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真平の肩が、僅かに跳ねた。
「……行くぞ」
理由も説明せず、腕を掴まれた。
その強さに、彼の中にある恐怖の色が透けて見えた。
「待ってよ、真平くん!」
女の声は、妙に明るかった。
明るいほど、どこか歪んでいる。
走り出した真平は、一度も振り返らなかった。
俺も問うことなく、ただその背に引かれるように走った。
ビルの影に身を潜めたとき、
真平の息は細く震えていた。
「……さっきのって」
言いかけた言葉を、彼は遮った。
「誰でもない。ただの知り合いだ」
声は硬く、感情を切り離すようだった。
だが、その目の奥には答えがあった。
——嘘だ。
けれど、問い詰めれば崩れそうな気がした。
俺は何も言わずに並んで歩き出した。
夕暮れの街は、やけに色が薄かった。
家に戻っても、彼はいつものようにゲームをつけ、
くだらない話を振ってきた。
だが、笑い声の奥に張りつめたものがある。
俺はそれを知りながら、聞こえないふりをした。
深夜、ふと目が覚めた。
隣の布団から、かすかなうめき声がした。
「……っ、やめ……」
寝言とは思えない声だった。
額には汗が滲み、指先は何かを振り払うように震えている。
声をかけようと伸ばした手が、布団の途中で止まる。
——触れていいのか、分からなかった。
結局、彼が静かになるまでただ見つめていた。
その背中の揺れが収まったとき、胸の奥に
言いようのない重さだけが残った。
翌朝、真平は何事もなかったかのような顔で「おはよう」と言った。
だがその瞼の下には、薄い影が残っている。
「昨日の映画、まあまあだったな」
そんな軽い話をしながら歩く彼の横顔が、
どこか遠い。
距離が、わずかに開いた気がした。
その日、俺は生徒会室で書類を整理しながら、
映画館で聞いた女の声を思い出していた。
真平の顔。
あの怯え。
深夜のうめき声。
偶然ではない。
何かがある。
俺はパソコンを開き、情報を追った。
学校の名簿、SNSの記録、真平の過去のクラス。
絡め取られるように辿った先に、ぼんやりした記事があった。
《男子生徒への執拗な接触。女子生徒、保護観察処分。》
写真にはモザイクがかかっていたが、
輪郭で分かる。
映画館で声をかけてきた、あの女だ。
背筋が冷えた。
同時に、胸の奥で何かがざわついた。
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