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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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もう会うことはないと思っていたのに、いったいなんの用だろう…。

もしかして、ドジで残業ばかりのわたしを見かねて、上司として指導を入れるとか?残ってエクセル操作の勉強をしろって命じるとか?

ああ…もしそうなら情けない。小学生じゃないんだから…。

エレベーターは使わず、開発部のある三階へはのろのろ階段でむかった。

開発部は新製品の開発だけでなく、その改良やユーザーサポートなども行っていて、同フロアにある営業部と企画、改善などで連携をとっている。

我が社の未来を担う部門がそろった三階はまさに花形フロアで、「他は以前の内装のままなのに、三階だけはカーペットもパーテーションも新しくて特別扱いだ」っていつも先輩たちが文句言ってたっけな。

このフロアだけは普段でも残業する社員が多くて、いつも数名は残っていることがあるみたいだけど、今日は真っ暗だった。

わたしが今向かっている特別開発課は、このフロアの奥に用意されていた。

このたび遊佐課長が配属になって急遽つくられたスペースだけれど、重要機密の宝庫のため天井までパーテーションで仕切られていて、窓ガラスはすりガラスになっていた。

そして今は、真っ暗な中にその部屋だけが煌々と灯りが点いていた。

あそこに遊佐課長…がいるんだ…。

大きく息を吸って吐いて、気休めに緊張をほぐすと特別開発課のドアをノックした。

「失礼します…」

震えた小さな声を掛けたけれど、返事なし。

もう一度同じく繰り返したけれど、沈黙。

…いないのかな。

このまま帰っちゃおうか、と思ったけど、さっきもらったカードキーを思い出して、おそるおそるかざしてみた。

ピッ

…空いちゃった。

つまり、勝手に入っていいってこと…なのかな。

ある意味社長室より重要な場所なのに、いいのかなぁ…??

とにかく、そっとドアをあけた。

「…失礼します」

ちょっと拍子抜けした。

特別開発課なんて銘打っているから、てっきり映画に出てくるような最新鋭の機器に囲まれたハイテク部屋を想像していたんだけれど、全然ちがった。普通のオフィスだった。

それでも、若い課長の仕様だけあってか、スタイリッシュな感じはする。

部屋の奥には広々としたL字型のデスクがあってパソコンが設置されている。

その前には白のソファに斬新なデザインのテーブル、大型テレビまであって、壁際に用意されたドリンクコーナーには流行のコーヒーメーカーまで置いている…さすがホープの部屋って感じのいたれりつくせりぶりだ。

けれども、肝心な課長はいなかった。

どこにいったんだろう。

決して広くはない部屋にキョロキョロしながら踏み入れる…すると、音が聞こえてきた。

すーすー…

寝息…?と思って、ぎょっとなった。

遊佐課長がソファで寝ていたから。

ちょっとネクタイを寛げたYシャツ姿で、けっこう深く寝てる…って…

思わず、見惚れてしまった。

きれいすぎ。

よく美女の寝顔を眠り姫とかに例えるけど、彼もその王子様版って感じ…。

ハーフならではの白い肌に、高くて筋の通った鼻梁。

細いあごからのびる首筋は、対称的に男らしくて…寛げたシャツの間から鎖骨が見える…

って!

もう、なに見惚れちゃってるんだろ、わたし!

でも、本当にきれいな人。

朝はきちんとセットしていた前髪が、無造作に鼻にかかっているのが色っぽい…。

…きっと小さい頃は天使みたいだったろうな。

ご両親は目に入れても痛くないってくらい可愛がっただろう。

美男美女のご両親に囲まれた、絵に描いたように幸せな家族の光景が思い浮かぶ。

白いセーターを着ていた昨日は、まだちょっと若者くささがあって、わたしと同じ年くらいなのかなって思ったけど、歳はたしか26歳だったはず。(先輩が言っていた)

朝会った時は、緊張するくらい大人びていて、昨晩とは別人みたいだった。

ふんわりしていると思えば、近づき難い雰囲気に感じたり…。

不思議な人だなぁ。

それにしても。

この状況、どうすればいいだろう。

うたた寝レベルを超えて目覚める気配はゼロだ。

起こすべき?

うーん、でも疲れてるのかなぁ。

やっぱり時差呆けがきてるんだな。

今日は一日中挨拶回りや打ち合わせに動き回ってみたいだし(先輩情報)。

でも…人を呼び出しておいてなんだかなぁ。

昨晩はわたしのことバカにしたくせに。

「…自分だって居眠りこいてるじゃない」

「ん…」

わたしのぼやきに「うるさないなぁ」と言わんばかりに、課長が寝返りをうった。

衝撃でソファの背もたれにかかっていたジャケットが、ずると落ちてきた。

そのままじゃ、しわになっちゃう。

仕方ないなぁ、と近づいて上着を取ろうとした。

けど、幅のあるソファで手が届かない。

背もたれにそっと片手をついて、もう片手で上着を取ろうとした。

その時だった。

ぱちり

突然まぶたが開いて、あのキャラメル色の瞳が、まっすぐにわたしを見た。

「…寝込みを襲おうとするなんて、大胆だね」

君に恋の残業を命ずる

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