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私は誇り高きブルースター家の現当主、マリア・ブルースター。
代々続く名門の血を引き、夜の世界を統べる者としての威厳を背負っている。この屋敷の空気は、いつだって静謐で、重厚で、そして私にふさわしい。
今日も私は、人間の生き血を……
「お嬢様っ!」
「……サラ……」
突然、廊下の向こうからドタドタと足音が響き、勢いよく扉が開いた。静寂を切り裂くように飛び込んできたのは、我が家のメイド長、サラ・スノードロップ。
……私の言葉を遮ったわね……?
この荘厳な雰囲気を返してほしいものだわ。
サラは床に跪き、胸に手を当てて元気いっぱいに名乗る。
「はい! サラ・スノードロップにございます!」
「サラ、あのさ」
「マリアお嬢様、毎度毎度、私を声を張り上げて呼ぶのは大変ですよね?」
……また遮った。この女、私が話し終えるまで待つという概念がないのかしら。
「あの、私の言葉……」
「それで、私、天才的なことを思いついてしまったのです!」
「あらそう……」
堂々と自画自賛するのね。まあ、サラらしいと言えばサラらしいけれど。
「このベルなのですが! これを押してくだされば、私すぐに飛んでまいり……」
「いや、ちょっ、待ちなさいよ!」
「……なにか?」
サラが誇らしげに差し出したのは、銀でコーティングされた卓上ベル。押せばチーンと鳴る、あのタイプ。しかし、目に入った瞬間、私は背筋に冷たいものが走った。
「これ、なんなのよ!」
「……あ、申し訳ございません。ダサいですよね……」
「そこじゃないわよ! そうだけど。ヴァンパイアは銀に弱いの!」
「そうなんですか……知りませんでした」
「知っときなさいよ、それくらい……。貴方、ヴァンパイアハンターなんでしょう?」
サラはメイド長でありながら、ヴァンパイアハンターでもある。ただし、致命的に知識が足りない。そのせいで、私と暮らしながら弱点を探り、ついでに殺そうとしているらしい。本当に殺す気があるのかは正直疑わしい。ただ、私にとってもサラが住み込みのメイド長としていていくれることに利点もあるし、妙に憎めないところもあるから、特に追い出す気も何か口出す気もないのだけれど。
「それに、ワーウルフにとっても苦手なものよ。我が家の門番、メイラが間違えて触ってでもしたらどうするのよ!」
「申し訳ございません、お嬢様」
私は卓上ベルを指差し、ため息をつく。
「……これ、一体いくらしたの?」
「約五千円でございます!」
「たっか! こんなものにそれだけの金額かけるとか……馬鹿じゃないの?」
「でも、お嬢様の持ち金と比べりゃほんのこれっぽっちも無いですよ」
「私の所持金から支出したの? 貴女!」
「はい!」
いや、「はい」じゃないのよ……。そんな元気よく返事されても困るだけなのよね。
「まったく……。ベルの金額は貴女の給料から差し引いておくわ。それだけ高いなら、使わないのももったいないし、売りにでも出したらどう?」
「嫌です!」
嫌なんだ……。使い道がないというのに嫌なんだ。サラの価値観は、時々本当に理解できない。
「わかりました、そのベルが使えないのなら、こちらではどうでしょうか」
サラが取り出したのは――
「……なんで自転車のベルなのよ」
「なんとなくです」
「なんとなくで買うんじゃないわよ!」
本当に、どういう思考回路をしているのかしら。この屋敷に自転車なんて一台もないのに。そんなもの使わなくとも、私も妹も自分の翼で飛べるし、門番は体力があるから使わないし、サラは……まあ、乗らないし。
「で、こっちはいくらしたのかしら」
「約五千円です!」
「たっか! 千円以下のものもあったでしょ!? なんでわざわざ高いものを……」
サラは胸を張って言う。
「お嬢様の持ち金から差し引いたまでです!」
「じゃあ給料から差し引いておくわね」
「大丈夫です! まだ日給二万円が残っておりますので」
「そういう問題じゃないのよ……」
確かにサラの日給は三万円だけれども。サラはまた何かを取り出す。……まさか、まだあるの?なんで一度の買い物でそんなに必要になるのかもと思えるのかしら。なんで買おうと思えるのかしら。
「では、こちらのベルはいかがでしょう?」
クリスマスの飾りでよく見る、あの金色のベル。手に持って振るタイプで、確かに銀は使われていなさそうに見える。
「こちらは銀など入っておりませんので、安心してお使いになられるかと!」
「そう……じゃあ貰っておくわ。……で、これは」
「はい、五千円にございます!」