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暗闇の中、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「……だ……誰……だ……?」
俺が声を振り絞ると、声の主がこちらに気づき、こちらに近づいてきた。
その間、俺は自分の今の状況を理解しようと必死だった。
確か、毎日送られてきていたあのダンボール箱を俺の部屋の中に入れて、中身を確認して……その中にいた女の子の頭を撫でたら、その子が目を覚まして、そのあと俺に……なんて言ったんだっけ?
そこの記憶だけが無かった。いや、忘れた方がいいものだったのかもしれない。
ちなみに俺はこの時、どこまで続いているのか分からない天井を見ていた。というか、闇しかなかった。
俺を呼んでいた声の主は俺の左隣に来ると、こう言った。
「あまり、ここに来ちゃ……ダメ……」
その直後、目の前が真っ暗になり、気がつくと俺の部屋の天井を見ていた。
俺の右隣には目に涙を浮かべたまま、こちらを見ている例の少女の姿があった。
いったい、さっき俺が見たあの場所は何だったのだろうか……。
それに俺に近づいてきた人物はいったい何者だったのだろうか……。
そんなことを考えていると、例の少女に、いきなり腹を殴られた。
「ガハッ!?」
俺はあまりの痛さに腹を押さえた。それと同時に例の少女にこう言われた。
「バカッ!!」
俺は腹を押さえながら声のした方を見ると、そこには出会って間もない例の少女が必死に泣くのを我慢しながら俺の顔を見ていた。
「……おい……。どうして……泣いてるんだ?」
俺がそう訊ねると例の少女は……泣き崩れていた。
「少しは考えなさいよ! バカナオト! そんなのあんたのことが心配だったからに決まってるじゃない!!」
俺はどう言えば、その子が落ち着くのか分からなかったが、とりあえずその子を抱きしめて、お袋が俺にやっていたように頭を撫でてみた。
その子は少し驚きながらも俺に身を委ねた。そして、俺の腕の中でひたすら泣き続けた……。
____しばらく経つと少女は泣き疲れたのか、スウスウと寝息を立てながら眠っていた。ふと、窓の外を見ると、もう夕方だった。
カラスが鳴きながら夕日の前を通り過ぎる様は俺に故郷の風景を思い出させてくれた。
よくお袋と一緒に夕日を見ながら話をした、あの頃がとても懐かしく思えた。
できれば今からでも故郷に帰りたいが、そんな余裕は、今の俺にはない。
だから、バイトをして少しずつ、その資金を貯めている。
「明日からも頑張ろう……。この子のために、もっと働かないといけなくなるかもしれないし、もしもの時は俺が保護者になってやらないといけないからな」
俺がそんなことを言うと、本日二回目のチャイムが鳴った。
「……ったく、せっかくいい雰囲気だったのに台無しだよ。まったく……」
そう呟きながら玄関に向かうと、扉の外の様子をのぞき穴で確認した。
そっと外の様子を伺ったが誰の気配もなかった。
今度は何が送られてきたのだろう、と思いながら扉を開けるとそこには……また、ダンボール箱があった。
「おいおい、今度は何だよ……」
俺はしぶしぶ、その箱を部屋の中に入れると、思い切ってその箱を開けて中身を確認した。
その中には、可愛らしい服やバッグの他に、十字架や聖水などのオカルト地味たものが多々あった。
俺は少し不思議に思ったが、例の少女の服をどうやって買いに行こうかと悩んでいたから、結果オーライだなと思った。
なので、俺はそれ以上、そのことについて深く考えなかった。
そのあと、俺は例の少女に目をやった。
その時、俺はその子の名前を知らないことに気づいた。
しかし、気持ちよさそうに眠っているその子を無理やり起こすまでのことではないと思い、その子が起きた時に訊こうと決めた。
「明日は早起きして、この子とたくさん話をしよう。この子は俺のことを知っているようだけど、俺は何も知らないし、一緒に住むからにはいろいろ決めないといけないからな。まあ、とりあえず今日はもう寝よう。明日のことは明日の俺に任せればいいんだから」
俺はこじんまりとした部屋の中で長い独り言を言った。
今日は本当に驚きの連続だった。おそらく、これからもこんな日々が続いていくだろう。
だけど、やっぱりこんな可愛い女の子が俺の結婚相手だということがまだ信じられなかった……。
俺がそのことを思い出すと、少し顔が熱くなるのを感じた。
俺は色々済ませると布団を敷き、となりにいる例の少女にタオルケットをかけると、さっさと寝ることにした。
