TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

賞味期限切れ

一覧ページ

「賞味期限切れ」のメインビジュアル

賞味期限切れ

69 - 第69話 偶然の再会か?

♥

39

2025年03月29日

シェアするシェアする
報告する

◻︎偶然?



「雪平さんの事情、知りませんでした」


雪平を紹介してくれた瑞浪みずなみも、そんなことは言ってなかったからだ。


「言えませんよ、男はプライドが高い生き物ですから、そのことを理由に女性を誘って甘えてるように見えるのは、不本意ですから」


言われてみればそうかもしれない。

この人、家庭が複雑だから相手してやって!なんて紹介されたら逆に逃げたくなる。

悩んでいたり不幸だと思い込んでる人の近くにいると、こちらまで感情をそっちに持っていかれそうな気がするからだ。


「男性でもそんなふうにおっしゃる方がいるんですね。少し安心しました。ただのわがままだと怒られるかと思ってました。離婚してからすぐ夫は再婚したそうですが、3年もしないうちに倒れて亡くなったそうです。最期を看取ったのはその再婚相手で。その話を聞いた時、私だけが一人ぼっちだと痛感して、だから余計にあの人に会いたくなっていたのかもしれません」


まだスマホを抱きしめている。


「お相手の方も、会いたくなったのかもしれませんね。“じゃあ、また”ってその言葉を信じてみるのはどうですか?もしかしたらまた会えるかもしれないし。たとえば偶然にでも。そうしたら、一人ぼっちじゃないと思えるし」

「そう…ですね、もしかしたら?ですね。そうすれば明日が来ることが楽しみになりそうですね」


遠くから、夕方5時を知らせる電子音の“夕焼け小焼け”が聞こえてきた。


「まぁっ、もうこんな時間!ごめんなさい、長々と付き合わせてしまって。話を聞いてくださってありがとうございました。久しぶりにたくさんおしゃべりをして、気持ちが軽くなりました」


ぺこりと頭を下げる。


「こちらこそ、ありがとうございました」

「お二人、とてもお似合いですから、末永く続きますように祈ってますね」

「はい」


じゃあと、手を振って帰っていく。

もう一度振り返った里子を見送っていたら、そっと雪平さんに抱きしめられた。


「え?どうしたんですか?雪平さん」

「家庭がどうとか、そんなことは関係ありません。僕はただ美和子さんのことが好きになった、それだけです」


耳元で囁くような雪平さん。


「はい、ありがとうございます」


私も雪平さんの背中に手をまわす。

それぞれの家庭の話などほとんどしたことがない。

それは二人にとっては知らない方がいいだろうし、関係ないことだとお互いに思っていたから。


高校生らしい自転車が、二人の脇を通り過ぎようとして慌てて回していた手を離した。


「もしも。もしもずっと将来の話ですが、歳をとって病気になったり認知症になったりしたら、僕はすぐに美和子さんに話します。そしてそれを最後にします。だから、美和子さんもそうしてください。それが二人の約束にしてください」


最後はそうなるのだろうと、どこかで予想はしてた。

でも、ずっと将来だと雪平さんは言う。

もしかしたらそれは明日かもしれないけれど、ずっと将来だと思っていた方が気が休まる。


「わかりました、約束します」


顔を見合わせて、微笑み合う。


「行きましょうか?」

「そうですね」


二人で里子とは反対方向に歩き出した時、ゆっくりと近づいてくる車があった。

それは、二人のすぐ横に停まって助手席の窓がゆっくり開いた。


「あの、すみません、お聞きしたいことが…」


白髪頭のおじいさんが話しかけてきた。


「ここに俺と同じくらいの女、いませんでしたか?」

「え?どんな?」

「すらっとしてて、多分、髪は短くて背は高めの」


私は雪平さんと顔を見合わせた。


_____もしかして?



「もしかしたら、さっきまでここにいた人かも?」

「どっちへ行きました?」

「あっちへ歩いて行きましたよ」

「そうか…あっちか。いや、ありがとう」

「どういたしまして」


車はそのまま私たちの横を通り過ぎて、里子が帰って行った方へ走って行った。


「ね、あの人ってもしかして…?そうだよね?」

「うん、僕もそう思う。約束したわけじゃないみたいだけどね」

「偶然かな?」


私はまるで自分のことのようにワクワクしていた。


「お互いが会いたいと強く願っていたのかも?それが通じたとか?」

「20年も愛し合ったのなら、そんなふうに気持ちが通じてることもありそうですね。里子散に追いつけるかな?」

「追いついて欲しいですね。そして話をして欲しいです。この10年、どんなふうに過ごしていたのか」

「そうですね、すれ違ったままだと悲しいですもんね」


私は自分と雪平さんだったら?と考えていた。

雪平参加は、歩き出す私の肩をまたそっと抱き寄せた。


「どうしたんですか?雪平さん」

「…どうしたんでしょうか、自分でもわかりません」

「え…?」


そのまま歩いた。

もう夕暮れ時で、すれ違う人の顔も分かりにくい時間だ。

私はそっと頭を寄せる。


ぴこん🎶


「あ、私のスマホ?」


ポケットからスマホを取り出し、通知を見た。


《みんなで晩ご飯食べに行こうって、お父さんと聖が言ってるよ》


遥那からのLINEだった。

今日は珍しく家族が揃う日らしい。


_____帰らないと。帰りたくないけど


了解!スタンプを送っておく。


「そろそろ帰らないといけないみたいです」

「そうですか。では、また…また会ってくれますよね?」

「もちろんですよ。また会ってください」

「里子さんの話を聞いたらなんだか、センチメンタルな気分になってしまって。らしくないですね」


はにかんだような雪平さんの仕草が、可愛くて愛しかった。


「そうですね、私もちょっと考えちゃいました、将来のこととか。でも、まだまだ先のことですよ。それまでどうぞよろしくお願いします」

「はい。あ、もう少し先のパーキングに車をとめてあるから、そこまで一緒に」

「私も多分同じところにとめてます」


パーキングに向かって歩いていたら、またクルマが横にとまった。


「さっきは、ありがとうございました」


里子のことを尋ねたおじいさん、いや男性と言わないと失礼かな…だった。


「探してた女、いました。でも、今日はそんな気分じゃないとかで、追い返されてしまいました。また改めて待ち合わせするつもりです。じゃ!」


それだけ言うと行ってしまった。


「そんな気分じゃないって、里子さんらしいね」

「そうですね、きっと、会うのならばお洒落もしてデートみたいに会いたいんでしょうね」

「10年越しですからね」


待ち合わせて話をしたとして、あの二人がこれから先どんなふうになるのかわからない。

でも、人生を終わりから逆算してしまう年齢になったら、後悔はしたくないなぁと、並んで歩く雪平さんを見て思った。











この作品はいかがでしたか?

39

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