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暗くて、長く続く廊下。
「はは…マジで着いちまった…」
佐久間は、8人は我ながら驚いていた。
深澤の元へ行くことを決意した結果、本当にたどり着いてしまったのだ。
勢いだけで、直感だけでたどり着いてしまった。
どうやってきたかなんて誰も分からない。
「ここ、絶対なんかあるよね。」
目黒が警戒しながら呟く。
「終わりのない廊下ってことだよな。」
渡辺も違和感を口にする。
先程からずっと歩いているが、出口も行き止まりも分かれ道も何もない。
「条件付きってことだよね…」
「でも、何かあるわけでもないし….」
岩本と宮舘が首を傾けながら周りを見渡す。「俺らのこと、近づけたくないんやろーね。」
向井が周りを見渡しながら、何も考えずに発言する。
その発言に阿部が反応する。
「….近づけたくない…?」
「阿部ちゃん?どうしたの?」
なにかに気づいたであろう、動きを止めた阿部に目黒が気づく。
「あいつの能力は洗脳なのに?洗脳してるんだったら問題ないんじゃない?それこそふっかの俺らの記憶なんて消しちゃえばいい話だし…」
阿部が疑問に思ったこと。
そして、それは小さな希望。
「まだ、ふっかさんは完全に堕ちてない….!」
ラウールが瞳を大きく開いて言う。
その一言で、さらに希望が高まる。
そこからしばらく歩いてはいるが….
「ほんとに、終わりがないな…」
渡辺が歩き疲れ始め、少し息も上がっている。
ここに来て、数十分歩き続けている。
「条件がなんなのかわかんないとね…」
阿部も疲れ気味に呟く。
「….条件….」
1度立ち止まり、条件について考えてみることにする。
「…..大烏は?」
岩本がぽつりと言う。
「そうやん!あの子もここにおるはずやん!」
向井がすぐに反応する。
2人の言う通り、大烏は先にここに向かっていたはず。
なら、ここにいるのでは?
バサッバサッ
すると、前から小さな羽音が聞こえてくる。
「…..っ!」
まさしく、目の前にいるのは….
〖カァァ!〗
大烏だった。
「….待ってて、くれたの?」
烏は真っ先に岩本の肩に乗る。
その様子を見て、8人は察する。
大烏は、決して自分たちが間に合わないから自身だけで深澤の元へ行った訳ではなかった。
8人を、深澤を救う道へ導いていたのだ。
「….ふっかに似て、頭がいいんだな…」
岩本は軽く烏の嘴を撫でる。
烏は気持ちよさそうに目を瞑る。
そして、岩本の肩から離れ
〖カァァァァァ!!〗
と大きく鳴く。
息が詰まるような、圧のある鳴き声。
思わず怯んでしまう。
すると、みるみるうちに普通の烏から、
“伝説の大烏”へと姿を変える。
「…..そういう事か..!」
「これで!」
阿部とラウールがすぐさま烏の行動の意味を理解する。
大烏に姿を変えてすぐに、地面が揺れ始める。
「え?何!?」
まだ理解のできてないメンバーは、急に崩壊し始める廊下の景色に困惑する。
そして、世界が白一色に染まる。
「…….?」
眩しさに閉じていた瞳を開ける。
先程まで真っ白に染まっていた世界は、とても暗い場所に変わっていた。
そして恐ろしいほど静かな場所。
「….ここ…」
佐久間は驚きで目を見開く。
「俺が、見た景色だ…」
「….ってことは、ふっかの中…?」
この暗い空間は、佐久間が深澤の心の中を見た景色とほとんど同じだったのだ。
「ここに、ふっかがいるんだな…?」
〖カァ〗
岩本は、普通の姿に戻り、肩の上に乗る烏に問いかける。
烏は小さく首を縦に振り、肯定する。
ここに深澤がいる。
なら、あの男もいるのだ。
冷たい汗が背中を伝う感覚がする。
緊張した空気が流れる。
「とりあえず、先に進もう。」
ラウールが、周りに呼びかける。
その言葉にメンバーは頷く。
「ふっかのいるところはわかるの?」
宮舘が烏に問いかける。
〖コクコク〗
烏は首を縦に2つ振ると、羽を広げて8人を案内するように前を飛ぶ。
「道案内は任せろってことやな。」
「…..行こう。」
向井と岩本の発言で、また歩き始める。
「……まさか、あの空間を突破するなんて…..。くははは、面白い。」
さらに暗い、最深部。
そこに立つのはフードの男。
「あの空間を突破できるのは、”伝説の大烏”だけ。ついに、ついに大烏がここに来たか….」
ついに、待ちに待った夢を叶える最後の道具、
伝説の大烏が姿を現したのだ。
「これで、私の夢が叶う….!」
男は興奮していた。
ついに、自分の理想の世界が完成するのだ。
「………」
そして、男の隣。
ぽつりと置かれた椅子の上に座る影。
深澤は、静かにどこを見ているのか分からない、うつろな瞳のまま動かない。
すっかり感情が抜け落ち、静かに椅子に座っている様子は、まるで…..
