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大阪駅内にある一大商業施設「ルクア大阪」の九階のエレベーターから二人が降りると、フワリと紙とコーヒーの香りが混ざった空気が迎えた
最後に桜子がシオンを連れて行った場所は西日本一大きな書店「蔦屋書店」だった
「わぁ・・・」
シオンが入り口で足を止めて、感慨深げに広大な店内を見渡す
天井まで届くほどの高い本棚が通路の両側に果てしなく続いている・・・木の温もりを感じる棚の間をやわらかなライトが照らしていた
そこにあるのは様々なビジネス書、最新のファッション雑誌に旅の写真集、文庫の小説・・・ジャンルごとに並べ方まで工夫されていて、歩くたびに「私を手に取って」と本の方から呼びかけてくるようだった
「すごい・・・本の見せ方がもう全然違う・・・この並べ方・・・本の隣に本の続きがあって、読んだ人が次に読みたくなる本をわざと隣に置いてるんですね・・・」
フフフ「そういうところ、やっぱり本屋さんの目線なのね」
「だって見て下さい、あそこの平台! あの本うちの店だと返品したヤツなのに、ここでは主役級ですよ!」
目を輝かせて早口になるシオンを桜子はニコニコと見つめていた、ついさっきまで大阪の人の多さに目を回していた青年が今は完全に作家の顔をしている
次に桜子が彼を連れて行ったのは、書店の奥にある「シェアラウンジ」だった、スカイエリアの扉の向こうには、本棚に囲まれた一流ホテル顔負けの広いラウンジが広がっていた
ソファー席はフカフカで、隣接するゆったりした大きなテーブル・・・そして大きな窓に沿って並ぶカウンター席・・・窓の外にはJR大阪駅構内に模型の様な電車が入ってくるのがここから一望できる
「桜子さん・・・ここって・・・購入する前の本、ここに持ってきて読んでいいんですか?」
「うん、三冊までOKよ、ここは20万冊あるからここになかったら、他の本屋にはもうないわね」
「わぁ!桜子さん!こんなにドリンク飲み放題!おつまみやパンまである!ソフトクリームッ!!」
シオンはスナックバーを見て、子どものような声を出してから慌てて口を押さえた、静かなラウンジの中で周りの人達は本や仕事に没頭している
二人は窓際の少し奥のふかふかのソファー席に向い合せで座った
シオンは感慨深けにキョロキョロ辺りを見渡したり、あちこちの本を取りに行ったり、スナック菓子を小さなカップに山のように取ってきて食べたりと、初めてここに来た人がすることを一通りやって楽しんでいた
桜子はそんな彼を微笑ましく見て、紅茶のカップを両手で包んだ
シオンは一冊の写真集を持ってきて膝に乗せて読んでいた
―ページをめくる指がやさしいな・・・本を本当に大切に思っている人の行動だわ―
彼は時々顔を上げては、桜子を見て微笑んだり、周りのくつろいでいる人を観察していた
ここは各席に電源があってWi-Fiも速く、パソコンを開いて静かに作業をしている人・・・ソファーで文庫本を読みながらウトウトしている人・・・静かで贅沢な時間をみんな自分のペースで過ごしていた
ホウッ・・・とシオンがため息をついて言った
「いいなぁ・・・僕もこんな所で働きたいなぁ~・・・」
「受かるんじゃない? 面接受けてみたら?」
「う〜ん」
「そうしたらここに引っ越さないといけないね」
「バリバリの関西人には慣れそうにないですが、夢が膨らむなぁ~」
シオンはそう言って辺りを見回した、唇に親指を持っていき、ソワソワと落ち着かない・・・特に彼は店員が通るたびに不審者かと思うほどじっと凝視していた
店員の本の補充の仕方、お客さんへの声のかけ方、隣接するスタバカウンターまでもくまなく観察する、彼の頭の中で、「もし自分がここで働いたら」という想像が目まぐるしく回っているのが、桜子には手に取るように分かった
―この人、本当に本が好きなのね―
桜子は胸の奥が温かくなるのを感じた、同時に少しだけ寂しくもなった、もし彼が大阪で働くことになればきっと楽しいだろう、でも彼は明日山口に帰ってしまうのだ
今はこの楽しいひと時で十分だと自分に言い聞かすが、桜子は心の中でもっと彼と親密になりたいと思わずにはいられなかった
コメント
2件
そうね桜子…自然な感情だと思うわ
うわあ、蔦屋書店の描写が生々しくて、行ったことある場所だと余計に没入できました。シオンが本の並べ方に感動したり、店員の動きを凝視する様子、本当に本が好きなんだなと伝わってきます。最後の桜子の「寂しくもなった」という心情がじんわり沁みました。大阪と山口の距離が、二人の関係にどう影響するのか気になります。良い回でした!