テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#探偵
橘靖竜
5,596
上野文
7,043
#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
7,272
フレミング
611
第九章 初めての依頼
黒牙狼襲撃事件から三日。
学院は再び平穏を取り戻していた。
だが、生徒たちの間では一つの話題で持ちきりだった。
「生徒会長、一人で黒牙狼を倒したらしい!」
「やっぱりルーク殿下はすごいな!」
「でも一年生のツララさんも近くにいたって聞いたよ。」
「怖くなかったのかな……。」
ツララは苦笑いしながら教科書を開く。
「なんだか、大げさになってるね。」
アイリスが小さく笑った。
「ツララちゃん、今じゃ有名人だもん!」
「えぇ……。」
「私は普通なのに。」
その言葉に、近くにいたカインが思わず吹き出す。
「普通の奴は測定器を壊さないぞ。」
教室中から笑い声が上がった。
ツララも照れたように笑う。
少しずつ、一年A組の空気は打ち解け始めていた。
昼休み。
「ツララ・ルミアーナさん。」
教室の前に立っていたのは、生徒会書記のノアだった。
「会長がお呼びです。」
「またですか?」
「はい。」
ツララはねねとアイリスを見た。
「行ってくるね。」
「頑張って!」
アイリスは元気よく手を振った。
生徒会室。
「失礼します。」
扉を開けると、ルークたちが待っていた。
「来ていただきありがとうございます。」
ルークは立ち上がり、ツララを迎える。
「今日はお願いがあって呼びました。」
「お願い……ですか?」
「はい。」
ルークは一枚の紙を机に置いた。
そこには王都近郊の地図が描かれている。
「学院では、優秀な一年生を対象に、生徒会と合同で校外実習を行っています。」
「校外実習?」
「薬草採取や村の見回りなど、危険の少ない依頼です。」
「その実習に、参加していただけませんか?」
ツララは驚いた。
「私が……?」
「はい。」
「もちろん、無理にとは言いません。」
「ですが、君ならきっと多くを学べると思います。」
その優しい言葉に、ツララは笑顔になる。
「参加したいです。」
ルークも穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「もちろん。」
ねねが静かに口を開く。
「私も同行いたします。」
「ええ。」
ルークは当然のように頷く。
「ねねさんにもご協力いただけると心強いです。」
レオンハルトが腕を組みながらねねを見る。
(……やはり隙がない。)
(この人、一度手合わせしてみたいな。)
そんなことを考えていると、ねねと目が合った。
にこり。
優しく微笑まれただけなのに。
レオンハルトは背筋がぞくりとした。
(……勝てる気がしない。)
「実習は三日後。」
「場所は《エルミナの森》です。」
「メンバーは私、レオン、ノア、そしてツララさん。」
「ねねさんも同行。」
「魔物は弱いものしか出ませんので安心してください。」
ルークの説明に、ツララは元気よく頷いた。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ。」
その日の帰り道。
ツララとねねは夕暮れの街を歩いていた。
「楽しみですね。」
「うん!」
ツララは嬉しそうに微笑む。
「ルーク様たちと一緒に実習なんて、頑張らなきゃ。」
ねねはその横顔を見て、優しく笑った。
「お嬢様は、そのままで十分です。」
「えへへ。」
ツララは少し照れくさそうに笑う。
その笑顔を見守りながら、ねねは心の中で呟いた。
(どうか、この穏やかな日々が長く続きますように。)
しかし、その願いとは裏腹に――
王都から遠く離れた魔の森。
暗い洞窟の奥。
巨大な玉座に、一人の男が座っていた。
漆黒の髪。
黄金の瞳。
圧倒的な魔力をまとったその男は、静かに目を開く。
「……報告を。」
黒いローブの魔族がひざまずく。
「例の少女を確認いたしました。」
「銀髪、青い瞳。」
「魔力は測定不能。」
魔王はゆっくりと立ち上がる。
「……そうか。」
「長い眠りも、終わりが近い。」
静かな声だった。
だが、その言葉だけで洞窟の空気が震える。
「しばらくは様子を見よ。」
「決して手を出すな。」
「はっ!」
魔族は姿を消した。
魔王は窓のない洞窟の天井を見上げ、小さく呟く。
「まだ……その時ではない。」
その真意を知る者は、誰一人としていなかった。
第一巻 第九章 完
📖 次回・第十章「エルミナの森」
いよいよツララは初めての校外実習へ!
ルークや生徒会メンバーと協力して依頼をこなし、仲間として少しずつ距離が縮まっていく。一方、森では何者かが彼らを静かに見つめていて……。
コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく良かったです……! 学院が日常を取り戻しつつ、ツララが少しずつ認められていく空気感がじんわりしました。「普通」って言うけど測定器壊しちゃってるの、カインのツッコミに笑いました。ルークがツララを選んだ理由も優しさが滲んでいて。でも最後の魔王……あの静かな圧が一気に不穏で、次回が待ち遠しくなりました! ねねの「お嬢様はそのままで」という台詞にじーんと来ました🌷