翌日の朝、ヒスイは痛む頭を抑えながら目を覚ました。
机上の蝋燭の火はとっくに消えていて、溶けたろうが机にこびりついている。
せっかく買った蝋燭が、小さくなってしまった。
差し込む陽光に目を細めて、人通りの多くなった路地を睨む。
現在の時刻は、朝の十時。
アイラちゃんとの約束にはまだ時間があるな。
今まで、アイラちゃんと話す時には、必ず誰かが隣にいた。
でも、今回は違う、二人っきりだ。
彼女を疑いたくはないけれど、どうしても不安だ。
誰か、一緒に来てくれるような人は居ないだろうか。
信用があって、頼りになるような誰かは。
「あ、ハルカ。」
アイラちゃんとの一件以来、少し距離を感じてしまった彼だけれど、私が困っている時いつも助けてくれたのはハルカだった。
ハルカならきっと手を貸してくれる。
アイラちゃんと言葉を交わして、彼女の言葉に耳を傾け、そして和解する。
今までも同じように解決してきた、きっと大丈夫だ。
机に置いてある固定電話の受話器を耳に当て、ハルカの家の番号をダイヤルで入力する。
「ハルカ、聞こえる? ヒスイだよ。」
返事は来ない。
「朝早くからごめんね、少し付き合って欲しい用事があるんだ。」
相変わらず、ハルカからの返事はなかった。
受話器からは、彼の声どころか、生活音も聞こえてこない。
朝から急ぎの用でもあったのだろうか。
小さくため息をついて、そっと受話器を降ろした。
ハルカも頼れないとなると、次は誰だろう。
腹を割って話せるような、そんな人。
強くて、頼りになる。
頭に、一人の人物が思い浮かんだ。
少し抵抗はあるけれど、頼れるのは彼女だけ、だと思う。
息を大きく吸い込み、受話器を再び耳に当てる。
「もしもし? トウカちゃん?」
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