コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
快諾されたと、ウレインに伝えたその日にはもう、日程を伺う返事をもらった。
国王よりも魔王さまの返答を優先してくれて、話が決まるまですぐだった。
――その当日。
商工会の拠点、工業区。三階建ての、前の会長の屋敷――ここは、歴々の会長が使うという意味の建物らしい。
「ようこそお越しくださいました。魔王様、聖女様」
ウレインが深くお辞儀をして、出迎えてくれた。
「本来、国賓をもてなすような場所ではありませんが……ここが最も、スパイなどが入り込めない所でございますので。どうかご容赦ください」
彼はそう言い終わると、やっと頭を上げた。
そして、「こちらに」と言われて通された応接室には、すでに国王が待っていた。
王城以外で、しかも手狭な部屋のソファに座る国王も、やっぱりその威厳は損なわれていない。
王冠とマントを着ているとはいえ、コスプレなんかとは違う、王の雰囲気らしいものが漂って見える。
「おお、聖女サラ。久しいな。二番目のアラビスが悲しんでおるから、また顔を見せてやってくれんか」
「え、ええ……。いえ。私は王宮に戻るつもりはありません。何かと巻き込まれるじゃありませんか」
とりあえずの返事で誤魔化そうと思ったけれど、やっぱり、きっちりと断ることにした。
……魔王さまが隣に居るから、いつもなら言えないこともハッキリと言葉に出来た気がする。
「そして……そなたが魔王か。……前王を含め、歴々のしでかした事、ここに深くお詫び申し上げる」
国王は、仕草こそゆっくりではあるものの、いや、むしろその静かな動きだからこそ、誠心誠意で詫びているのが伝わるような気がした。
きちんと立ち上がり、王冠を片手に押さえながら、本当に深く謝意を示した。
――でも! それはずるいやり方だ!
「……良い。そなたがした事ではないのだろう。むしろ、王国の民をこの手で葬ってきた我をこそ、憎んでいように」
「魔王さまっ――」
――それを言うなら、そうさせたのは王国なのに!
「良い。サラ、和平のために来たのは、つまりはお互い様にしようという事だ」
「ですが……」
そもそもが、まだ、そういう協議を始める前のはずなのに。
先制攻撃よろしく、仰々しいお詫びひとつで、これまでの虐殺戦争を許せだなどと――。
私は、ここで少しでも魔王さまの溜飲を下げていただけるように、国王を問い詰めようと思っていたのに。
「国王、勝手な真似をなさっては困りますな。まだこれは、顔を合わせただけにございますぞ」
そこにウレインがすかさず、私の気持ちを代弁するように言ってくれた。
「そっ、そうです! お優しい方だと思っていたのに、そのやり方は卑怯なのでは!」
「サラ。やめるんだ」
魔王さまは左腕で、前に出かねない勢いだった私を制した。
「聖女様の仰る通りです、国王。和平のためにと赴いてくださった魔王様に、恐れるあまりとはいえ、それでは話がこじれましょう」
ウレインはあくまで、中立の立場を示しているように見えるけれど……。
「すまぬ。確かに、魔王を見てその覇気に、命が惜しいと思ってしまった。失礼をした。今のは忘れて頂きたい」
それならば、一応は魔王さまの言も無かったことになるから、構わないけれど。
どこか、芝居でも見ているかのような、そんな疑いを持ってしまう。
ウレインは転生者とはいえ、人間だから、国王を庇うために予めそうしようと、二人で決めていたのではないかと。
「構わん。どうせ許す事にせねば、和平にはならんのだからな」
その言葉を聞いて、私は魔王さまの腕に寄り添った。
その深い慈悲に――それでも痛むはずの心を、少しでもお支えしたくて。