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それから、二人は何度か会うようになった。
最初は偶然だった。
駅前のコンビニ。
昼休みのカフェ。
帰り道の交差点。
「……あ」
先に気づくのは、だいたいラグドだった。
「yじゃ〜ん!」
声をかけられるたびに、
yは一瞬だけ立ち止まる。
….世界は、
こんなにも簡単に再会を用意するものだっただろうか。
「また逆方向行こうとしてたでしょ」
yが言うと、
ラグドは笑う。
「バレた!」
悪びれる様子はない。
「だってさ、
こっち行けって思ったんだもん!」
「思っただけで歩くな」
「えー!」
軽口を叩きながら、
二人は並んで歩く。
⸻
ラグドは、
本当によく笑った。
甘いものを見つけると立ち止まり、
変な看板を見つけると写真を撮り、
道に迷っても楽しそうだった。
「ほら見て!」
自販機の前で、
見たこともない味のなんだか怪しい ジュースを指差す。
「これ絶対おいしいやつ!」
「……やめとけ」
「なんで!?」
「…..名前が危険」
「名前で判断するのよくないよ!」
そう言いながら、
結局ラグドは買う。
そして一口飲んで、
顔をしかめる。
「……おえっ….まず」
「ほらな」
「でもさ!」
ラグドはすぐに笑う。
「話のネタにはなった!」
その切り替えの早さに、
yは言葉を失う。
⸻
ある日、
二人は駅前のベンチに並んで座っていた。
夕方。
人通りは多い。
「ねえ」
ラグドが言う。
「yってさ、
なんでそんなに周り見てるの?」
「……癖」
「疲れない?」
yは少し考えた。
「疲れる」
「じゃあやめればいいのに」
「やめたら、 気づいちゃいけないことに気づく」
ラグドは一瞬、黙る。
でもすぐに言った。
「そっか!」
否定しない。
肯定もしない。
ただ、受け取る。
「でもさ」
ラグドは空を見上げる。
「気づいちゃったなら、
それでいいんじゃない?」
「……は?」
「気づいた上で、
どうするか決めればいいんだよ」
yは思う。
——簡単に言う。
でも、
こいつは本気で言っている。
⸻
yは、
ラグドといると
“ズレ”が目立つことに気づいた。
ニュースの数字。
看板の表記。
人の証言。
一つ一つは小さい。
でも、
ラグドはそれを見ても動じない。
「まぁ、 世界って適当なとこあるよね!」
そう言って、
次の話題に移る。
yは、
それが理解できなかった。
なぜ、
こんなにも嘘っぽい世界で…..
そんなに真っ直ぐでいられる?
⸻
帰り道。
突然、停電が起きた。
街灯が消え、
信号が止まる。
人々がざわつく中、
ラグドは落ち着いていた。
「おー、真っ暗!」
笑いながら言う。
yは周囲を見渡す。
「……おかしい」
「なにが?」
「停電の範囲が、
地図と合わない」
ラグドは懐中電灯代わりに
スマホのライトをつけながら言った。
「へー!」
興味はあるが、
深追いはしない。
「じゃあさ」
ラグドは笑う。
「今のうちに、
近道で帰ろ!」
「……その“近道”、
たぶん遠回り」
「えー!」
それでも、
二人は一緒に歩く。
⸻
その夜、
yは気づいてしまった。
ラグドといる時、
世界の嘘が
少しだけ目立たなくなることに。
消えるわけじゃない。
でも、
致命的じゃなくなる。
ここなら、
まだ壊さなくていい。
そんな考えが、
頭をよぎった。
それが、
一番危険だった。
⸻
別れ際、
ラグドは言った。
「ねえ、今度さ」
「ん?」
「うち、来ない?」
yは立ち止まる。
「……なんで」
「なんとなく!」
悪気はない。
深い意味もない。
ただ、
一緒にいたいだけ。
yは、
自分の中で何かが
揺れるのを感じた。
世界の嘘。
歪み。
違和感。
それでも。
「……少しだけ」
そう答えてしまった。
ラグドは、
満面の笑みを浮かべる。
「やった!」
___この選択が、
取り返しのつかない分岐だと、
yはまだ知らない。