まあ謎は多いけど、悪い子じゃなさそうだし、大丈夫だよな? 俺は自分にそう言い聞かせたが、今は分からないことの方が多いから、その答えは出せない、という結論が出たため、俺はそれ以上考えるのをやめた。
「それじゃあ、おやすみ……」
俺はそう言うと、眠りについた。
*
俺は目覚まし時計を使ったことがない。なぜなら、いつもお袋に起こしてもらっていたからだ。
今では、その習慣が少し進化して、自分が起きようと思った時間に起きられるようになった。
さて、そろそろあの子とこれからのことを話すとしようか。
俺がゆっくりと目を開けると、まだ太陽は昇っていなかった。
朝の四時といったところだろうか? 外は暗く、光があるとすれば、街灯の灯りくらいだった。
「そろそろ、起こすか……」
俺はそう呟くと、俺のとなりで寝息を立てている、その子に目を向けた。
外見が吸血鬼っぽいからといって夜行性ではないようだが、その子の目から赤い光が漏れ出ているように見える。ま、まあ、俺の見間違いだろう。
俺はこの時、少しだけその子を警戒していたが、とりあえずその子を起こすことにした。
目の前にいる少女はまだ夢の中だったが、俺は確実に起こすために、お袋に毎朝やられていた『アノ奥義』をお見舞いすることにした。
その奥義の名は……。俺が『アノ奥義』をお見舞いしようとした、その時。
「……ふ……ふあー……。あっ、ナオト。おはよー」
眠そうに目を擦りながら、その子は目を覚ました。
あまりのタイミングの悪さに俺はもう少しこの子に寝ていてほしかった気持ちと『アノ奥義』をこの子にしなくてよかったという二つの気持ちを抱いた。
「ああ、その、えーっと、お、おはよう。よく眠れたか?」
「ええ、おかげさまで」
「そ、そうか……。えっと、その……お、起きて早々に悪いんだけど、君の名前を教えてくれないか? その方が呼びやすいから……」
「んー? あー、えーっとね、今のあたしに名前はないの。だから、あんたがあたしに名前を付けて」
「え? お、俺が君に名前を付けるのか?」
「ええ、そうよ。可愛い名前を付けてね?」
この子がしばらくの間、名無しで生きてきたことを知ってしまった俺は、せめて可愛い名前を付けてやろうと思った。
俺は今年で二十八歳になるが、人の親ではない。だから、人に名前を付けるのは初めてだ。
改めて名前を考えるとなると難しいものだ。一生その名前で呼ばれ続けるのだから、イジメや差別などの対象になるような名前は除外した上で可愛いらしい名前を付けてあげたい……。
「……ミノリ」
自分でも少し驚いてしまうぐらいパッとその名前が思い浮かんだ俺は、思わず声に出していた。
「……ミノリ……。悪くないわね! 気に入ったわ! それじゃあ、今からあたしの名前はミノリね。うん! いい響き! ありがとね! ナオト!!」
ミノリ(吸血鬼)はその直後、とても嬉しそうに何度も自分の名前を言っていた。
「そ、それは良かった。じゃあミノリ。早速だけど色々決めないといけないことがあるから、少し話を……」
俺がそう言いかけた時、ミノリは途中までしか俺の話を聞かなかった。
「あっ、一つ言っておくけど、あんたはこれから一日三回、あたしに血を与えないといけなくなるから、そのつもりでいてね?」
彼女はこちらを指差しながら、笑顔でそう言った。
ミノリはいつのまにか黒い長髪を赤と黒が混ざったリボンでツインテールにしていた。
それは昨日届いた、もう一つのダンボール箱の中に入っていたものの一つだった。
おそらく、夜中にこっそり取りに行って、今まで隠し持っていたのだろう。
「あら? 反応がないわね。ねえ、ナオト。今のちゃんと聞いてた? おーい、ナオトー」
ミノリは俺の目の前に来ると、俺が生きているかどうか確かめるために、俺の顔を覗き込んだ。
まあ、あれだ。一応これだけは訊いておこう。
俺はミノリに恐る恐る、こんなことを訊いてみた。
「ち、ちなみに俺に拒否権は……」
案の定、ミノリはこう言った。
「え? ないわよ? そんなの。当たり前じゃない」
俺はこの時、俺の生活が……いや、俺の人生がミノリによってめちゃくちゃにされてしまうのではないのか、と思った。
こんなモンスター娘……うちに入れるんじゃなかった……。
俺は今さら、ミノリ(吸血鬼)をうちに入れたことを後悔していた……。
「……お願いだから……お願いだから……それだけは勘弁してくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺の心の……いや、リアルな叫びが部屋中に響き渡ると同時にミノリはキョトンとしていた。
俺は、どうにかしてミノリを説得しないと俺の人生は確実に終わってしまう……なら、一刻も早くミノリを説得できる方法を考えよう! と心の中でそう言った。
その後、俺は脳をフル回転させ始めた……。