「ふふ。ふっか、あと少しだよ。」
「……..」
「あと少しで、私の理想の世界が完成する。」
「……..」
「ふっかがいなかったら、完成しなかった。」
「……..俺、が……」
「そうだよ。ふっかのおかげだ。」
「俺の…..おか、げ……」
「ふっかは、初めて”誰かの役に立てた”んだよ。」
男は、優しく、何よりも冷たい笑顔で深澤に笑いかける。
「……..」
深澤からの反応はない。
「…..ふぅ….ふっか、笑って?」
「……..ニコ」
男の”命令”で、うつろな瞳のまま、温度のない笑顔を貼り付ける。
「そう。そろそろ出番だ。行くよ。立って。」
「スッ」
男に言われるまま、深澤は無駄のない動きで立ち上がる。
「ふふ、ふっかはいい子だねぇ….」
男の声は、とても優しい。
だからこそ、何よりも冷たかった。
「…….」
だが、そんなこと深澤には知ったことでは無い。
男の命令通りに動けば甘い言葉をかけて貰えるのだ。
もう、何も考えなくていい。
命令通り動けばいいだけ。
まるで、マリオネットのようだ。
〖カァ!〗
「次はこっち!?」
烏に道案内を任せた8人だが….
「てか、ここ広すぎんだろ!?全然たどり着けねーよ!」
渡辺がついに不満を漏らす。
渡辺の言う通りだ。
この空間は暗い上に、ありえないほど広い。
それに、周りには何も無く、暗闇がどこへ行っても続いていた。
広すぎるせいで削られる体力と、終わりの無い暗闇で精神的にも削られる世界。
他のメンバーも、少しずつ限界へ近づいている。
そんな中でも…..
「大丈夫だって!烏はちゃんとふっかのいる場所がわかってんだから!」
「ふっかは、ずっとこの空間で耐えてきたんだ。」
佐久間と岩本は、調子を崩さずに歩き続けている。
佐久間は、1度この空間に来たことがあるため、ある程度の耐性がついているようだ。
岩本は、今は何よりも深澤のことを考え、こんなとこでへこたれる訳にはいかないのだ。
それに、6人も足を止めているわけではない。
文句や不満を呟きながらも、”歩き続けている”。
早く、深澤の元へたどり着くために….
〖……カァァ!!〗
すると、唐突に烏は羽を広げ、何も無い暗闇に威嚇をする。
「…..っ….!」
その様子を見て、8人も気づく。
目の前には、暗闇が広がっている。
だが、”たしかにそこにいる”。
大きな気配を持つなにか。
この気配の正体を、自分たちは知っている。
「まさか、ここまで来るとは思わなかったな。見事だね。」
拍手をしながら現れたのは、フードの男。
そして…..
「……….」
「っ!ふっか!!」
少し後ろから、フラフラと歩いてきた深澤。
だが、深澤はなんの感情も持たない表情を浮かべていた。
8人と大烏が来たことなど気づいていないのだろう。
うつろな瞳には何も映しておらず、ただ男の後ろに立っているだけ。
「…..ってめぇ…..」
「ぜってぇ許さねぇ……!」
そんな深澤の様子を見て、怒りを抑えられない。
だが、感情に任せて攻撃はしない。
今すぐ飛びかかりたい気持ちを、何とか抑える目黒と渡辺。
作戦会議の時に話したこと。
“怒りの感情に任せて攻撃しないこと”
これを提案したのは阿部だった。
『ごめん。無理かも。』
阿部の提案に、真っ先に目黒が無理だと言う。
『俺も、抑えられない気がする。』
渡辺も手を挙げて、目黒に同意。
『俺も無理かもなぁ….それこそ深澤が何を感じてたか知っちゃってるわけだし。』
佐久間も苦笑いを浮かべながら呟く。
『ダメ。これだけは全員守ってもらう。』
阿部はバッサリと3人の意見を切り捨てる。
『わかってると思うけど相手は格上だよ。多分、感情任せの攻撃じゃすぐにこっちがやられる。』
阿部は真剣な表情で言う。
『だから、いつだって冷静に….いや、それは無理だね。俺だってできないよ。….でも、絶対に1人で行こうとしないで。』
『阿部の言う通りだね。感情は抑えなくていいよ。でも、絶対に突っ走らないこと。わかった?』
岩本が、3人を中心に周りを見渡す。
『まぁ、そうだよな。うん、頑張るよ。』
『”口撃”はいいんだな?』
『これもふっかのためだしな!』
3人もしっかりと同意をして、これは絶対のルールとなったのだ。
「それにしても…..まさか大烏が主人以外の人間と手を組むなんて…..興味が湧くなぁ….」
男は、もう8人など見えてないかのように、烏だけに視線を向ける。
〖….〗
烏は、静かに岩本の肩の上に乗る。
その様子を面白そうに見つめ、男は少し後ろに立っている深澤を自分の隣に促し、
「ほら、ふっか。見えてるかな?みんながふっかのことを”奪いに来た”みたいだ。」
「……..」
少し俯き気味の深澤の顔を無理やり上げて、8人が視界に入るようにする。
だが、深澤の視界には映っているが、認識ができないため、反応はない。
「…….っ…..」
そんな深澤を見て、岩本は悔しさと怒りで拳を震わせる。
〖スリスリ〗
「…..!」
拳の震えが、肩まで伝わったのだろうか?
烏はまるで、落ち着け、と言うように岩本の頬に頭を擦り付けてくる。
(そうだ。落ち着け。)
岩本は、すぐに冷静を取り戻す。
そして、烏と深澤を交互に見つめ
「…..やっぱり、ふっかそっくりだよ。」
小さく笑いながら呟く。
(俺が焦ってる時は、いつもふっかが止めてくれてた。)