テラーノベル
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「おお!さっちゃんの婿殿やないか!」
その時突然、ジンの横で大型トラックが停車し、二階建てほど高さのある運転席から一人の男性が降りて来た
「朝から元気やなぁ! さすが若いもんは違うわ!」
「あ、おはようございます」
ジンは立ち止まり、ぴったりと脇に両手を揃え、直立不動で会釈をした
ワハハハ!「昨日は伯父貴にしこたま飲まされたのに、走っとんのか? ええこっちゃ!健康第一やで!」
「はい」
―どうしよう・・・名前がわからない・・・顔は昨日の宴で見覚えがあるな―
男性はジンにそう言うと、満面の笑みで近づいてきた、そして、いきなりジンの手にビニール袋の何かを握らせた
「これ、今朝獲れたてのシラスや、さっちゃんの好物やからな、持って帰ったりぃ」
「え?で・・・でも・・・」
ワハハハッ「ええからええから!!遠慮せんでええんやで、今から九州までこれを届けにひとっ走りや!」
「ありがとうございます、お気をつけて!」
そう言って男性はジンの肩を力強く叩くと、満足そうに去っていった、ジンは手に残されたドッヂボールほどの大きさに空気を入れられてパンパンに膨らんだ重いビニール袋を見つめた
透明な水の中で銀色に光るシラスが躍っている、トラックが去った方角に向かって、ジンはまた直立不動でお辞儀をした、再び走り出そうとしたその時、今度は別の方向から声がかかった
「あら~!ジンさんやないの!」
今度は昨夜桜の隣に座っていた伯母さんだった、この人は知っている、エプロン姿で長いゴム手袋をしている
「すいぶん早起きなのねぇ~!昨日酔い潰れた男衆はまだ寝ているのに、でもね、もうすぐしたらここは日差しが強よなるんよ!これかぶって行きぃ!」
そう言うと、伯母さんは自分がかぶっていた麦わら帽子をさっとジンの頭に乗せた
「え、でも・・・」
「ええのよ、ええのよ! あんた色白やから、すぐ焼けてまうと色男がだいなしやで!」
伯母さんはニコニコしながら、ジンの顎の下で帽子の紐を括った
「ありがとうございます」
伯母さんは満足そうに頷くと、「頑張ってな!」と手を振って去っていった、ジンは麦わら帽子とシラスの袋を持ったまま、再び走り出した
しかし、港沿いの道を進むごとに、次々と桜の親戚たちが現れた
「おお、山田の婿さん!!これ、うちの畑で採れた玉ねぎや!!甘くて美味いで、こうやって持って帰ったらええ!」
気づけば、腰に紐で括られた立派な玉ねぎが10個ぶら下げられていた
「あらぁ~!クラちゃんの婿さんやないかえ?これ持って行きぃ!」
次に出会ったオバサンは立派な鯵の干物を10匹括りつけた釣竿を手渡された
「あ、いや、走ってるの・・・で・・・」
「ええから、ええから! 釣竿は後で山田旅館に取りに行くからな!」
「さくちゃんの婿さ~ん!うちで採れたトマト、めっちゃ甘いで!」
次から次へと、温かい笑顔とともに手渡される土産物、気づけば、ジンの両手は荷物でいっぱいになり、腰には玉ねぎ、頭には麦わら帽子、片手には干物がぶら下がった釣竿、もう片方の手にはシラス、干物、トマトの入った袋、そして両手いっぱいに何かわからない貰い物、もはや、ランニングどころではなかった
港の堤防に腰を下ろし、ジンは自分の姿を見下ろした、滑稽だ、大阪では「堅ブツCEO」と恐れられ、スーツを着こなし、冷静沈着にビジネスを動かしていた自分が、今は麦わら帽子に玉ねぎをぶら下げ、釣竿を担いでいる、まるでわらしべ長者だ、今のジンは島のみんなから桜への貢ぎ物でいっぱいだった
ボソッ「・・・どうしよう・・・これ以上走れなくなってしまった・・・一旦・・・置きに帰るか・・・」
ジンは呟いた、海風が頬を撫でて波の音が優しく響く、この島の人はみんな、本当に優しい、偽装結婚だと知らない桜の親戚たちは、心からジンを歓迎してくれた、家族として、仲間として、受け入れてくれたそれは桜がこの島の人に愛されている証拠だった
その時だった、また別の所から自分を呼ぶ声がした
コメント
2件
わらしべ長者ジン😂 皆さんとっても良い方ばかり😊😊 婿殿、大歓迎ムード🙌 ジンさんこりゃ大変だーꉂ🤭︎💕
一夜にして大人気😂 本家の若夫婦に皆の期待がかかってるんだろうな😅 次の方お土産はいいからとりあえず乗せて帰ってあげてください😂🙏