翔太の本当の可愛さを俺たちは引き出せなかったんだなと少し悔しい気持ちになった
甘えてるところを想像できないのは見せてもらったことがないだけだ
めめが翔太に抱く気持ちにはメンバー全員が気付いてた
それくらいに、遠慮することなく、臆することなく、時に周囲に牽制までして、めめは翔太を口説き落とした
当の本人だけは、随分と気付くのが遅かったけど、それでも最終的には、あの鈍チンが告白される前に気付くほどに、めめのアピールは凄かった
翔太の恋心を知ったのは偶然だった
「めめは、あべちゃんが好きなのかな」
弱々しく呟き、しょんぼりと俯いてラウールに肩を撫でてもらう翔太は、守ってやりたくなるような儚さを纏っていた
俺に気付いたラウールが、そっと人差し指を口に当てた
静かに頷き、翔太に気づかれないうちに俺はその場を立ち去った
楽屋に戻るとラウールが寄ってくる
「あべちゃん」
「ないしょ、だろ?」
「うん、ありがと」
「…あんな翔太、初めて見たんだけど」
「え?そうなの?意外」
そう、初めて見たのだ
6人が、9人が、なんてことを言うつもりなんて全くない
ただ、”長い時間を一緒にしてきた”ということには自負があった
それでも、さっき末っ子に見せていたような、甘えるように素直に弱さを吐露する姿を俺たちは見たことがなかった
だから、めめと翔太が、付き合ってからも変わらない様子なのを、佐久間が揶揄した時、
「翔太はひっついたりとか想像できないかも」
そう言いながら翔太のことを探るように見てしまった
照に呼ばれてその場を離れた直後、少し甘めの声を聞いた気がして、こっそり振り返ったけど、翔太はいつもの顔をしていた
その幾日か後だった
9人での仕事の日でも、ライブ前ともなれば、それぞれに慌ただしく、その日の俺は色々と確認事項に追われていた
「ほら、翔太」
「でも…」
ノックしようとしためめと翔太の楽屋の扉は少し開いていた
めめが翔太を呼び捨てにしていて、その聞き慣れなさに手が止まる
盗み聞きのようで気が引けたけど、できたら急ぎで確認したくて、タイミングを見計らって入ろうと手を下ろした
「大丈夫だって」
「誰か来るかも」
「来たとしても、誰もからかったりしないと思うよ?それに俺が隠してあげるから」
「うーん」
「もう結構しんどいでしょ、わかるからね」
「………うん、しんどい」
「だから、ほら、おいで」
カタンと音がしたと思えば、 聞いたことのない甘さの声が聞こえた
「…れん、…れん」
「ん、どうしてほしい?」
「…すきっていって?」
「好き、大好きだよ」
「しんどいの、あたまなでて、ぎゅってして」
「ん、しんどいね、よく頑張ってるよ」
確かにその日は微妙な天気で、頭痛持ちの翔太には辛いだろうとは思ってた
それでも翔太はいつも、楽屋で少し大人しくなるくらいで、あんな風に辛さを口に出したことはなかった
タイミングなんて来ないことは明白で、俺は他のメンバーから回ることにした
メッセージでも送っておいて、返ってきたら後で行けばいい
「佐久間、ちょっといい?」
「おぅ!どした?阿部ちゃん」
「これがさ〜」
「あー、これね!おけ!」
「ん、よろしく」
「……あべちゃん、なんかイライラしてる?」
「え?」
「あれ、違った?」
「……いや、そうかもしれない」
翔太に恋愛感情を抱いたことはない
それでもなんだか、みすみす、めめに掻っ攫われたような気持ちになるのだ
「へぇ、めずらし」
「んー、なんか翔太ってあんなに可愛かったんだなと思って」
「え、なに、略奪でもすんの?笑」
「そう言われると、そういうんじゃないんだよなぁ」
「じゃあ、どんなんなの笑」
「なんかうまく言えないんだよ」
「ま、そういうこともあるんじゃないの」
それから少しの間、めめと翔太を見るたびに、ぼんやりと浮上する消化しきれない気持ちを、俺は持て余していたけど、
「頭でっかちだね、あべちゃん」
「あのしょっぴーは誰だって可愛いと思うし、割り切れない気持ちがあったっていいじゃない」
末っ子にそう諭されて、それからは考えるのをやめた
コメント
6件
ちょっと時系列が??となって前半部分を修正しました
これは、全員分、読めるってことかな。贅沢ぅ!