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「俺の事、忘れた? 」

そう言ってマスクを外した男の姿に絶句する。

その顔を、見間違えるはずもなかった。それは 紛れもなく僕の兄だった。

海の後ろに隠れながら、頭の中がぐるぐると回る。

…何で兄ちゃんがここに?僕はどうしたらいい?

「あやくん…?」

5年。家を出た5年の間、兄とはまともに話した事がなかった。

それは、僕が兄と話す事を拒否したから。

電話もメールも無視し、1度だけ会ったあの日も目すら合わせなかった。合わせられなかった。

「綾」

海に頬をつままれ、はっと気がつく。

「か、海…そこ動かないで……」

「なんでそんなに縮こまってんの……」

兄の声に下を向く。

怖いからに決まっている。5年間無視をし続けてしまった人物に面と向かって話す勇気も、心の準備もしていない。

冷や汗が額を伝う。 申し訳なさに押しつぶされそうだった。

「…俺は、ずっと、あやくんとちゃんと話がしたかった」

顔は見れないが震えている兄の声色で、どんな顔をしているのか想像できた。

「あやくんは俺の事嫌いになったかもしれないけど、俺はあやくんが…」

兄ちゃんに謝ろう。あんなことを言って家を出たから怒られると思い、ずっと逃げていたことを。

「大好きだ」

「ごめんなさい」

「えっ」

「え?」

ほぼ同時にそう言い、お互い顔を見合わせる。

「俺、今振られた…?」

「そういう意味じゃない…」

兄ちゃんは僕のことを大好きだといい、僕は怒られると思って謝った。怒られるのが怖かった、なんてこの歳になったからには口に出せないが。

「それなら…俺と、仲直りしてくれ!」

兄が深く礼をしながら片手を僕に向ける。これ、傍から見たら告白にしか見えないだろ…。

「…はい」

少々気恥しかったが、その手を軽く握った。

ぱちぱちと拍手の音が店内に響いた。

「よく分かんないけど、よかったね綾くん」

穂波がハンカチを手に言った。

店内にいた数名の客と店長がこっちを見て微笑んでいた。

とんだ茶番だ。

突然ぎゅっと兄に抱きしめられた。久しぶりの兄の香りに懐かしさを覚えつつ、僕の方が身長が高いことに気がついた。

高3まで身長が兄より低かったからもう無理だと思っていたが家を出た後も僕の身長は結構伸びた。

「ようやくあやくんと仲直りができた…」

「泣いてる?…てっ汚」

涙と鼻水がエプロンに染み込んでいる。店の備品だし、洗えばなんとかなるが。

「あの、これどうぞ……」

穂波ちゃんがティッシュ箱を兄に差し出した。

「ありがどう…」

兄はそれを受け取り鼻をかむ。兄のこんな姿は見たことがなかった。こんな一面があることを知らなかった。

優しくてかっこいい兄像はもう既に半壊している。

「僕そろそろ仕事に戻るよ」

もう十分だろうとその場から逃げようとしたが、腕を掴まれてしまった。

「薄情だな。あやくんを借りて行っていいですか?」

「はい!」

穂波が何故か元気よく答え、店長も頷いている。

「あと、カイさんも来てください」

兄は海の事を知っているような素振りだった。



どこに行くかと思ったが、3人で入ったのはカラオケだった。確かに完全個室で話し合いには丁度いいだろう。

兄は面接官のような貫禄で僕と海の顔を交互に見つめた。

「あやくん、カイさんとはどんな関係?」

兄が海を指さし言った言葉に考え込んでしまう。友達とは少し違うし、恋人とも言えない。毎晩同じベットで一緒に寝る仲ではあるし、肌を重ねた事は何度もある。

あれ、恋人でもない相手とそんなふうに暮らしているのは少々、いやだいぶやばいのでは。

今更になって言葉に出来ずに僕は頭を抱えた。

「あやくん…?じゃあ、カイさんは?」

それは聞きたい。というかやはり兄は海を知っているようだ。

「…まあ、綾は俺の弟みたいなものだ」

「は?」

海は実の兄を相手に僕の兄を自称してしまったようだ。

「実は海と一緒に住んでるんだ」

「え?」

目を見開く兄に、海頷く。

「というか、兄ちゃんと海って知り合い?」

「いや、俺は知らない」

海は首を振ったが、

「嘘ですよね?」

兄は信じられないといつ顔をし、海は首を傾げる。ほんとに覚えてなさそうだ。

「2人こそどういう関係? 」

「仕事で少し関わったぐらいだよ」

アイドルの兄と仕事があったということは海も芸能関係で働いているのだろうか。

「知らないのか?」

兄は不思議そうな顔をした。

「うん」

「一緒に住んでるんだろ?」

「…」

聞いた事が無いわけではなく、いつもうまくはぐらかされるだけで教えてくれないのだ。

「俺が何も言ってないだけだ」

大人しくしていた海が突然割って入ってきた。

「カイさんは相変わらずですね」

「なんでその名前を知っている?」

「本当に俺を覚えてないんですか?」

「今日初対面だと思うが」

「映画の撮影で一緒でしたよね?」

「映画…ああ、主演か」

「2人ともストップ。どいうこと?海が兄ちゃんと同じ映画に出るってこと?」

僕だけ会話についていけず聞いているだけだったが、我慢の限界に達した。

俺が説明する、と兄が軽く手を挙げた。

「カイさんは演技をする側じゃなくて…まずは映画の説明からしよう。主人公は画家で人魚と恋に落ちるって話なんだけど、カイさんはその主人公の画家の絵を担当してたんだ」

絵を担当するということは、海は画家ということなのだろうか。

「画家役は俺で、実際に絵を描いたのはカイさん。絵を描くシーンがいくつかあったから、絵が得意じゃない俺はカイさんに少し教えてもらおうとしたんだ。はぐらかされたけどな」

なるほど。 失礼かもしれないが海が仕事をしている事実に1番驚いてしまった。

いつの間にか兄と海の間に不穏な空気が立ち込めている事に気がつき、 僕はため息をついてスマホを手に取った。

君がいる明日は、もう来ないこと。

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コメント

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お~い、綾〜、そんな可愛いことするなよォォォォ。こっちの心臓が持たないだろォォォォ

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