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「すっかり遅くなっちゃった……」



講義が終わり、帰ろうかと支度をしていると、手伝って欲しい『お願い』とクラスメイトにいわれ、備品の返却をしていたら、予定よりも大幅に時間がずれ込んでしまった。別に終電があるわけじゃないし、まだ夕方だから良いけれど、あや君の晩ご飯を作ってあげないと、と自分も腹が鳴っているのを、抑えながら、俺は正門をでる。すると、そこには見慣れた黒いキャスケット帽子が見え、まさか、と思って、俺は足どりがゆっくりなる。一歩、また一歩と近付けば、亜麻色の長い髪が揺れる。彼が使っていた、地毛と同じウィッグだとすぐに分かった。でも、服装は今時の女性が着そうな可愛らしい服装で。



「ゆず君……だよね」

「あっ、もう。遅いですよ。紡さん」



俺が声をかければ、待っていたと言わんばかりに振返り、にこりと笑うゆず君。宵色の瞳は、夕日を映して、少し明るく光っている。まるで、夜空に月を浮べるように、綺麗に赤い夕日が映り込んでいる。



「な、何でいるの? それも、女装して」

「ふふ~ん。似合うでしょ? 女装には、これでも自信があるんですよ」

「そ、そう。似合ってはいるけど……」

「紡さんに似合ってるっていわれて、僕ちょー嬉しい」



なんて、ゆず君はきゃぴっと笑う。いつものゆず君だ。

喋らなければ、確かに女性と間違える人は少なくないだろう。それに綺麗にそられた足、むだ毛のない足は本当に綺麗で、スカートをはいていても、その足の綺麗さに目が行くほどだった。少し、肉付きが良いが、運動をしている女性と大差ないと考えれば、まあ本当に女性に見えなくはない。


いってしまえば、完璧な女装だった。


それを誉めて良いものなのか、誉められて嬉しいものなのかは別として考えて。

何で彼がここにいるのか。俺が、ゆず君に教えた情報といえば、BLカフェの近くの大学に通っているということだけ。でも、あのまわりには他にも大学があったし、近いといっても、近いの基準は人それぞれだろうし……でもなのに、何故バレた? 教えてないよね、絶対に。



(――ああ、いや、でも教育学部っていったかも)



これは、大きなヒントだな、とあとから気づいたが、だったとして、ずっとその格好で、俺が出てくるまで待っていたと言うのだろうか。ゆず君はウィッグをつけて、女装をしているとは言え、その存在感までは隠せていないし、寧ろ、さらに目立っているようにも思ったが。

こんな可愛いこ、絶対誰かナンパするでしょ、とは思うぐらいに。



「見惚れてました?」

「いいいや、見惚れてたけど!」



声大きいですって、と、何故かこっちが怒られてしまい(怒られる原因は分かってる。まわりの視線が痛いから)、俺は兎に角、場所を変えようと、ゆず君の手を引いた。真っ赤に染まる校舎を背に、俺は、ゆず君の手を引いて歩く。道行く人が、奇怪な目で俺達を見る。

不釣り合いとか、犯罪じゃないとか、あれってヤバくないとか、そんな声も聞える。

警察に通報されなくて良かったなあ、って後から思った。だって、端から見れば、女の子の手を無理矢理引っ張って走る男にしか見えないだろう。ゆず君はキャスケット帽子を押さえながら、何度も俺の名前を呼んでいた。



(……不釣り合いなのは分かってる)



何でこんなに焦ってるんだっけ、って自分でもなるぐらい、自分でも分からなくなるくらい、俺は焦っていた。最寄りの駅から少しはずれた、無人駅について、ようやく、俺は息が切れ、鉄の柱に手をついた。



「もう、何も言わずに、いきなり歩き出すんですもん。紡さんどうかしましたか?」

「どうかしてるのは、君」



はあ……はあ……と、自分の息づかいが聞えて、気持ち悪くなる。息が上がってるのとか、額に張り付いた髪の毛とか。別にお気に入りじゃなかったけど、いつの間にか取れてなくなってしまったピン止めとか。気になることは一杯あった。

どうかしてる、のは、ゆず君じゃないと、俺は自分の言葉を否定する。



「違う……どうかしてるのは、俺……か」

「紡さん?」



紡さん? と再び俺の名前を呼んで、ゆず君は垂れ下がって視界を覆っている俺の髪の毛を手で払いながら、顔を覗かせる。パッと目が合った宵色の瞳。そして、ウィッグと、うっすらメイクされたその顔はほんとに女の子のようだった。何でも似合う、何にでもなれるなあ、と思いながら、俺は、ゴクリと息をのんだ。

息が上がったせいで心臓が煩いんじゃないって、分かってる。

こんなにも可愛いのに、格好いいゆず君を知っているから、身体は、格好いいゆず君を求めている。そして、制御が効かないくらいバクン、バクンと心臓がなる。動悸が速まる。


認めよう。


ギュッと唇を深くかんだ後、俺はゆっくりと乾いた唇を動かした。かさかさだな、あとでリップを塗ろう、なんて頭の片隅で考えながら、俺の口は俺の想像を遥かに超えた言葉を吐き出した。



「紡さん?」

「……ゆず君、好き」



零れた言葉は、もう誤魔化しようがなかった。

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