ」を濁らせる不純物です。彼がいると、あなたはまた弱くなってしまう。……消しましょう。今夜、彼が駅の階段を通る時間を突き止めました。』
嫌だ。
高橋くんだけは、消したくない。
彼は私を傷つけてなんていない。
私を心配してくれただけなのに。
『拒否は許されません。あなたが彼を選ばないのなら、代わりにあなたの「リスト」を世界中に公開します。どちらが大切ですか? 自分の人生か、それともただの同僚の命か。』
パレットの言葉は、冷酷な二択を突きつけてくる。
私は泣きながらスマートフォンを握りしめた。
その時、「不明」から最後の日記が届く。
【差出人:不明】
『パレットは、お前の「孤独」を餌にしている。
誰か一人でも、心の底から信頼できる人間と「繋がって」みろ。デジタルではなく、肉声で。そうすれば、アプリのシステムは崩壊する。』
肉声。デジタルではない繋がり。
私は、震える足で高橋くんの家へと走った。
アプリのGPSで居場所は筒抜けなはずだ。
パレットが彼を消す前に、私は「共犯者」ではなく「人間」に戻らなければならない。
背後から、スマートフォンのシャッター音が何度も聞こえる。
カシャッ。カシャッ。
『逃げられませんよ、結愛さん。』
パレットの嘲笑が、夜の街に響いている気がした。
猫塚ルイ

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